大学・高校での学習実態は
9面記事高大接続システム改革によって、高校教育、大学教育の改善が求められている。学ぶ時間量や指導方法を含めた学びの質、高大の円滑な接続のために高校での学習評価も課題になっている。国立教育政策研究所がまとめた「大学生の学習実態に関する調査研究」中間報告(平成28年3月)、文科省が公表した「平成27年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査」(28年3月)から、その実態を見ると―。
大学
授業と関係ない学びの平均時間 1・2年生で約2・5時間
国研調査から
国立教育政策研究所は全国の国公立の大学・短大に在籍する学生を対象に、大学生の学習実態について調査研究した内容を中間的にまとめた。調査は平成26年11月に実施した。25年度から27年度までのプロジェクト研究の一環。(独)日本学生支援機構が隔年で実施する「学生生活調査」と共同で行っている。
1週間当たりの平均学習時間の内訳を見る。授業への出席時間が、1・2年生共に平均約20時間と多く、3年生になると約16時間に減少、4年生は履修科目数が減ることから約6時間と少ない。専攻分野別の授業への出席時間分布(1・2年生)では、週「21〜25時間」以上の出席が「医・歯・薬」「看護・保健」の学生が6割以上、「理・工・農」「教育・家政」の学生が5割以上、それぞれ占める。半面、「社会科学」の学生は週「21〜25時間」以上の出席が3割程度にとどまった。
大学の授業に対する1週間当たりの予習・復習の平均時間は、1〜3年生はいずれも5時間程度だった。1・2年生では授業への出席時間の4分の1、3年生でも3分の1程度の時間にとどまった。
専攻分野別の1・2年生のみの予習・復習の時間分布は、どの分野でも最頻値は「1〜5時間」。「医・歯・薬」「看護・保健」は授業への出席時間の長さに比例し、予習・復習の時間も長い。「社会科学」では「1〜5時間」以下の学生が8割を占めた。
大学の授業とは関連のない学習の平均時間は、1・2年生では2・5時間、3・4年生は4時間強といったところ。3・4年生で時間が増加するのは、就職活動、大学院入試、資格試験などの準備に取り組む学生が増えるため、としている。また、調査では、大学以外の学習に、ダブルスクール、英会話学校、通信教育講座、独学での学習などを示す。
部活動・サークル活動の平均時間は4・1時間、アルバイトの平均は9・3時間。
このうち、アルバイト時間と学習との関連をクロスさせると、週21時間以上アルバイトをしている学生では、授業の予習・復習の時間が「0時間」という者が多くなるなど、授業出席の妨げにはなっていないものの、予習・復習の時間に影響が表れていると思われると分析した。
1週間当たりの平均学習時間
授業内容教授方法
「小テストやレポート」最多
大学教育での授業改善も喫緊の課題だが、授業内容や教授方法、授業形態の工夫などについて聞いている。
「よくあった」「ある程度あった」の合計した割合が最も高かったのは、「小テストやレポートなどの中間課題が出される」という項目で88・8%に及んだ。中間まとめでは「授業時間以外での学生の学習を促すための方法として、あるいは授業の進度に応じて学生の理解度を確かめる方法として広く浸透している」と記述した。
次いで多かったのが「授業内容の意義や必要性を十分に説明してくれる」77・6%、「理解がしやすいように教え方が工夫されている」74・9%、「グループワークなど学生が参加する機会がある」61・2%などで、グループワークなどによって学生参加を促すなど、アクティブ・ラーニングの拡大も指摘した。
半面、「適切なコメントが付されて課題などの提出物が返却される」(36・7%)や「主に英語で行われる授業(語学は除く)」(36・7%)などの取り組みは低調だった。
学生側の学習に対する取り組み・態度は「なるべく良い成績をとるようにしている」と回答した学生が78・9%(「よくあてはまる」「ある程度あてはまる」の合計)いる一方、「必要な予習や復習をして授業にのぞんでいる」と回答する学生が47・4%(「よくあてはまる」「ある程度あてはまる」の合計)にとどまった。
学生が自分の実力を評価
「幅広い知識、もののみかた」最上位に
大学教育・授業に対する評価を、八つの項目を示してこれまでの授業の経験が役立ったかを聞く形で測った。
全体では、「役立っている」「少し役立っている」の合計が多い項目には「専門分野に関する知識経験」(80・0%)がトップだった。次いで「幅広い知識、もののみかた」(74・4%)、「文献・資料・データを収集する力」(70・2%)、「問題をみつけ、解決方法を考える力」(68・3%)、「ものごとを分析的・批判的に考える力」(67・7%)などが続く。
