高校の教科・科目はこう変わる 下
12面記事中央教育審議会の特別部会で、文科省が示した高校の学習指導要領の改訂素案。新科目が提案された公民科や理数教育とは異なり、英語や総合的な学習の時間では、これまでの方向性を一層強調する内容となった。
国語
古典への理解を深める
教科書に依存した講義中心の授業に偏っていることなどが課題とされた国語では、共通必履修科目で、実社会や実生活につながる国語力の育成に力を入れる。「話すこと・聞くこと」「書くこと」といった表現に関わる能力を育てるため、話し合いや論述を重視する考えを示した。
また、使用教材をめぐっては、静止画や動画など、多様な表現の扱いを求める。時代の変化を受けて、文章以外のメディアに対するリテラシーを育てる狙いだ。
一方、古文への生徒の意欲の低さなどを背景に選択科目の見直しも検討する。
現代文を中心にしながら古文・漢文を含めて扱う総合的な学習内容を取り入れる方針だ。共通必履修科目でも、古典を入れた日本の言語文化の理解を盛り込む。
英語
社会問題の議論、目標に
中学・高校を通じて生徒に到達目標を掲げる英語では、4技能の指導を重視する方向性があらためて示された。4技能を総合的に扱う科目とスピーチやプレゼンテーションなどに重点を置いた科目を軸にする方針だ。コミュニケーションを図ろうとする態度と、社会問題まで議論できる英語力を付けることを狙いとしている。
「話す」「書く」の発信力が英語教育の長年の課題だった。以前は技能ごとに科目を構成していたが、現在の指導要領からは「コミュニケーション英語」として統合した。授業は原則、英語で行うことも求めた。
今回の改訂案は、こうした路線をさらに進める内容だ。英語力の国際指標のCEFRを参考に各技能の目標を設定し、高卒時に英検準2級以上の英語力の習得を掲げる。
今後、どんな授業を目指しているのか。
同省は、学校の取り組みも例示した。答えが一つではない問いを提示して、生徒同士がペアワークで多様な見方を実感する。教科書の「登場人物に電子メールを書く」など、まとまりのある文章を書いて、ペアやグループで相互に読み合う―。そんな内容だ。
指導方法を大きく見直す必要があるため、リーダー教員の養成による全英語教員への研修も同時に進める。
芸術
生活、社会との関わりを意識
4分野ある芸術科で出された改訂素案の主な内容は次の通り。
音楽 (1)感性を高め、資質・能力を育成する主体的・創造的な学習活動の充実(根拠を持って自分なりの表現意図を持ったり価値判断したりできるよう「音楽を形づくっている要素の知覚・感受」を全ての音楽活動の支えとなるよう一層明確に位置付けてはどうか)(2)音楽文化についての理解を深める学習活動の充実(音や音楽と生活や社会との関わりについて考えることを一層大切にし、生活の中での音や音楽の働きについて理解を深められるようにしてはどうか)
美術 (1)育成する資質・能力と学習内容との関係を明確にした学習活動の充実(表現と鑑賞の相互の関連を図ることや造形的な視点を豊かに持って対象やイメージなどを捉えたりすることができるような表現や指導を重視すればどうか)(2)豊かな感性や情操の育成(豊かに感じ取る力の育成を重視し、表現や鑑賞で、それらに共通して働く資質・能力との関係を整理して示してはどうか)(3)生活や社会の中の美術の働きや、美術文化の理解を深める学習の充実(美術を通して生活や社会と豊かに関わる態度を育むことを重視すればどうか)
工芸 (1)育成する資質・能力と学習内容との関係を明確にした学習活動の充実(表現と鑑賞の相互の関連を図ることや、造形的な視点を豊かに持って対象やイメージなどを捉えたりすることができるような表現や鑑賞の指導を重視すればどうか)(2)豊かな感性や情操の育成(豊かに感じ取る力の育成を重視し、表現や鑑賞で、それらに共通して働く資質・能力との関係を整理して示してはどうか)(3)生活や社会の中の工芸の働きや、工芸の伝統と文化の理解を深める学習の充実(工芸を通して生活や社会と豊かに関わる態度を育むことを重視すればどうか)
