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一刀両断 実践者の視点から【第654回】

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戦争がないのに命を落とす国

 東京大空襲から80年が経った。この空襲では、多くの日本国民が無差別に攻撃され、何万人もが犠牲となった。その第一目標がどこであったかを知る人は少ない。それは、武蔵野市にあった中島飛行機製作所である。この軍需工場では、零戦や隼が生産されていた。米軍は100発以上の1トン爆弾を投下した。
 このような戦争は、今この瞬間も世界のどこかで続いている。また、「模擬原爆」の存在も広く知られていない。米軍は、日本全土に49発の模擬原爆を投下した。
 私がかつて勤務していた大学には、学徒動員で亡くなった学生の慰霊碑があった。私は担当する講座の学生たちを引率し、共に手を合わせに行った。しかし、こうした授業を行っていたのが私だけであったことを知ったとき、大きな衝撃を受けた。
 私は学生たちに、何のための戦争か、何のための学びか、命とは何かという本質的な問いを投げかけた。なぜ、このような視点からの授業が行われないのか、大きな疑問が残る。
 「戦争に勝者はいない」とよく言われる。一方で、日本では毎年2万人以上が自ら命を絶っている。鉄道の人身事故も、遺書がなければ「不審死」とされ、自死として扱われない。それらを含めると、戦争がないにもかかわらず、多くの人が命を絶つ国になっている。
 この現状を変えるには、教育の力しかない。私はそう確信している。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

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