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大学入試改革の動向に熱視線

10面記事

高校

全国セミナー始まる
(株)ナガセ・本社主催

 全国12会場で展開する「大学入試改革先取り対応セミナー〜高大接続改革で何が変わるのか」の皮切りとなる福岡会場(3日)、大阪会場(5日)でのセミナーが相次いで開催された。受講者の関心は高く、両会場ともに「満員」となる盛況ぶりだった。

基調講演
高大の一体改革を強調
伯井 美徳 文部科学省大臣官房審議官(高大接続・初等中等教育局担当)

 文科省の高大接続・初等中等教育局担当、伯井美徳審議官が「高大接続改革について」と題して話し、高校教育改革、大学入学者選抜、大学教育の一体的な改革である点を強調した。
 特に、高校については生徒の学習時間、自尊感情の持ち方、課題解決型の学習などが十分でない点を指摘。成績上位校に教師主導の授業スタイルが多い傾向にあり、グローバル社会で生き抜く人材育成に向け、高大接続改革の中で改善を進めるなどとした。
 今回の改革では「高大接続システム改革会議」で検討が進み、8月中に「基本方向」について中間まとめが提示されれば、高校教育関係者の意見を聞き、最終とりまとめを年内に提言をもらい、具体的な取り組みに着手するなどとした。
 同時に、学習指導要領の見直しも進んでおり、中央教育審議会から平成28年度中に答申されれば、告示・改訂は小学校32年度、中学校33年度、高校が34年度から学年進行で実視する見通しを述べた。

基調講演
世界と渡り合う人材を
松坂 浩史 文部科学省大臣官房文部科学広報官

 文科省大臣官房の松坂浩史・文部科学広報官は、教育を取り巻く日本と世界の状況を比較しながら、高大接続改革の意義について基調講演した。
 少子化が急激に進行し、GDPの順位や世界全体に占める割合が以前よりも大きく低下しつつある日本では、次世代の子どもたちに今まで以上に多くの付加価値をつくり出せる力を身に付けさせることが求められていると指摘する。
 しかし、世界では、アジア諸国が近年高等教育機関を整備して大学進学率などを急上昇させ、年1回行われるフランスのバカロレアでは、生徒の思考力や表現力を問う問題が出題されている。さらに、日本の学生の学修時間は米国の学生よりも圧倒的に短く、米国など海外の大学では知のオープン化も進んでいる。
 こうした状況において、将来の日本の子どもたちが予測不能な社会の変化に柔軟に対応し、諸外国の子どもたちと対等に渡り合っていくためにも、今、大学入試とともに、高校と大学のカリキュラムや指導法、評価方法も含めた大きな改革が重要だと強調した。

講演
37年度選抜が節目に
北岡 龍也 文部科学省高等教育局大学振興課課長補佐

 文科省の高大接続改革プロジェクトチームにも所属する高等教育局の北岡龍也・大学振興課課長補佐は主に大学改革、大学入試改革について講演した。
 大学審議会(当時)の最後の答申(平成12年度)に触れ、15年前にも大学入試センター試験の改善や大学の多様な入試尺度などにも言及していたと紹介した。「リスニングテスト」など答申の一部は実現したものの、全体として実現していなかった。
 今回の高大接続改革では、入試改革だけではなく、高校教育改革・入試改革・大学教育改革のまとまりとしての改革に違いがあることを指摘した。
 また、32年度から「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)が始まり、段階的に実現していくとし、学習指導要領が改訂された後、新学習指導要領下で高校3年生が受験する37年度大学入学者選抜が「大きな変わり目」になると話した。
 質疑応答では新テストでの記述式について導入日程を説明し、採点スケジュールなどの課題も指摘した。CBT方式については予算、維持管理などの課題にも触れた。年複数回には高校教育の年間スケジュールとの兼ね合いなどがあり、高校関係者への丁寧な説明の必要性などを述べた。

分科会
英語
話す・聞く力どう測る
4技能入試で問題提起

 「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランス良く取り組む英語入試改革については、文科省の英語教育の在り方に関する有識者会議委員の安河内哲也氏が、講演や分科会「明日からできる『英語で授業』〜授業実演と鉄則のシェア」などで話した。
 現行の大学入試などでは4技能を満遍なく問うことをしていない入試の弊害について語った。例えば、会話のスクリプトを使った出題で「話す力」を試せるか、発音・アクセントの問題で「聞く力」は試せるかなどと、問題を提起した。さらに訳読、文法解説講義などに取り組んでいる高校の授業課題などを指摘。「発話しない授業」と表現し、4技能をバランス良く取り入れる授業改善も促した。
 また、大学入試改革の上では、英語入試改革が既に進んでおり、特に、私立大学などでは4技能を問う民間団体などでの資格・検定試験の導入が先行している実態にも言及した。
 受講者同士が会話する時間も設けながら、授業改善の手だてなども示した。

