AIは教育を変えるか?図工の鑑賞授業に「画像生成AI」を活用
10面記事
画像生成したところ
ネガティブな思いをさせない、図工の授業に手応え
東京都・世田谷区立瀬田小学校
学校教育における生成AIの活用が期待されている。これからの予測困難な時代を生きる子どもたちにとって、新たな学びを深めていく上で重要なツールとなる可能性を秘めているからだ。ここでは、世田谷区立瀬田小学校(日高玲子校長)の中根誠一主任教諭による、画像生成AIを活用した5年・図工科の鑑賞授業から、その魅力や可能性を探った。
世田谷区立瀬田小学校 中根 誠一主任教諭
自分が美しいと感じる風景を生成する
本時は「私たちの美しい風景」がテーマ。自分が美しいと感じる風景について考えることを学習のめあてに、一人一人が端末で画像生成する。使用するアプリは、区の学習ポータルに昨年追加されたグラフィックツール「Canva(キャンバ)教育版」。プロンプトとなるキーワードを入力すると、それに基づいてAIが画像を生成してくれる。
授業では、この作業とクラウド上でワークシートを共有できるアプリを併用し、それぞれの考える美しい風景の違いを知るとともに、グループごとに自分の作品を紹介し合うまでを一区切りとして進められた。
最初は、画像を生成するために必要なキーワードを考えるところからスタート。1枚目のカードに入力し、共有アプリに提出させて一覧表示すると、中根主任教諭は「みんなの考えを参考にして、キーワードを足してもいいよ」とアドバイス。続けて、子どもたちが答えたキーワード(星空、オーロラ、クモの巣のカタチなど)を板書してヒントを与えていく。
その上で、「学校や家族と相談してから使うこと」や「下品、残酷な言葉を使わない」など、生成AIを使う場合の注意点もしっかりと伝え、意識づけを図っていた。
子どもたちはキーワードを入力して画像生成を繰り返すうちに、どうしたら自分のイメージに近い画像になるかを自然とつかんでいくようで、「シュールレアリスム風に」「大口径レンズでマクロ撮影したような鮮やかな画像」といった、より具体的な指示を出すようになった。
AIへの指示の仕方が重要だと気づく
作品をカラー印刷して成果物に
授業でAIを使うことについて子どもたちに尋ねると、「楽しい!」と一斉に笑顔で答え、自分の指示をすぐにカタチにしてくれることに面白さや便利さを感じていることがうかがえた。とりわけ、感心したのは「自分のイメージに近づけるには、AIへの指示の仕方が重要になる」と話した児童がいたことだ。よく聞くと、「自分ではちゃんと指示したつもりだったけど、思っていたものとは違った。そこでキーワードを見直したら、イメージに近いものになった」という。
画像生成後は、ベストだと思う2~3枚を選んで共有アプリに提出。教員用の端末を使ってカラープリンターで印刷する合間の時間を利用して、2枚目のカードに授業のまとめを記入していく。
最後は、どんな美しい風景をつくったかについて紹介し合う活動へ。「何を描きましたか?」、「雨上がりの葉っぱから滴るしずくです」、「○○さんらしいイメージだね」といった具合に、互いの作品を代わる代わる評価。気が付けば、その輪はあちこちに広がり、教室中が活気にあふれる対話の場になった。
子どもたちにとって、自分の考えを相手に伝えて感想をもらうことで達成感が得られるのはもちろん、多様な考えや視点があることに気付きをもたらす機会になる。実際、振り返りの中で「それぞれ美しいと思う風景が違って、とても楽しかった」とカードに書き込む児童もいた。
短時間でブラッシュアップできる魅力
AIを使った授業を振り返り、中根主任教諭は「これまで授業で課題になりやすかった、技量が足りなかったり発想することが苦手だったりする子でも容易にイメージがつくれる、対話が活発になる」ことの2点を長所に挙げた。今までもそうした取り組みに課題を抱える児童には言葉でフォローしていたが、生成AIは言葉のイメージさえ持てればいいし、生成した画像の“ここが違うな”と思ったところを、短い時間の中で何度もブラッシュアップしていける良さがあると話す。
生成AIを使おうと思ったきっかけは、早稲田大学教職大学院の田中博之教授のもとで研修するうちに、図工とAIは意外と相性が良いことに気づいたこと。「特に、自分たちの作品や価値観をシェアして、見方・考え方を豊かにする鑑賞授業にフィットすると感じた」と振り返る。
対話が活発化することについては、ICTを使うからこそ、子どもたちの活動時間がより確保できることを挙げ、そのことによって力が身に付くのだと強調する。本時でいえば、たくさん試してつくり上げたものだからこそ、児童同士の積極的な対話が形成されたということだろう。
生成した「美しいと思う風景」の画像について紹介し合う
教育を変えるのは
急速に進化を遂げる生成AIは、今や私たちの生活や仕事にも着実に入り込んでいる。だからこそ、教育への利活用にも可能性が見いだされているが、決して万能なツールではないのも確かだ。その意味でも教育を変えるのは、新しい技術に挑むことをいとわない教員であり、前向きにチャレンジする子どもたちの姿である。今日の授業を見て、そのことをあらためて実感した。