では、学生自身は、自分の実力をどう自己評価しているだろうか。
「実力が十分ある」「やや十分ある」の合計が、4年生では「幅広い知識、もののみかた」(62・6%)、「問題をみつけ、解決方法を考える力」(60・9%)、「ものごとを分析的・批判的に考える力」(59・3%)が上位3項目。
3年生も上位3項目は4年生と変わらないが、その比率が58・8%、57・6%、56・6%と、やや自己評価は下がる。
2年生になるとさらに比率は下がり、「幅広い知識、もののみかた」でも52・3%が最上位だった。
1年生では上位項目でも4割台。特徴的なのは、「外国語の力」(23・3%)が4年生(18・2%)、3年生(17・7%)、2年生(20・0%)と比べても、自己評価が高かった。
自分の能力に対する自己評価
高校
全日制普通科 AL実施43・9%
文科省調査から
高大接続システム改革を推進する上で、次期学習指導要領改訂での「アクティブ・ラーニング」の導入による指導改善も重要な要素。
高校教育の指導方法改善状況を「アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善に向けた取り組みの実施状況」から見る。
その際、「アクティブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善」として3要素を掲げている。
その一つが「習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置きつつ、深い学びの過程が実現できているかどうか」。また「他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているかどうか」や「子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか」を示した。
こうした要素を含みながら、授業研究、校内研修などを学校全体として実施しているかを聞いた。
「実施している」割合は、全日制では普通科が43・9%で最も割合が高い。次いで、総合学科40・2%、専門学科31・5%の順。
定時制では総合学科41・7%が「実施している」と回答し、普通科21・3%、専門学科18・3%が続く。
半面、「実施していない」のが全日制で専門学科26・4%、総合学科20・3%、普通科17・8%、定時制では普通科38・2%、専門学科37・4%、総合学科27・8%の順で多かった。
また、現行学習指導要領でも求められた言語活動の充実。言語活動に関する校内研修を学校全体として実施しているか(26年度実績)を尋ねた。
調査では「学校全体として実施している場合を想定しており、言語活動を研修の中心として行った場合や、各教科の研修の中で言語活動について扱った場合も含む」として聞いている。
全日制の普通科が36・7%と「実施している」割合が最も高いものの、63・3%が「実施していない」と回答した。
全日制の総合学科や専門学科も「実施している」は3割に達しているが、「実施していない」はそれぞれ65・9%、67・6%あった。
定時制では、「実施していない」割合が専門学科で82・0%、普通科76・3%、総合学科72・2%と高率だった。
アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善に向けた取り組みの実施状況(平成27年度計画)
全日制・観点別学習状況の評価実施校
8割超が「指導計画やシラバスに基準設定」
高大接続システム改革会議最終報告では「従前から観点別に学習状況の評価を行うこととされているが、いまだ定着しているとは言い難く、『学力の3要素』をバランスよく評価し、指導の改善に生かすため、高等学校における観点別学習状況の評価を推進する必要」が指摘されている。
26年度実績の観点別学習状況の評価の実施状況は、「実施できている」のは、全日制で専門学科74・6%、普通科65・8%、総合学科65・2%の順で多い。
同様に、定時制では専門学科61・9%、総合学科61・1%、普通科60・8%の順になった。
「実施できている」と回答した学校に、さらにその中身を問うと、例えば、全日制では「指導計画やシラバスに観点別の評価基準などを設けている」が各学科とも8割を超え、「単元ごと等の日常的な評価と定期テストを合わせて評価を行っている」が各学科とも6割を超えた。
その一方で「定期テストなどにおいて、観点に配慮した出題をしている」は3〜4割台へと減り、「通信簿に観点別学習状況を記録している」はどの学科も1割に達しなかった。
観点別学習状況の評価の実施方法(「実現できている」と回答した学科が対象)