子どもはいかにして文字を習得するのか 遊びと対話の保育が育む言葉
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松本 博雄 著
初期リテラシー発達促す試み
幼児の文字習得を、「正しく文字を読み書きする」能力の獲得としてイメージする人は少なくないだろう。その習得が始まる幼児期後半から学童期前半の子どもにおけるものは、初期リテラシーとして国際的には盛んに取り組まれている研究課題であるという。わが国はどうか。保護者・保育者・小学校教諭が、議論することなく、それぞれの文字習得観に基づいて取り組んでいるのではないだろうか。
序章、「なぜ、今、幼児期の『文字』と『保育』を扱うのか」から、終章「保育における社会的関係から立ち上がる言葉」他、7章編成の本書は、書籍名である問いを長期間追究しまとめた論文を土台としたものである。取り組む課題は、幼児期の文字習得の目標や内容の再検討と、日本の保育実践の中で、新たな文字習得への試みをどのようにしたらよいか、それによって何が芽生えるかの二つ。初期リテラシー発達を促す新たな試みを「遊び」に価値を置く日本の保育実践の文脈に埋め込む際に考慮すべきことは何か、保育実践として取り組んだ「ぶんつうプロジェクト」「しんぶんプロジェクト」は必読であろう。
著者が言う「文字習得のゴールは、文字を正しく読み書きできることではなく、子どもが自らの『声』を発する手段として文字を用いたときがその達成とみなす」とはどういうことか。子どもの成長に関わる大人に改めて問う一冊である。
(3300円 北大路書房)
(伊藤 敏子・仙台市教育局学びの連携推進室主任)