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現職教師のキャリア形成を拓く!働きながら学べる通信制教育の魅力

12面記事

企画特集

メディア授業により自分のペースで学ぶことができる

 すべての子どもたちの可能性を引き出し、変化の激しい社会を生き抜く力を育成することを目指す「令和の日本型学校教育」ー。そのためには教師も常に学び続ける姿勢を持ち、自身の資質・能力を高めていくことが求められている。こうした中、現職教師が自分に合ったスタイルで多様な教科・校種の免許を取得できる「大学通信教育」は、教職経験を考慮した免許状併用やリスキリングを図る場として、より一層重要な役割を担うようになっている。ここでは、その特徴や魅力を紹介する。

大学通信教育で取得できる教員免許

 「大学通信教育」は、地理的、時間的制約などを解消し、働きながら学ぶことができる正規の大学教育課程だ。通信教育課程で取得できる教員免許は普通免許状で、小、中、高、特別支援学校、幼稚園教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状があり、それぞれ専修、1種、2種に分かれている。
 免許状取得の代表的なものとしては、(1)新たに教員免許状を取得する場合(2)現在持っている免許状を上位の免許状に上進させる場合(3)現在持っている免許状を基にして同校種の他の教科の免許状を取得する場合(4)教職経験を有する者が隣接校種免許状を取得する場合の4つがある。近年では、「幼保連携型認定こども園」における「幼稚園教諭免許状」と「保育士資格」の両免許取得に大きく貢献してきた実績を持つ。
 学習方法は、大学通信教育設置基準(文科省令)によって、(1)印刷教材等による授業(2)放送授業(3)面接授業(4)メディアを利用して行う授業の4つが規定されている。中でもメディア授業は、長年にわたる試行錯誤や独自のガイドラインなどで質保証を高めてきた経緯があり、現在では卒業に必要な単位数=124単位すべてを「メディアを利用して行う授業(インターネット等)」で修得することが可能になっている。
 したがって、時間的制約がある教員でも、いつでも、どこでも自分のペースで学習を進められる。加えて、すでに教員としての実務経験がある場合、その経験を活かして新しい免許を取得することができるのも魅力の一つだ。例えば、高校の免許(専修または一種)のみ取得している教員が中学の免許も取得する場合は、高校の実務経験3年+新たな単位習得(9単位)によって、隣接する中学校の同一教科、または関連教科の二種免許が取得できる。あるいは、中学校の普通免許状を持つ教員が小学校の免許を取得する際、実務経験と追加の単位取得で資格を得ることができる。

メディア授業の進化が変える学びのあり方

 社会を大きく変貌させたインターネット技術の進化は、学校教育においても利活用が推進されるようになっている。その技術をいち早く取り入れてきた大学通信教育では、オンデマンド型とリアルタイム型両方のオンラインを活用したメディア授業にも一日の長があり、学習者のニーズや状況に応じた最適な学びが提供できるようになっている。
 リアルタイム型の授業は、講師との直接的な交流が可能なため、疑問点を迅速に解消し、学びの質を向上することができる。また、空いた時間を有効に使えるオンデマンド型の授業は、自分の理解度に応じて繰り返し視聴したり、じっくり考えたりする時間を持つことができるため、深い理解と持続的な記憶が促される長所がある。教員においても、新型コロナの流行により学びを保障するオンライン学習が試行され、環境面や技術面での敷居が取り払われたことにより、自律的な学びを促す場として期待されている。
 こうした新しい学びのあり方を取り入れた通信教育は、多様化する子どもたちの選択肢の一つとして、今では高校にも波及している。通信制高校の生徒数は9年連続増加し、今年度は過去最多の約30万人に到達する勢いだ。いわゆる「ネットの高校」の先駆けとなった株式会社ドワンゴが開校したN高等学校とS高等学校の現在の生徒数は、両校合わせて3万人に迫り、日本最大級の生徒数を誇る高校になっている。
 さらに、同社では日本財団と共同で、オンラインだけで大学卒業資格を取得することができる「ZEN大学」を2025年度に開校(入学定員=3500人)する予定であり、大学においても通信教育へのニーズが高まっている。

学びの変化に対応したスキルを身に付ける

 現職教員が大学通信教育を利用して複数免許などの取得を目指す理由は、教育内容の多様化や高度化に伴い、教員には特定の分野での高い専門性や幅広い知識・技能が求められるようになっているからだ。加えて、教員主導型の一斉授業から、学習者を主体とした学びへの転換が求められるなど、学びのあり方も変化している。そこではアクティブ・ラーニングやプロジェクトベースの学習、ICTの活用など、多様な教育手法が導入される中で、これらの方法を効果的に取り入れるためには、教員がその理論と実践について深い理解を持たなければならない。また、グローバル化が進む中で外国語教育や異文化理解の重要性が増しており、日本語指導が必要な子どもも増加している。これらの領域での教育を効果的に行うためには、教員自身が高度な専門知識を持つ必要がある。
 さらに、今日の教育課題として浮上している学力格差やいじめ、メンタルヘルスの問題などに対処していくためや、地域に開かれた学校として地域社会と積極的に連携していくためにも、教員が幅広い知識と技能を持ち、柔軟に対応する力が必要になっている。
 こうした中で、学校組織としても多様な専門性を有する質の高い教職員集団を形成していくことが不可避になっている。
 例えば幅広い知識・技能を身に付けることは、小中一貫校や義務教育学校が増える中で、9年間を見通した指導が行える資質能力や、副校長・教頭の職務を補完できるミドルリーダーの育成につながる。また、高い専門性を備えることは、小学校での教科担任制の拡充や小中連携・高大連携の強化などを担う教員としての価値を高めることになる。
 すなわち、教員が大学通信教育を活用して複数の免許を持つことは、資質能力を身に付けるだけでなく、自身のキャリアの選択肢を広げる近道になる。事実、教員の異動・採用においては、小・中両免許保有者や複数免許状所持者が優遇されるケースが起きており、特定の分野での高い専門性や小中を通貫したスキルを備えることがキャリアアップに不可欠となっているからだ。

教員のキャリア形成を築く場として

 文科省においても、教員の資質能力の向上が期待される中で、めざす将来像に向かってモチベーションを持って学び、自らキャリアデザインを描いていけるように、大学・民間企業等と連携したリスキリング研修を強化しているほか、校長ら管理職を補佐する主幹教諭と一般の教諭の間に新たなポストを設け、給与も増額する意向を示している。また、中教審では、特定分野に関し、実践の積み重ねによる更なる探究により、高い専門性を身に付けたことを証明する「専門免許状(仮称)」を創設する答申を出している。自治体も、職責、経験及び適性に応じて身に付けるべき資質を明確化した指標や研修体制を再構築する動きを始めている。
 このような取り組みが進められる中で、教員がキャリア形成を築いていくためには、自律的に学び続けていくことがますます求められるようになっているのだ。だからこそ、オンラインを通して働きながら学べる大学通信教育は、教職経験を考慮した免許状併用や自身の資質能力を高めるリスキリングを図る場として、今後もさらに重要な役割を担う場になっていくに違いない。

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