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社会全体でグローバル人材育む

12面記事

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英語教育改革推進へ道筋は
佐々木 正文・全英連会長(都立町田高校校長)

 グローバル化に対応した英語教育改革が打ち出されるなど、小・中・高校を通じて英語教育が大きな転換点を迎えている。平成32(2020)年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、その改革は加速中。学校現場はこれにどう応え、円滑に推進するために必要な改善策は何か。全国の中学校・高校の英語教員約6万人を会員とする、全国英語教育研究団体連合会(全英連)の佐々木正文会長(東京都立町田高校校長)に聞いた。(聞き手=矢吹正徳・日本教育新聞社編集局長)

「英語で授業」各場面で柔軟に

 ―高校では、学習指導要領が平成25年度から学年進行で実施され、本年度は2年目として進行中です。英語教育改訂のポイントの一つに「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本」と位置付けられました。現状での取り組みはいかがでしょうか。
 訳読式や文法を中心に指導していた先生も今までのやり方と異なる指導方法を模索せざるを得なくなった。どうすれば「英語で行うことを基本」にできるのか、学ぶ意欲も高い。
 各都道府県の教育委員会などが研修機会を提供しており、少しずつ指導要領の考え方は浸透しつつある。
 以前に比べれば、生徒の発話量も増えている。ただ、それがそのままコミュニケーション活動の充実につながっているかと言えば、難しいところがある。

 ―高校の場合、進学校から教育困難校まで多様な学校が存在しています。こうした中で、英語の授業を「英語で行うことを基本」については、どうしたらいいでしょうか。
 学校の実態だけでなく、授業の内容や、学年によっても対応は異なる。
 授業をコミュニケーションの場にしようと先生方は努力しているが、英語を使える場面、日本語を用いて説明した方が理解は進む場面、とそれぞれが判断するなど、使い分けはしているのではないか。
 受験を意識しない学校の方が、かえってコミュニケーション活動に時間を取って取り組めるというようなこともある。

 ―さまざまな教科の中でも、英語はドラスチックな変革を求められているように思います。その背景には、グローバル人材の育成があります。高校段階ではグローバル人材をどう意識しますか。
 日本の現状や、世界の中での位置を考えた時、グローバル人材の育成が急務になっていることは理解できる。その育成は、学校現場や英語教育だけが担うのではなく、学校外でのさまざまな体験や、社会全体で育てていくという機運が醸成されないとうまくいかないのではないか。その時の学校現場の役割は何かを、もう少し明確にする必要がある。
 バイタリティーのようなものは世界で活躍する人材には必要だろう。こうしたものは学校で身に付くよう育てていきたい。大学で学ぶ準備をして大学に進学する生徒は、意欲があれば、その後の学習でもきちんとした英語を使えるようになる。
 高校と一口に言っても、先ほど言われたように多様な学校がある。英語力や学力など、その習熟度は学校によってかなり違う。小学校段階から高校段階まで、コミュニケーションしようとする態度や、物おじせず自分の意見を言う態度などは、それぞれの学校で育てているだろうが、その中身については差が出てくるし、また差が出てしかるべきものと思う。

 ―英語力だけでなく、思考力や表現力が備わっていないと、コミュニケーションも薄っぺらになってしまうということですね。
 CEFR(ヨーロッパ共通参照枠)が示した英語能力で言うところの、B1レベル(仕事、学校、娯楽で普段直面するような身近な話題について、標準的な話し方であれば主要点を理解できる)や、B2レベル(自分の専門分野の技術的な議論も含め、抽象的かつ具体的な話題の複雑なテキストの主要な内容を理解できる)を全員に到達させるのは困難。
 学校で英語教育を学んだことをベースにして、学校外での学習機会、教材なりを自分で勉強していって達成できる目標である。

 ―「新たな英語教育の在り方」では、高校英語に発表、交渉、討論など言語活動を高度化していくことが求められています。また、生徒には高校卒業段階で英検2級から準1級、TOEFL iBT57点程度以上などの目標も示しています=図参照。
 目標を実現する努力は積み重ねられるが、それを実現できる学校もあれば、できない学校も出てくる。
 生徒によっての違いもある。週4時間から6時間の授業だけで、全ての生徒に同じような成果を望むことは難しい。
 生徒の力を付けるには授業場面が基本。それぞれの先生に、生徒の意欲やモチベーションをどう高めていけばいいのか、絶えず、授業改善が求められる。

グローバル化に対応した新たな英語教育の目標・内容等(案)(一部抜粋)
グローバル化に対応した新たな英語教育の目標・内容等(案)(一部抜粋)

