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ここを学びたい こう生かしたい 英語教育改革先取りセミナーへの期待

16面記事

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 今夏、全国10カ所で展開する「英語教育改革先取り対応セミナー」が、4日の横浜会場を皮切りにいよいよスタートする。中・高校の英語担当教員を主に約2000人がセミナーに集う。セミナーに参加し、何を学びたいか、どう生かしたいかなどを各地の受講希望者に聞いてみた。

パフォーマンス、どう評価
百瀬 美帆 千葉県立長生高校教諭

 英語を実際の必要性を持った場面で使用するオーセンティック(本物)な学習がいま、求められています。私が受け持つ授業でも、大切にしているのは生徒が英語を自発的に使いたいと思うような活動をつくることです。
 英語で教科内容を学ぶ「CLIL」もその一つ。
 2年生を担当している今年、「コミュニケーション英語II」の教科書に掲載されている“Nature Technology”は、うってつけの教材でした。シロアリの巣やカタツムリの殻など、自然界にある高度な機能に関する説明文で、教科書を終えた後、生徒にも同様の事例を見つけさせて発表させました。
 SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けている本校の生徒にとって、自然科学の研究や成果発表は、英語を学ぶ動機になりやすかったようです。
 歴史や政治の分野ならユダヤ人兵士の銃弾を受けて脳死状態になったパレスチナの少年が、イスラエルの子どもたちに臓器提供を行った“Ahmed’s Gift of Life”の話があります。もちろん英語教員一人で計画するのは難しいので、もっと教科の専門の教員と協力して授業を考えたいと思います。
 文法を学ぶにも、オーセンティックな活動はできます。“Ahmed’s 〜”には仮定法の文章が出てきますが、この表現を使ってクラスメートに感謝の思いを伝える活動を行いました。
 現在、国が英語教育改革を進めるために行っている中央研修にも当てはまる課題ですが、伝達講習は内容がどうしても薄まってしまいます。また、受講して感じた熱い思いを、参加しなかった人たちにどうやって伝えるかも大きな課題です。だから「学校に戻ったら、せめてここだけは、こういう形で周りの先生に伝えて」というポイントを具体的にアドバイスしてもらうことが重要だと思います。英語教育改革は「一人が百歩」ではなく、「百人が一歩」進めるようになることが大切です。
 私自身も含め、いま英語教員は学習の評価をどう行うかに頭を悩ませています。4技能を育てるために、生徒たちにさまざまな形のパフォーマンス課題を与えていますが、それを評価する視点が教員の主観に偏る危険性があります。例えば、検定試験や資格試験では、面接時にどのような規準を設定して評価しているのか。そんなノウハウを学べることを期待したいと思います。

グローバル人材の具体像
中村 邦彦 北海道教育大学附属札幌中学校副校長

 英語教育をめぐる改革の動きは急速で、多くの施策が打ち出されています。英語教育への追い風だと考えています。その背景としては、文法訳読が中心と誤解されてきた英語教育を、「英語を使って何かを成し遂げる人材を育てたい」という思いがあったからです。
 現行の学習指導要領から時数が増え、週4時間になった中学校英語。英語科教員として、それなりに責任も感じているところです。今後、どのような方向で進んでいくのか。改革の具体的なところや正確な事実を知りたいと思い、セミナーへの参加を決めました。
 現在、北海道教育大学の附属小・中学校8校では、文部科学省研究開発学校の指定を受け、小学校では英語科導入、中学校ではその接続の問題を扱っています。各附属小学校では1〜6年生まで系統的なカリキュラムを組んで英語を教えています。
 それを受けて中学校ではどう指導すればよいのか。他の公立小学校から入学してくる子もいます。そのため、中1授業の導入10分間を「スパイラルタイム」に充てています。「話す」や「聞く」などが中心の学習時間で、小学校で慣れ親しんだ表現を想起させ、文構造を導入してスムーズな理解を図っています。
 私自身、教諭時代は英語を通して人と人がつながることを大切に、実践を積み重ねてきました。学校には、すぐそばに友達がいます。友達と仲良くなるために、英語という言葉を通してコミュニケーションの楽しさを学んでほしいと考えています。
 中学校の目標はコミュニケーション能力の基礎を養うことです。4技能を総合的に育成することが大切だと言われています。しかし、その先を見据えたグローバル人材とは何なのか。セミナーでは、その資質や能力について、ぜひ学びたいです。また、講演を行う東進ハイスクールの安河内哲也先生は、私たちがイメージする塾的なものとは異なり、実用的な英語の指導をしていると聞きます。学校教育でも参考にできる部分は吸収していきたいです。
 TOEFLについて知りたいことの一つが、テストのレベルと中学校で活用できる問題はないかということです。私自身あまり知識がありません。しかし、生徒はTOEFLの名前くらいは知っており、留学したいと思っている生徒もいます。最初の1問目が中学生レベルでも解けるようなものであった場合、「今している学習が役立つかもしれない」といったモチベーションにつなげることもできるからです。

