改革続く大学入試
7面記事共通一次からセンター試験、そして新たなテスト創設へ
偏差値偏重、受験競争の原因など課題を抱え続ける大学入試は、さまざまな形で改革されてきた。戦後最大の入試改革、共通第一次学力試験(以下、共通一次試験)の導入から大学入試センター試験(以下、センター試験)と移り変わり、今回の高大接続改革に伴う選抜システムの変更が実現すれば、共通一次試験導入を上回る入試改革になる。今回の改革は高校教育と大学教育の改善がセットとなり、ひいては小・中学校で培ってきた力を高校、大学へとつなげ、伸ばすための接続改革の一環として取り組まれようとしている点に大きな違いがある。これまでの大学入試改革の変遷を概観し、特に、現状の選抜方法の何が課題となっているのかを見る。
難問・奇問排した共通一次の終息
昭和54年1月に戦後最大の入試改革と言われた共通一次試験が実施された。それまでの各大学による個別試験は特定の大学に受験者が集中することによる受験競争の激化や、振るい落とすために難問・奇問が入試問題に出現するなどの弊害が生じ、入試がもたらす高校教育への悪影響が課題となっていた。
大学入試の改善については、例えば、中央教育審議会の46年答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」、いわゆる「46答申」において広域的な共通テストを開発し、高校間の評価水準の格差を補正するための方法として利用することなどが提言されている。
また、共通一次試験の導入に当たっては、国立大学協会の調査研究の蓄積、文部省(当時)が設置した大学入学者選抜方法改善会議がまとめた46年報告、提案もあった。
試行テストを実施後、54年度から全ての国公立大学が参加して、共通一次試験が始まった。初年度受験者は約34万人。18歳人口の増加に伴い、同試験が終わる平成元年には約40万人が受験した。
共通一次試験を導入したことで、難問・奇問の出題を排した良質な問題の出題、高校教育で学んだ基礎的な学習の到達度が判定可能になるとともに、共通一次試験利用により学力検査以外の検査方法を組み合わせた多様な選抜が可能に―などの成果が指摘される。
半面、課題としては、受験機会が1回に減り、「入りたい大学から入れる大学」へと進路指導の変質、私立も1校(産業医科大学、昭和57年度〜)参加したが、私立参加の問題などが挙げられている。
「選抜」から「接続」へ
センター試験を見直し
共通一次試験に代わり、平成2年度から登場したのが、センター試験である。
臨時教育審議会による「新しく国公私立を通じて各大学が自由に利用できる『共通テスト』の創設」(昭和60年6月第1次答申)など提言を受け、始まったセンター試験は、教科数を含め利用の仕方は各大学の自由とする、いわゆる「アラカルト方式」が採られた。私立大学の参加も広がった。国立大学の試験も分離・分割方式が採用されるなどの改善も図られた。導入後も、各大学の判断によって成績の複数年度利用を可能に、「英語」科目にリスニングテストを取り入れ―と継続的に改善策が打たれてきた。
ただ、この間、入試をめぐる状況も変化しつつあった。「選抜」から「接続」の視点への転換や、卒業時の質の確保の重視、入試業務の負担の増大などが俎上(そじょう)に上るようになる。
生じる課題に対応して、中教審の答申では、例えば「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年)で入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示や、「公平」の概念の多元化、受験教科・科目数の考え方などに言及。
2年度に慶応大学が始めたAO入試は、その後増加の道をたどる。同答申でも「アドミッション・オフィス入試について、その在り方(目的、特色等)や社会において発展・定着させるための条件等について検討する必要」に触れている。
20年には中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」の中で、大学には推薦入試やAO入試の適切な実施を求め、国には大学入試などに高校・大学が任意に活用できる学力検査(「高大接続テスト(仮称)」)に関し、高校・大学の関係者が十分に協議・研究するよう促すことを求めた。
今回の入試改革の契機となった中教審答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(26年)では、大学入試センター試験に代わって「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)と、高校段階の学習の到達度を測る「高等学校基礎学力テスト」(仮称)の新設が提言されている。
「大学入学希望者学力評価テスト」については「『1点刻み』の客観性にとらわれた評価から脱し、各大学の個別選抜における多様な評価方法の導入を促進する観点から、大学及び大学入学希望者に対して、段階別表示による成績提供を行う」。具体的な表示の在り方などは、別途、専門家による検討を行うとしている。
推薦・AO入試での入学者割合が増加
学力低下が顕在化
今回の高大接続改革の一環としての大学入試改革を目指す背景の課題の一つに、趣旨が生かされていない「推薦入試」や「AO(アドミッション・オフィス)入試」による入学者割合増加に伴う弊害がある。
文科省の作成した平成12年度と25年度の選抜方法別の入学者割合を比較すると、12年度一般入試の受験者は65・8%。推薦入試は31・7%、AO入試は1・4%と一般入試入学者が優勢だった。ところが、25年度には一般入試入学者56・0%に対し、推薦入試・AO入試の割合合計は43・5%で、拮抗(きっこう)するまでになった。
この傾向は私立大学ほど顕著。例えば、25年度の「入学者選抜実施状況の概要」(文科省)によれば、推薦・AO入試入学者が50・6%と半数を超え、一般入試入学者48・9%を上回る。
学力検査の実施も十分ではない。推薦入試の場合、国公私立大の学部1965学部で導入され、「学力検査」の実施状況(24年度)は約4割。同様にAO入試の場合、国公私立大の学部1307学部で導入され、「学力検査」の実施は15・2%にとどまる。
出願時期は推薦入試が10月から11月が多く、AO入試は8月、9月、10月の順で多い傾向にあった。
早期の入学者確保など大学経営の安定化の前に、選抜方法の趣旨が十分に生かされていない問題、「事実上の学力不問」の運用から大学生の学力低下、学習意欲の低下への懸念、それに伴っての大学入学後に高校レベルの教育内容を補習授業として実施する大学の増加など、さまざまな課題が露呈してきていた。
平成25年度入学者選抜実施状況の概要(国公私立別)
教科・科目増加は「限界」
複雑化したセンター試験
大学の入試改革に当たってのもう一つの課題は、現在の大学入試センター試験にある。「高校教育課程の弾力化への対応により、出題教科・科目が増加するなど、限界と言われるほど複雑化している」と、その問題点が指摘されている。
昭和54年度に国公立大学が取り入れた新しい選抜方法、共通一次試験は例えば60年度の出題科目数は5教科18科目。
国公私立大学で利用ができ、利用教科・科目は各大学の自由とする、いわゆるアラカルト方式を採用したセンター試験は平成2年度の第1回時は5教科18科目。その後、例えば、9年度には6教科32科目まで膨らんだ。ちなみに27年度は6教科31科目。
こうした出題科目の増減は、高校学習指導要領の開設科目などに対応している。
例えば、平成元年告示(6年から実施)の高校学習指導要領では、社会を地理歴史と公民の各分野に分け、必修、選択の科目へと細分化した。これに対応し、9年度からの出題科目は設定された。
センター試験は学習指導要領の教科・科目に対応することで高校生の基礎学力の確保に一定の役割を果たしてきたものの、これからは知識・技能だけでなく、「思考力・判断力・表現力」も含めた総合的な評価が求められることや、「高等学校基礎学力テスト」(仮称)の創設、入試業務の合理化の必要性―などから廃止へとつながっていくことになった。
平成27年度大学入試センター試験出題教科・科目
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