研修環境の整備充実を

 ―学習指導要領の他に、中・高校に向けては、「CAN―DOリスト」の形での学習到達目標設定がなされています。東京都教育委員会では、「都立高校学力スタンダード」を示しています。こういったものは、授業改善につながりますか。
 「学力スタンダード」や「CAN―DOリスト」などを作ることによって、生徒の実態を分析する機会につながり、教員の共通理解を深める効果がある。かつては教員の個々の力量に頼って授業をしていた。これからは、組織だった指導によって授業が展開されることを期待したい。

 ―英語科教員の業務の多忙という課題はありますか。
 教科にかかわらず、以前よりも教員が多忙な状態にある。教材づくりや小テストの作成など、授業に関わる下準備なども増えている。
 ただ、英語科が他の教科と若干異なるのは、教科書のテキストが毎年変わり、レッスンが変わること。国語や日本史、物理や化学などは、教科書内容がそう大きく変わることはない。
 だが、英語の授業でレッスンしようとすると、素材が自然科学やスポーツなどを扱っている場合には、背景としての知識も新たに学んでいく必要が生じる。その内容の理解を助けるためのプリントや教材作成、ICTの活用も変えていかなければならない。毎学年同じ内容で教えることができない事情がある。

 ―英語での学習については生徒の目標も示されていますが、教員についても、必要な英語力として英検準1級、TOEFL iBT80点程度以上を確保することが求められています。英語教員への要求が高まる一方ですが、英語力=指導力ではないという指摘もあります。
 採用の段階で一定の力があることを要件にするのは理解できる。ただ、現職の教員に、こうした外部検定試験による能力を求める必要があるだろうか。例えば、他の教科の教員にこうした外部の試験で測れるような能力を求めることはない。
 採用の段階でも、点数は大事だが、「人物本位」という基本的な考え方は曲げないで採用してもらいたい。

 ―先生方の研修意欲はある、と伺いました。英語教育改革を実現していくために、学校現場としては何が必要でしょうか。
 授業を変えよう、変えたいという意欲はある。そのために研修が必要だが、残念だが、研修環境が十分に整っているわけではない。
 たとえ研修に参加したいという意欲はあっても、担任を持っていたりすると、なかなか思い切って参加しにくい。
 これが一定期間、学校を不在にするとなると、熱心で優れた先生の授業をカバーできるだけの質をどう補うか、送り出す方もためらうこともあるだろう。
 ある程度、中・長期的な研修計画を組むことができるならば、教員の側の事情にも配慮して、指導体制を整えることもでき、研修する側も送り出す側も安心できる。研修自体は質の向上につながる。じっくり取り組むことができれば、成果も上がってくる。

小中高 学習内容、理解し合って

 ―今回の英語教育改革は、2020年の本格展開を目指しています。小学校から高校までのそれぞれの段階で課題もあると思いますが、小学校、中学校とこうした積み上げがあると、高校としてはありがたいというようなものは何かありますか。
 小学校から中学校、中学校から高校へという流れの中で、もう少し、その役割が明確になるといい。
 現状では例えば、特に、中学校から高校の間には、学習内容面での難易度のギャップがある。同様の課題は、小学校から中学校の間にもあると思う。こうした学校段階のギャップをどう埋めるか、流れをスムーズにするにはどうするか考えていきたい。
 高校の立場で言うと、高校の教員は英語が高校からスタートすると思っている。そのため、小学校、中学校でどんな学習をしてきたか、十分に理解していない。「中高連携」の必要性が言われるようになって、約10年。連携の試みの中で、初めて中学校の教科書を見るようになって、指導方法を変えた教員もいる。
 それぞれの学校段階で、どのような学習内容で指導しているかを、お互いが理解し合うことが、これからは一層大切になる。

 ―大学入試を変えることによって、高校段階の教育が変わるという議論があります。本当に変わりますか。
 高校の英語を変えるには、大学入試が変わるという条件はある。「聞く」「話す」も含め、4技能を測るのは難しいが、こうした方向に持っていく必要はある。
 高校でもコミュニケーション活動に取り組んでいる。だが、意見を言う力や理解力、聞く力などが十分ではなく、双方向的なものになっていない。大変ではあるが、今と同じように読解力なども維持しながら、聞く力、話す力を身に付けさせていく必要がある。
 実際に、文法力や語彙(ごい)力を大切にしながら、「聞く」「話す」の力が身に付くような授業改善に取り組んでいる先生も少なくない。こうした実践、ノウハウの共有が必要だ。

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