新課程での大学入試対応
青木 三七子 埼玉県立越谷北高校教諭

 学習指導要領が改訂され、昨年度から新しい教育課程に基づいた、生徒のアウトプットを重視した授業を展開してきました。しかし授業はどれも試行錯誤。多くの課題や悩みが出ました。
 その一つが、大学入試との関係です。本校は県内でも学力が高めの進学校です。一昨年までの旧教育課程では、大学入試を見据えた従来型の文法指導や訳読を重視した授業を行ってきました。
 それが新しい教育課程になり、授業での生徒のコミュニケーション活動の時間が増えました。そしてそれに伴い、従来の文法・訳読型の授業時間は減っています。
 この変化で、果たして生徒に、大学入試に向けた力を付けさせることができているのか、進学校という立場だからこそ、とても不安に思います。
 今、入試の英作文に、論題に対する自分の意見と予想される反論を書かせるといったディベート的な要素を加える大学が増えてきていると聞きました。これならば、新課程の教育方針が大学入試に向けた力の育成につながっていると思えます。しかし、まだ大半の大学の入試が、従来の知識重視型のように思います。
 今回のセミナーでは一つ、大学入試の現状の理解を深められることを期待し、新教育課程が大学入試に通用するのか、探っていけたらと思います。
 またもう一つ、セミナーでは効果的な新教育課程の授業を実施できる力を身に付けたいとも考えています。
 新教育課程の、生徒のアウトプットを重視する方針は、グローバル人材育成には重要なことです。ただそのアウトプットは、英会話レベルではなく、論理的な自分の考えをある程度長い文章でしゃべれる、書けるレベルまでを目指さないと意味はないと思います。
 本校では、昨年度1年生を対象に消費税の増税について英語でのディベートを行い、本年度2年生を対象に小惑星探査機「はやぶさ」が税金の無駄遣いかどうかについてエッセーを書かせるなど、生徒にはハードルの高いアウトプット授業を試行しました。
 その結果、指導力や授業の構成などの点で、さまざまな課題が見つかりました。
 セミナーの分科会は、「スピーキング」「ライティング」の技能向上ワークショップを選択しています。ここで自身の指導技術を磨き、これまでの授業を、より効果的な授業に進化させたいと考えています。

外部検定の効果的活用は
白川 知子 東京都立芦花高校主任教諭

 ここ数年「大学受験が大きく変わる」と盛んに言われるようになり、私もさまざまなセミナーや研修に参加してきました。特に英語に関しては、大学入試にTOEFLやTOEIC、TEAPなどの外部検定のスコアを採用する動きもあると聞いています。
 実際にそれらのスコアがどのように将来的に大学入試に活用されるのかといった仕組み、現実的に場所や費用などの問題も含めて、受検機会が全ての生徒に平等に保証されるものなのか少し不安も感じています。
 さらに、その受検機会を、生徒に使える英語力を身に付けさせるために日々の授業にどのように生かしていけばよいのか、これから考えていかなければならないと思っています。
 この大きな転換期に今後の日本の英語教育が具体的にどう変わっていくのか、それに向けて現場ではどのような準備が必要なのか。新たな情報とともに、具体的なビジョンを直接関係者の方々からお聞きできることを期待しています。
 本校は、単位制普通科高校です。女子生徒が多いこともあり、大学進学希望者のほとんどは文系志望です。そうなると英語は受験の際に必須科目となるので、その意味でも英語は避けて通れない問題です。しかし、英語の学習は「大学受験に必要だから」とか「海外で学んだり仕事をしたりしたいから」という人だけがすれば良いかというと、決してそうではありません。
 私自身は、自らの経験を通して、世界にはいろいろな文化や価値観を持つ人々がいるということ、そしてそれらの人々と付き合っていく上で語学は一つのツールとして有効だと感じ、英語教員になりました。
 入試のためや卒業後の進路にかかわらず、全ての生徒がそのことを理解し、そうした姿勢を身に付けてほしいと思い日々指導しています。そのためにも、複雑な文法項目や難解な語彙(ごい)を覚えることに比重を置き過ぎるのではなく、英文を書く際の文章の構成や意見主張の手順といった枠組みをきちんと習得することを重視しています。
 そうすることで、将来的に実際に英語が必要となった際、辞書を片手にでも世界の人々と何とかコミュニケーションを取れる人になっていってくれるのではと考えています。その方策としての外部検定の効果的な活用について、今回のセミナーで示唆を得ることができればと思っています。

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