アクティブ・ラーニング
話型・文型・思考型を活用
具体的な目標持ち思考・判断

 早稲田大学教職大学院の田中博之教授が「生徒の汎用(はんよう)的能力を育てるアクティブ・ラーニングのあり方」と題して講演した。
 アクティブ・ラーニングや、求められる汎用的な能力などについて説明し、思考力・判断力・表現力など活用型学力を育てる「活用学習」などの必要性を指摘。学習に取り組む際には、話型・文型・思考型など「型」を活用することで子どもの思考力や表現力の活動を支援しないと、「お遊びアクティブ・ラーニングになってしまう」と述べた。
 また、フィンランドの学校での授業風景をビデオで紹介。OECDのPISA調査の平均点が国内でも高かった中学校の取り組み。ラテンアメリカの国々は豊かなのか貧しいのか、その原因などを調べる課題に2〜3人がグループでリポートにまとめる活動を、教師の手作り教材などが支える様子を流していた。
 また、国内での高校で「ギリシアの財政破綻」をテーマにした授業も紹介。日本の国債がデフォルトしないための方策を考えた。「高校は多様なので、学校の実態に応じて難易度を変えていくようにしてほしい」と話した。
 鎌田首治朗・奈良学園大学教職センター長は、『「アクティブ・ラーニング」を授業改善のチャンスに―子どもたちは生きる力、確かな学力を本気で育成してくれる学校、教師を求めている―』と題して「アクティブ・ラーニング」をブームで終わらせず、真に「生きる力」を育てる授業へと改善するための具体的な授業の在り方を紹介した。
 鎌田氏は、自らの授業では、本気で考えるに値する学習課題を設定し、まず一人で課題に取り組む「一人学び」の時間を与える。そして、授業で学生みんなが自分の意見を語る「みんな学び」、みんなの意見を聞いて自分が一番学びたいと思う意見を選ぶ「自分学び」をさせ、最後の15分のみ自ら話をすると説明。
 「目の前の子どもたちに本気で『生きる力』を身に付けさせようとすれば、必然的に授業はアクティブ・ラーニングを取り入れたものになる」と鎌田氏。そのためにも、子どもを本気で理解しようとすることや、具体的な目標を持って思考したり判断したりする場面を設けること、双方向での対話が本音で話せるものになるよう「待つ」ことなどが重要だと述べた。

求める人材・選抜方針
九州大 教委と連携で人材発掘
長崎大 設問自体がメッセージ
京都大 対話を根幹に自学自習

 「個別大学のアドミッション・ポリシー」分科会では、九州大学の丸野俊一・理事・副学長が高校と大学との学びの違いに触れ、大学では新しい知の創造や「他者との間で創造的な対話」が求められるなどとした。
 同大が取り組む高大接続では教育委員会とも連携しながら、優秀な生徒の掘り起こしをする接続プログラムを紹介。さらにAO入試による21世紀プログラムでの人材育成の成果も披露した。
 長崎大学大学教育イノベーションセンターの吉村宰教授はかつての「求められる学生像」と、現在求められているアドミッション・ポリシーなどの違いを具体的に解説した。
 また、入試問題との関係では、まず求める人材、そのためのカリキュラム作成があって入試があるとし、抽象的なアドミッション・ポリシーを語るよりも、入試問題そのものが生徒へのメッセージであり、アドミッション・ポリシーと位置付けた。
 京都大学の塩瀬隆之准教授は、同大学のアドミッション・ポリシー「対話を根幹とした自学自習」について説明した。
 同大学は、高度な知識や技術を習得すること、答えがない、定まっていないものに対して他者と共に自らも異なる視点を持って自己研鑽(けんさん)すること、さらに主体的に学問を深めること―の三つを特に重視する。同大学生を対象に行った調査結果や高校での取り組みを紹介しながら、参加者同士のグループワークを通じてその意味を体感させた。

講演
高校生の留学を支援
学術など4分野300人
トビタテ!留学JAPAN

 講演の一つに「トビタテ! 留学JAPAN」の活動紹介も加わった。文科省官民協働海外留学創出プロジェクトの名達健介さんが話した。
 日本再興戦略では「2020年までに日本人留学生倍増」を目指す。大学生などは6万人から12万人、高校生は3万人から6万人へと増やす。
 文科省による高校生留学支援制度の一つが「トビタテ! 留学JAPAN 日本代表プログラム高校生コース」。民間の企業などからの寄付金による運営方式を採り、産官学の出身者で構成した協働プロジェクトチームが事業を推進する。
 高校生コースの場合、アカデミック、プロフェッショナル、スポーツ・芸術、国際ボランティアの4留学分野を設定し、合わせて約300人を支援する。
 第1期生は514人が応募し、303人が合格した。分野別ではアカデミック154人、スポーツ・芸術58人、プロフェッショナル55人、国際ボランティア36人。留学先は北米が136人、大洋州73人、欧州45人、アジア38人など。
 大学のサマースクールに参加し、物理学や経済学を学習▽トランポリンの五輪出場を目指し、英国チームの練習に参加―などの留学例がある。
 将来のグローバルリーダーになることを期待するとともに、日本の大使(アンバサダー)や、留学の伝道師(エヴァンジェリスト)としての役割にも期待が高い。

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