高大接続 初中で培った力を高等教育へ
10面記事円滑な改革に向け国が後押し
初等中等教育から高等教育まで一貫した「生きる力」の育成が、「高大接続改革」の目指す方向だ。その手だてとして、高校教育や大学教育の改善・改革があり、その間をつなぐ入学者選抜の改革があるという構図になっている点は押さえておきたい。こうした教育の改革を円滑に推進するため、既に大学改革については、「大学教育再生加速プログラム」や「スーパーグローバル大学創成支援」などの国の事業によって後押しされている。間もなくスタートする今夏の「大学入試改革先取り対応セミナー―高大接続改革で何が変わるのか―」では、こうした取り組みの一端も披露される予定だ。
一貫して「生きる力」育成
今回の高大接続改革の土台となっている中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について〜すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために〜」(平成26年12月)では、初等中等教育から高等教育まで一貫して、これからの時代に求められる力を「それは『豊かな人間性』『健康・体力』『確かな学力』を総合した『生きる力』」と「確かな学力」として示した。
その際、「学力」に関しては、「基礎的な知識及び技能」「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」「主体的に学習に取り組む態度」のいわゆる「学力の3要素」から構成する「確かな学力」を育むことの重要性を指摘。
特に、小・中学校教育段階では、全国学力・学習状況調査の導入や、現行学習指導要領での話し合い活動や学習成果の発表活動などの「言語活動」の充実、教科や総合的な学習の時間などでの探究的な学習に取り組むことによって、国内外の学力調査結果から、その成果が表れてきていると現状を分析した。
こうした小・中学校教育での成果を「確実につなぎ、それぞれの学校段階において『生きる力』『確かな学力』を確実に育み、初等中等教育から高等教育まで一貫した形で、一人ひとりに恵まれた力を更に発展・向上させることが肝要である」と高校教育、大学教育の役割を明示した。
そして、答申では、「高大接続」について端的に「新しい時代にふさわしい高等学校教育と大学教育を、それぞれの目標の下に改革し、子供たちがそれぞれの段階で必要な力を確実に身に付け、次の段階に進むことができるようにするためのものである」と述べた。
その改革の方策として、高校教育には学習指導要領の改訂、「高等学校基礎学力テスト」(仮称)の導入などを示す一方、大学教育には「能動的な学修へと転換」するため、アドミッション・ポリシー(入学者受入の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)の一体的な策定とアクティブ・ラーニングなど教育方法の改善を迫った。
さらに、小・中・高校と育成してきた能力を、新たに「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)などの新設により測り、大学教育へとつなげていこうという狙いがある。
初等中等教育から大学教育までの一貫したイメージ
高校教育の質の確保・向上に向けた全体的な取組について(検討・たたき台)
大学教育再生加速プログラム
優れた取り組みに補助措置
「アクティブ・ラーニング」「学修成果の可視化」など
教育再生実行会議の「これからの大学教育等の在り方について」(第3次提言、平成25年5月)や「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(第4次提言、25年10月)などを受け、改革の方向に合致する先進的な取り組みを実施する大学を支援することを目的に26年度から始まったのが、文科省の「大学教育再生加速プログラム」(AP)だ。
国公私立大学、短大、高等専門学校を対象に、26年度は「アクティブ・ラーニング」「学修成果の可視化」「入試改革・高大接続」をテーマに公募。最大5年間の補助が措置される。
「アクティブ・ラーニング」では「学生の能動的な活動を取り入れた教授・学習法の実施により、認知的能力や教養等を含めた汎用的能力の育成を図る取り組み」が対象。
同様に「学修成果の可視化」では「各種指標を用いて学修成果の可視化を行い、その結果を基に教育内容・方法等の改善を行う取り組み」を求め、「入試改革」では「志願者の意欲・能力・適性を多面的・総合的に評価・判定する入学者選抜方法を開発・実施する取り組み」、「高大接続」は「高校・大学関係者が教育の目標や内容、方法について相互理解を図ること等により、高校と大学の教育の連携を強力に進める取り組み」を設定した。
申請は共同申請を含め全体では250件。テーマ別では「アクティブ・ラーニング」が最も多く、94件。次いで「アクティブ・ラーニング」と「学修成果の可視化」の複合型が88件、「学修成果の可視化」が41件、「高大接続」が19件、「入試改革」は最も少なく8件というのが、その内訳である。
