日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

小学生から始める「金融経済教育」の第一歩~「NISAの日」関連イベントレポート~

10面記事

企画特集

グループごとに新商品の企画会議をする

 2月13日の「NISAの日」を前に、日本証券業協会、日本取引所グループ、投資信託協会は12日、都内でイベントを開催した。地域の小学5・6年生が金融経済教育の一環として参加。お菓子の新商品を企画して開発資金を募り、株式会社におけるお金のはたらきを学ぶ体験型授業で、株式会社や証券投資に関して体験的に学んだ。

遠足授業レポート

 新しいNISA(少額投資非課税制度)が始まって1年。日本証券業協会の調査では、新たにNISA口座を開設した人の4分の1を20代が占めており、お金や経済に関する正しい知識や判断力である「金融リテラシー」を身に付ける金融経済教育は、ますます重要になってきている。
 今回の「NISAの日」関連イベント「今年こそ!一から学ぼう『NISA教室』」には、中央区立阪本小学校の5・6年生が「遠足授業」として参加。体験型授業を通して株式会社におけるお金のはたらきを学んだ。
 授業は金融経済教育推進機構(J・FLEC)が発行する金融経済教育教材「チャレンジ! おかしの株式会社」を活用。グループごとに架空のお菓子屋さんを設立して「新商品」を提案し、クラスメイトに応援したいお菓子屋さんを選んでもらい開発資金を「投資」してもらう。各会社は株券を発行する。株式会社のはたらきや株式による資金調達の仕組みが理解できる内容だ。講師はJ・FLECの永嶋美香子さんが務めた。
 
オリジナルのお菓子をプレゼン

 学習の流れは4つのステップに分かれる。まず、講師の永嶋さんが、身の周りにあるさまざまな商品やサービスは「会社」が作っていること、会社の活動には、働く「人」や材料などの「モノ」、会社の活動を続けるための「お金」が必要なことを伝える。
 続いて、グループを一つの会社に見立て、新しいお菓子を開発する企画会議を行う。商品名やお菓子の「すごいところ」も考え、イラストにして具体化していく。
 15分の会議後、プレゼンテーションをする。社長役の児童が企画書を見せながら1分間で新商品の魅力や味を紹介する。他のグループは株主の視点で耳を傾けながら、どの会社を応援したいかを考える。
 児童らが考えた新しいお菓子は、中にラムネやジュレが入ったグミ、「世界一かたいクッキー」、味と形を何通りにも組み合わせて楽しめるチョコレートなど、趣向を凝らしたものばかり。プレゼン終了後は「ぜひ投資をお願いします」「応援よろしくお願いします」などとアピールした。
 最後に「投資」を経験する。児童には100万円分の「お金券」が配られており、プレゼンを聞いて応援したい会社の社長役の児童に渡す。引き換えに「株券」を受け取る仕組みだ。
 どの児童も自分の基準を持ち、真剣に説明を聞いて判断していた。授業を通して、会社がお金を集める方法として「応援してくれる人から株式を引き換えに集める」という方法があり、株式でお金を集めて活動する会社を「株式会社」と呼ぶことが理解できたようだ。

資金集めのプレゼンテーション

株主に模擬株券を渡す

未来を生き抜く力に

 今回、遠足授業を行った阪本小学校は、証券の街・兜町にあり、独自の金融経済教育・キャリア教育「コレド阪本」を長年、続けてきた。6年生をリーダーに、3年生から6年生の縦割り班で会社を作り縁日や劇などを行う活動だ。校内には模擬通貨が流通し、仕入れから販売までの企業体験、また消費者の立場からお金の役割を学んでいる。
 こうした下地もあり、今回の遠足授業でも児童らは「株式」や「投資」について一層、理解を深めることができた。「商品を考えて発表したことはあったけれど、株式の発行をしたのは今日が初めて。楽しかった」などと話していた。
 同校の小川優校長は、金融経済教育・キャリア教育に取り組む効果と意義を次のように語った。「子どもたちの金融・経済を含めた社会全般に対する興味・関心が強くなり、自分なりに掘り下げて調べる態度が身に付く。今後、キャッシュレス経済が進む中、お金の価値を量的に捉える力も求められる。身に付けた金融リテラシーが社会の荒波を生き抜く力になる」