書道 (1)育成する資質・能力と学習内容との関係を明確にした学習活動の充実(豊かに感じ取る力の育成を重視し、各領域や分野の学習に共通して働く資質・能力を明確に位置付けてはどうか。書の伝統と文化を踏まえながら、自らの意図に基づいた表現を構想し工夫していく一連の過程を大切にしてはどうか。また、根拠を持って伝え合うことで書に対する見方や考え方を広げ、新たな価値を見いだすような学習を充実してはどうか)(2)書と生活や社会との関わりや、書の伝統を深める学習の充実(書の伝統と文化の理解を学習の充実や、生活や社会の中で書が果たしている役割について考えることで、書への永続的な愛好心を育み、書を通して生活や社会との豊かに関わる態度を育成することを重視してはどうか)
情報
問題解決型へ科目統合
現行で「社会と情報」と「情報の科学」の選択必履修となっている教科「情報」は、情報技術を使った問題解決などに取り組む「情報の科学」に近い科目に統合する見通しだ。情報モラルなどの内容は、公民科に新設予定の科目に反映する。
政府戦略ではプログラミングや情報セキュリティを重視するが、現状では、情報技術と社会との関わりを扱う「社会と情報」の履修率が8割を占めることから、高校の情報教育で学ぶ内容は大きく変わることになりそうだ。
保健体育
健康、安全の「実践力」
体育では、高校卒業後も生涯を通じてスポーツに親しむ姿勢や能力を育てる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を受けて、スポーツ文化の裾野拡大も見据える。
保健では、今後、学んだことを実生活や他教科に活用できる力を育てる必要があると指摘。新たに、健康や安全に関心を持ち、生活に役立てる「実践力」を重視することを求めた。
家庭
災害時対応、盛り込む
家庭科目では、共通必履修科目の在り方として5項目が示された。
社会の変化への対応(少子高齢社会を踏まえ、乳幼児や高齢者を支えるために必要な知識や技術、コミュニケーション能力を育成する)▽生涯を通して、自他の生命を守る衣食住生活の実践力を育成、食育の充実(生活習慣病予防のための食生活を営む力、災害時などの生活上のリスクに対応した衣食住の知識や技術)▽生活者の視点を踏まえた消費者教育の充実(生活情報を収集し、適切に意思決定する力を育成)※公民科新科目と連携▽地域との交流などを通して社会に参画する力を育成▽衣食住の生活文化の継承(和食、和装、生活を豊かにするもてなし)―などだ。
総合的な学習
教科横断で考える技法
総合的な学習の時間をめぐっては、学校間で取り組みへの意識差が大きいことが課題とされている。
そのため、素案ではそれぞれの学校が「総合的な学習」を通じて育てたい資質・能力の考え方を明らかにすることを提案。教科の枠を超えて、課題を発見し解決する力や協働する力を育て、実社会で活用できるようにすることを重視する。また、教科横断的に考える技法を体系的に指導することを求めた。
学校の教育活動全体で、「総合的な学習」の果たす意義をあらためて明確にすることも求めている。
特別活動
意義の明確化求める
ホームルームや生徒会活動、学校行事が行われる特別活動。現行の指導要領からは、活動や行事の目標が規定されるなど、人間関係を築く力が重視された。
その一方で、生徒会活動が学校全体に理解されていなかったり、学校行事が伝統を重視し過ぎて生徒の過重な負担になっていたりする場合もあることから、学校に特別活動の意義を明らかにすることを提案した。教育課程全体での位置付けを整理し、教科で学んだ内容を実生活に結び付けて考える場であることを強調した。
教員側には教務部が関わり指導体制を整えることの重要性を指摘した。
今夏「先取りセミナー」共に創ろう
分科会のテーマに「知りたいこと」大募集
日本教育新聞社は今夏、(株)ナガセと共に「大学入試改革先取り対応セミナー」を開催する。昨年度の「英語教育改革先取り対応セミナー」に次いで第2弾となる。
特に、平成32年度実施を目指し、検討が進められている「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)などを主眼に置いたセミナーを開催するに当たって、高校現場を中心に大学入試改革、高大接続改革などで「知りたいこと」や、分科会テーマで取り上げてほしいことなどを大募集します。疑問と感じている点、こうしてほしい点、ご意見など、幅広くお寄せください。
皆さまの声を反映しながら、セミナーを共に創っていくことを目的にしています。
ご意見などは、ファクス(03・5510・7812)へ、「大学入試改革先取り対応セミナー」係と宛名を明記いただき、お送りください。