サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第29回】
NEWS「お金がない」は高校生の特権
50センチ四方のダンボールをグランドいっぱいに敷き詰めて地上絵を描く―3年5組の文化祭企画がそんな意欲作に決まったときには困った。材料のダンボールはどうする?ペンキは?グラウンドにどう固定する?だいたい段ボール6000枚必要らしいが、どうやって集めるの?
「何してるんですか、あの子ら毎日毎日スーパー通って」
ダンボールを自転車の前と後に積んで運ぶ姿が、たまたま進路指導室に高校生求人を持ってきていた地元のYダンボール社・人事部長さんの目に止まった。
「いやあ、むちゃくちゃですわ高校生」
通りがかりにダンボール会社だと名乗ったら、
「高校生なのでお金はありません。ぜったいやりきるので、ダンボールをください」
目を輝かせてそう言ったらしい。
「高校生にあんなこと言われて、地元の大人が手伝わん理由はないやろ」
このあと、真夏の会社始業前、生徒たちはYダンボール社に毎日通うことになる。彼らは、朝早くから毎日出てきてくれた人事部長さんと、6000枚の端切れダンボールを機械で切断する作業を続けた。
その後も、トラックでの運搬、図面拡大のほか、出入りの染料会社さんから大量のペンキを(ほぼ無償で)調達してもらえた。
「あんたンとこも、高校生を手伝ったってくれんか?」
人事部長さんがあちこち声かけてくれたらしい。文化祭当日は大成功!
「いやあセンセ、うれしいんですわ。ゼニカネなしに一生懸命、ムチャクチャがんばれるって、高校生のこの時期だけでっせ」
汗をぬぐう部長さんの反対の手には、差し入れのジュースが袋いっぱい。
「ああ、自分も昔はあんなやったなーって、気持ち呼び覚ましてもらえて、こっちがありがとうや」
高校生の損得抜きのがんばりは、まわりの大人たちを思いっきりの笑顔にしてくれる。
佐藤功(さとう・いさお。大阪大学人間科学研究科元教授)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。