日本証券業協会 会長 森田敏夫氏

 日本では、2024年に抜本的に拡充されたNISAが大きな起爆剤となって、「貯蓄から投資へ」の流れが明らかに動き始めてきました。
 現在、18歳以上の国民の約4人に1人が、NISAを利用し資産形成を行っています。多くの方が、安定的な資産形成を行うためにも、国民の皆さまの金融リテラシーの向上がキーになると考えています。その役割を担う「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」という公的な組織もできました。J-FLECでは、今回のイベントでも活用した学校向けの金融経済教育に関するコンテンツの提供、生徒や教員の方向けの講師派遣なども行っています。
 証券業界は、J-FLECへの全面的な支援を通じ、学校における資産形成に関する教育のさらなる充実に業界を挙げて取り組んでまいります。

体験型ブースレポート クイズやゲームで「投資」を楽しく学ぶきっかけづくり

 「NISAの日」関連イベント「今年こそ!一から学ぼう『NISA教室』」では、一般参加者や小学生を対象に、資産形成・証券投資や、新しいNISAについて楽しく学べる体験型ブースコーナーが設けられた。中央区立阪本小学校の5・6年生は、会社(株式会社)におけるお金のはたらきを遠足授業で学んだ後、体験型ブースを訪問。○×クイズや謎解きなどを通して、株式会社や証券投資に触れた。 
 体験型ブースでは、証券会社各社の担当者らが進行し、分かりやすく解説を加えた。
「○×クイズ NISAのことをもっと知ろう」ブースは、小学生向けに作られた株式会社やNISAに関するクイズ6題に答えるもの。「『NISA』の読み方は『ニーサ』である」といったクイズから、「世界初の株式会社はアメリカで生まれた」(答えは「オランダ」で×)のような歴史クイズまで幅広い知識を試す。
 「謎解き とうしくんを探さないで」では、謎を解くと、証券業界のマスコットキャラクター「とうしくん」がどこにいるかを見つけることができる仕掛けだ。

○×クイズに答える児童ら

「リターンとリスク」スプーンリレーで体感

 「スプーンリレー対決 リスクを考え、勝利をつかめ!」は、スプーンにピンポン玉を乗せグループ対抗リレーでゴールを目指す。スプーンは3つから選べて、大きな形のスプーンになるほど、ゴール時の得点が低くなり、小さいスプーンほど高得点になる。資産運用を行う上でのリターン(収益)とリスク(不確実性)の相関性を体感させるのが狙い。司会者は「投資の世界に限った話ではないが、大きなリターンを得られる可能性があるものはリスクが高い。逆にリスクの低いものはリターンも小さい。資産形成をする際には、リスクとリターンの関係性を考えることが大事である」と、解説を加えていた。
 一般参加者を対象に資産形成のシミュレーションができる「タイムトラベル 資産形成を体験しよう」も設けられた。運用開始年と投資する金融商品を自由に選び、「あの時資産形成を始めていたらどうなっていたか」を体験することができる。参加者は、スタッフの解説を聞きながら長期・積立・分散投資のメリットを理解できた。
 会場には証券業界のマスコットキャラクター「とうしくん」が登場し、問題を解く子どもたちを応援。会場を盛り上げた。

正確で楽しい金融経済教育のヒント

 日本証券業協会が2025年2月に公表した、2024年中に新しいNISAで金融商品を購入した7610人を対象に行った調査によると、金融経済教育の経験がある人は、ない人よりも分散投資をする傾向が見られ、中長期的な目線かつ企業の業績に着目した投資判断をしている可能性があるという。
 悪質商法や投資詐欺の被害を未然に防ぐ意味でも、学校での金融経済教育は積極的に進めたいところだ。学校では授業展開に苦心する教員も一般的に少なくないが、この日の遠足授業で使用された教材は、金融経済教育を推進するために法律に基づいて設立された中立・公正な認可法人であるJ・FLECが提供しているものが使用され、また、体験型ブースは日本証券業協会が企画などを行った。内容の正確性が担保されているだけでなく、児童の興味を引き出す工夫が施されていた。楽しみながら金融経済を学ぶ教材のヒントになりそうだ。

スプーンリレーに挑戦

企画特集

連載