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サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第19回】

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論説・コラム

「いつの間にか」が名人ワザ

 導入(ツカミ)はおもしろいけど授業始まったら睡眠タイム……新米教員時代のボクに、ぜひ見せてやりたかったなあ、E先生の名人ワザを。

「プロ野球で二刀流と言えばだれかな?」『大谷!』「そのとおり。大谷選手の出身地はどこ?」『北海道や』『福島?』『岩手』「正解!」。
 思ったことを自由に言える雰囲気が教室にあった。
「岩手県の花巻東高出身。彼のおねえさんと野球部のコーチがその後結婚して」
 マニアックな芸能ネタは、やがてご当地岩手県花巻の、わんこそばや満州ニララーメン(通称「マニラ」)などの麺類紹介へ。「先生それ全部食べたんか?」と思わず生徒が聞くほどの、リアルな食レポ情報がぽんぽん飛び出すうち、
「……でもな、岩手でラーメン食べたら、そのあとぜひ、「元祖二刀流」のすごい人の家に行っといで。その人の名は、ジャジャーン。高村光太郎!」
「タカムラ?」といぶかる生徒たちをものともせず、当時、日本を代表する彫刻家かつ詩人の、「元祖二刀流」偉人・高村光太郎について一気に解説。
「でも、もともと光太郎は岩手の人じゃない。東京のど真ん中に住んでたのが、敗戦後、屋根まで雪に埋まる山の中へ逃げるように移り住んだ。自分で「小屋」とさげすむ小さな家。あっ、その家の写真、資料プリントにあるから見てよ。二刀流成功者の家やのに、なんとちっぽけな。実はこの人、戦時中に「戦争バンザイ」という詩をいっぱい書いてしまって……」
 大谷選手の話が高村光太郎に移り、やがて資料集や教科書の年表を駆使した従軍作家や戦争文学の話へと展開―繰り広げられる本格的「授業」!
 いつの間にか引きずり込むのが名人ワザ。導入「方法」を参観に行ったボクが、完全に授業「内容」に引き込まれ、ひとつカシコくなりました。

佐藤功(さとう・いさお。大阪大学人間科学研究科元教授)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。

サトー先生の「きょういく日めくり」