これからの教育データ利活用を考える研究会 流山シンポジウム
8面記事
流山市教育委員会による事例発表の様子
C4thとミライシードの連携で教育DXを推進
教育データの利活用を進める先進自治体を例に、全国の教育委員会を対象に情報収集・交換の機会を提供する「全国ミライシードキャラバン」。その第13回となるシンポジウムが千葉県流山市で2月21日に開催された。市内外から100名を超える参加者が現地に集い、遠くは福井県からの参加もあった。GIGA端末活用の第2フェーズを迎え、さらなる個別最適な学習指導や授業改善が望まれる中、同市の取り組みに注目が集まった。
事例発表 流山市教育委員会
子どもの見取りや個別最適な学びに活用
子育て世代の流入により、児童・生徒数が増加する流山市。会場となった市立小山小学校も、児童数1678人・56学級と、今や全国でも屈指の大規模校となっている。こうした中、市教育委員会による事例発表では「学びに向かう力と自立する子どもを育む」ことを目指した、ICTの有効活用と教育データ利活用の取り組みが紹介された。
同市では2020年9月、1人1台端末整備に伴ってICT教育を推進するための指針を取りまとめた。そこで取りかかったのが、校務をフルクラウド化し、学習データと連携することだ。具体的には、(株)EDUCOMが提供する統合型校務支援システム「C4th(シーフォース)」とクラウドサービスとのアカウント情報を連携。高いセキュリティを担保した上で、教職員用端末1台で校務データと学習データへの接続を可能にし、ロケーションフリーによる柔軟な働き方が選択できるようになった。
こうした中で、「C4th」に児童生徒、学級、学校の3種のデータを集約して見える化を図るダッシュボードを構築。ここでは、同システムの機能の一つである、毎朝、子ども自身が心の天気などを入力する「スクールライフノート」とも連携。学校全体の出欠席情報といった生活面のデータと合わせることで、支援が必要な子どもの早期発見や指導に活用しているという。
学習系データとの連携を進める
学習データとC4thを連携して教員の業務負担軽減を図る
一方、授業におけるICT活用の日常化に向けては、2021年度から公立小中学校全校に学習支援ソフト「ミライシード」をフルパック導入。デジタルドリル「ドリルパーク」やCBTシステム「テストパーク」を使って、個別最適な学びの支援や学習状況の可視化に役立てていることを挙げた。
加えて、2024年8月からは個人思考と共同作業が両立できる新アプリ「オクリンクプラス」の活用が始まっており、今まで以上に子ども主体の学びを実現させようとしている。
同市は、これまでの取り組みを通して「アナログで行っていた活動をデジタル化することで組織的に把握することが可能になり、子どもたちに向けた支援がしやすくなった」と分析。今後は、現在はドリルパークのみとなる「C4th」内の学習系データとの連携も積極的に進めていく意向で、「来年度のテストパークを皮切りに、その先へと広げていきたい」と抱負を語った。
パネルディスカッション
教員・子ども双方の前向きさを引き出すICT活用を
続くパネルディスカッションでは、ICT活用を日常化させる工夫や今後の取り組みをテーマにパネラーが意見を交わした。市教育委員会指導課の郡司美紀課長は、先生方が求めているものを見極め、前向きに取り組めるようにすることが大切と挙げ、研修も「学校に戻ってからいかに口コミで広げてもらうかが重要になる」と語った。今後に向けては「オクリンクプラスで協働学習がしやすくなった。それを子ども自身がデータを利活用する段階に押し上げるなど、個別最適な学びの実現に力を入れていきたい」とした。
市のICT教育推進顧問を務める滝本宗宏・東京理科大学教授は、教育データの利活用では「見える化」と「共有化」の2つの循環が大きな効果をもたらす。それを生かす意味でも「先生方の授業運営の仕方が大切になる」と話した。
その上でベネッセの担当者は、「ミライシードとC4thの併用によって先生方の業務負荷を軽減するとともに、子どもたちの前向きさを引き出すデータ利活用も追究していきたい」と述べた。
公開授業 個人作業と共同作業を行き来できるオクリンクプラスで学びを深化
5年生と6年生の5クラスで、協働学習やデジタルテストを活用した公開授業が披露された。
羽田優教諭による5年・社会科の単元「わたしたちの生活と森林」の授業では、森林の働きを理解するとともに、森林がわたしたちの幸せとどのように関わっているかを考え、自分の意見にまとめることが「めあて」になる。本時は学校教育目標である「すべての子どもを幸せに」を踏まえ、森林とウェルビーイングのつながりを意図したものになっている。