このうち選定されたのが「アクティブ・ラーニング」9件、「学修成果の可視化」8件、「アクティブ・ラーニング」と「学修成果の可視化」の複合型21件、「入試改革」3件、「高大接続」5件。
例えば、長崎大学は「アクティブ・ラーニング」と「学修成果の可視化」の複合型として選定され、支援を受ける。
24年度からモジュール方式による教養教育を導入。パッケージ化された科目群(モジュール)からテーマの一つを選択して、アクティブ・ラーニングを通して「汎用的技能(学ぶ力・考える力・関わる力・表現する力)の育成」を狙う。特に、1年半の間、教員と学生が学びの共同体を形成する点に特徴があるという。26年度時点では、全学モジュール担当教員のアクティブ・ラーニングの成功割合を、30年度100%にすることを掲げた。
横浜国立大学では「学修成果の可視化」で選定された。「学生が自ら学修成果を把握し、次の学びを主体的にデザイン」していくことを目指す。
具体的には、教務事務システムデータを活用した学習成果の分析や、成績分布図の集計システムなどを使い「学士力の可視化」を図り、キャリア科目の再体系化やグローバルキャリアプログラムなどで「就業力の可視化」を実現する。
30年度の目標値に授業満足度アンケート実施率100%、学生ポートフォリオ利用率70%を設定した。
千葉大学は「高大接続」で選定され、高校生を対象にした早期からの理系グローバル人材の育成に着手する。入学前教育として、放課後や週末、長期休暇期間を活用して、高大協働科学教育、グローバル教育、カリキュラム開発を推し進める。
高校1、2年生などを対象に基礎力養成を高大協働講座開設などで実施し、理系グローバル人材の卵養成として大学の施設設備などを使っての課題研究、重点支援。国際研究発表会に結び付くよう、英語発表指導も。こうした学びを通して大学教育の高度化、理工系人材養成力の強化などを目指す。
27年度の大学教育再生加速プログラムは新規メニューとして「長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)」を加えた。
同プログラムは入学直後に1カ月以上の長期にわたり、例えば留学、インターンシップ、ボランティア、フィールドワーク、小・中学校の教員補助、被災地支援などの活動を支援するためのもの。
活動に取り組むため、クオーター制を取り入れるなど学事歴の見直しや、事前・事後指導のためのカリキュラム整備、学生自らが企画したテーマに基づく活動などによって、企画力、行動力、忍耐力、コミュニケーション力の向上、学事歴変更による集中的な学びの実施や体験活動機会の拡大などを推進する。
38の大学・短大・高専が申請した。大学では国立10、私立21と、私立の数が上回った。
スーパーグローバル大学創成支援
世界ランク100以内視野
学生と教員 外国人比率高める
英語による授業を拡大
「大学改革」と「国際化」によって国際競争力向上とグローバル人材の育成を目指すのが文科省の「スーパーグローバル大学創成支援」。平成26年度から開始した。
大学教育の改革を求めた教育再生実行会議の第3次提言では「国は、大学のグローバル化を大きく進展させてきた現行の『大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業(グローバル30事業)』等の経験と知見を踏まえ、外国人教員の積極採用や、海外大学との連携、英語による授業のみで卒業可能な学位課程の拡充など、国際化を断行する大学(『スーパーグローバル大学』(仮称))を重点的に支援する。国際共同研究等の充実を図り、今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上をランクインさせるなど国際的存在感を高める」ことを求めた。
同大学創成支援では、世界ランキング100を目指す力のある大学を支援する「トップ型」、実績を基に先導的試行に挑戦し、グローバル化を牽引(けんいん)する大学を「グローバル化牽引型」として公募した。
基本となる要件としては、学生と教員の外国人比率の向上、英語による授業の拡大、成果指標の設定と徹底した情報公開―などを挙げた。
トップ型には16の大学が申請し、国立11、私立2の計13大学が採択された。グローバル化牽引型は93大学が申請、24大学(国立10、公立2、私立12)が採択されている。
トップ型で採択された大学の一つ、名古屋大学では「アジアのハブ大学」を提案した。アジアの国にサテライトキャンパスを設置して、アジア諸国の国づくりに関わる人材育成のための博士後期課程プログラムを提供。先端研究の強化として若手や女性、外国人研究者への支援などで世界屈指の研究大学を目指す。
広島大学では35年度までに「教育力と研究力の強化を大学改革の両輪」として推進し、世界トップ100の総合力獲得を構想した。
10年後には、外国語授業数は5割まで、これらの授業を活用して外国語のみで卒業できるコース割合を大学院で5割以上、学部で約2割に高める。外国人教員は5割以上に高まり、日本人学生の1学年の半数は留学経験を有し、全学生の2割が留学生で占められるなど多様化が進行することを見込む。