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サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第25回】

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論説・コラム

人は見られて美しくなる

 あのころ、同僚先生の自宅で飲み過ぎ、突然泊まることとなったA先生。
「今は(コロナで)マスクしてるから、ひげを剃らなくても翌日OK!」
 グラスに継がれたビールを一気に飲み干し、ひと言言った。
「だれかに見られていると思うから、きれいにしようと思うんだよねー」

 この言葉、30年も前に職員会議できいたよなあと、懐かしく思いだした。
「わざわざ公開して、外部の人に見てもらうほどのものじゃないでしょ!」
 内容陳腐という理由で、文化祭の外部公開廃止案が出てきた。背景には、外部招待者の喫煙、展示物破壊や外部者同士のケンカetc.防止のために見回りや立ち番が続く教員の疲弊……外部公開なしだとどれだけラクかが教員のホンネ。
 いっぽう、文化祭で頑張る先生からは、「本校生は価値ある出し物をみた経験がないんだから『質』が低くて当たり前。指導しないのは、教員のシゴト放棄ですよ」。これもまた別のホンネ。会議で、生徒会担当のT先生が言い放ったのが、「人は見られてきれいになる」だった。

 この年、生徒会執行部生徒たちが「劇やろうキャンペーン」を始めた。他校文化祭見学や撮ってきたビデオの上映会や演劇マニュアル作成、そして教職員劇が始まったのもこの時期で、「「これぞ演劇!」をみせる」と、生徒を帰した夜の体育館練習の成果は、毎年大入り満員の人気出し物となった。演劇はもちろん、展示や映像、食品等の全ジャンルで、生徒会担当教員が一括説明会や講習会も行った。
 「外部公開」にこだわった3年生の、「太鼓演奏+演劇ミックス=和製ミュージカル作品」の幕が降りたとき、幕の向こうで演者たちの大歓声が起こり、会場いっぱいの拍手とシンクロしあった。 
「な、ウチの(学校の)劇、すごいやろ」
 全然関係のない本校生徒が、他校の友人に見せた誇らしげな笑顔を思い出す。

佐藤功(さとう・いさお。大阪大学人間科学研究科元教授)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。

サトー先生の「きょういく日めくり」