その中で、授業では「オクリンクプラス」のみんなのボードによる共同編集、思考ツールでの既習事項の整理・分類、リアクション機能を使った相互評価などを巧みに取り入れ、子どもたちが他者の意見も参考にしながら自分の考えを深めていく姿が見られた。
ICTと対面授業 それぞれの長所を生かす
人工林と天然林の働きを「みんなのボード」で共同作業しながら分類
最初にマイボードを使って森林と幸せの関わりについて自分の予想を立てた後、人工林と天然林の働きについて、みんなのボードのベン図に3人グループで共同作業しながら分類。まとめる際は、前時までに作成したカードを並びかえて作業するよう促した。
その後、まとめたベン図を見ながら、森林の働きとわたしたちの幸せにどのようなつながりがあるかを話し合わせると、「ぼくはこう思う」「たしかにそうだね」など、教室内に活発な議論が飛び交うようになった。
次に、羽田教諭は森林の働きを「心」「体」「生活」の三つに分類(色分け)して、みんなのボードへ送るよう指示した。本時の「めあて」に向けて大事な要素になるため、グループで考えた答えを一つ一つ聞き取り、板書をしていった。例えば、「心」=心が落ち着く。「体」=生き物の住みかになる、空気がきれいになる。「生活」=おいしい水が飲める、資源になる、災害を防ぐ、などである。
グループごとの意見を板書にまとめたのは、森林は”さまざまな面からわたしたちを幸せにしてくれる“、”守っていかなければならない存在である“ことを確実におさえるため。「特に、子どもたちが考えた選りすぐりの回答が板書に残っていた方が、最後のまとめをしやすくなると思った」と羽田教諭は意図を話す。このように注目させたいポイントは板書で確実に訴求するなど、用途に合わせてICTとリアルを使い分けできるのも、オクリンクプラスの強みだ。
グループでの共同作業の状況も提出BOXから一覧で確認できるが、羽田教諭は机間指導を欠かさなかった。ICTと対面授業それぞれの長所を生かす授業改善の工夫が取り入れられている。
板書を用いて説明する羽田教諭
学びたいという意欲を引き出す
最後は、ここまでに学んだことを自分の考えに落とし込む作業に入る。その様子を覗くと、文字を大きくしたり色付けしたりして、分かりやすく伝えようとする児童もおり、ICTを活用した思考や表現も成長していることがうかがえた。
みんなのボードに提出させると、リアクション機能で相互評価する活動へ。クラスメートから評価するスタンプやコメントをもらうことが、子どもたちのモチベーションになり、共に学び合おうという意識やもっと学びたいという意欲を形成していくのだ。
「オクリンクプラス」には、教員が提出物ごとに観点別評価が残せる機能を搭載している。こうした機能についても、羽田教諭は「子どもたちの考えをできる限り拾ってあげたいという思いから、授業後には必ず活用している」と笑顔で話してくれた。
リアクション機能を使ってスタンプを押す
自分の課題に合わせて学習を進める~「テストパーク」の実践~
また、「テストパーク」で単元テストを行ったクラスでは、自動採点後にすぐに返却して自分の回答を確認する。そこから間違えた問題を確認し、もう一度解き直すなど、自分の課題に合わせて学習を進める展開も見られた。
同校では4年生以上の算数と理科で「テストパーク」を活用しているが、特に採点と採点結果の集計が不要になった点を評価。現在、「C4th」と自動連携する機能の実装を進めており、そうなればさらにテストに付随する業務時間が削減できるはずだ。
ミライシードの新アプリ 「オクリンクプラス」とは
~子どもたち主体の学びを支援~
「オクリンクプラス」は、個別学習(マイボード)と協働学習(みんなのボード)を一つで完結できるミライシード内のアプリ。画面上のタブを切り替えるだけでマイボードとみんなのボードを自由に行き来できるため、子どもたちがお互いに提案や意見を磨き上げ、主体的に学んでいく授業運営が実現できる。
例えばマイボードでまとめた自分の考えを、みんなのボードでブラッシュアップして提出BOXに送信。一覧からコメントなどのリアクションができるため、相互評価や意見交換の活性化が図れる。また、その場ですぐに提出された意見などを集計・可視化して気づきを与えたり、学習の振り返りに使ったりする機能も搭載し、子ども主体の学びを後押しできる。
さらに教員にとっては、グループ学習用の教材づくりの効率化ができることはもちろん、クラス全員の提出状況が即時確認できたり、提出物ごとに観点別評価を残せたりと、校務の削減につながる機能も大きな魅力になっている。