一刀両断 実践者の視点から【第670回】
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児童にけがさせた支援学級担任
千葉県松戸市の小学校で、特別支援学級の教員が児童にけがをさせたという報道があった。児童をゴミ箱に立たせ、そのゴミ箱を蹴った結果、児童は転倒して前歯を折ったという。にわかには信じがたいが、これは特別支援学級の抱える問題の氷山の一角にすぎないと感じる。
そもそも特別支援学級の実態は、どれほど世間に知られているだろうか。また、今回の教員が30代の女性であった点にも注目し、背景を考えてみたい。
近年、特別支援学級の数は増え続けている。背景には、支援を必要とする児童の増加と、「支援学校には通わせたくない」と考える保護者の意向がある。結果として支援学級の数は増えるが、その担任を務められる教員をどう確保するかという問題が浮上する。
特別支援教育の免許がなくても、普通の教員免許があれば担任になれるため、実際には多くの教員が専門知識を持たずに任されている。中には、通常学級の担任を苦手とする教員が配置されることもある。
本来であれば、特別支援学校から経験のある教員を異動させたいところだが、勤務条件や人事上の制約もあって、そのような異動は稀である。そのため、校内で人員をやりくりせざるを得ない現実がある。
特別支援学級の担任は、クラスの人数は少ないものの、児童の障害の程度や学年がバラバラで、高度な専門性が求められる。手当がつく場合もあるが、実際には「場つなぎ」や「やむを得ず」といった理由で配置されることも多い。もちろん、中には使命感と能力を持って進んで担任を希望する教員もいるが、それは非常に貴重な存在である。
自分自身、現職のころからこのような事件がいつか起きるのではないかという不安を感じていた。特別支援学級は、いわば「個別最適化された教育」の最前線でありながら、教育課程が十分に整備されているとは言いがたい。校長を含めて、専門的な指導ができる人材も限られている。
こうした構造的な問題が特別支援学級には根強く存在している。それを知りながら改善しようとしない文部科学省や行政の責任は大きい。今回の事件を教員個人の資質だけの問題として処分しても、同じような事例は今後も繰り返されるだろう。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。千葉県教委任用室長、主席指導主事、大学教授、かしみんFM人生相談「幸せの玉手箱」パーソナリティなどを歴任。教育講演は年100回ほど。日本ギフテッド&タレンテッド教育協会理事。)