「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
15面記事今井 むつみ 著
「知識・思考の枠組み」の違い指摘
「丁寧に言葉を尽くし、何度も伝えれば必ず相手は分かってくれるから、とにかく話そう」。会社や学校、家庭で、多くの人が誤解やトラブルを招かないよう、そう考えている。教師は、「こんなに分かりやすく説明しているのにどうして子どもたちは分かってくれないのか」と悩んだり、自分の「説明の仕方」を反省したりする。
本書において著者は、「言葉を尽くして説明しても、相手に100%理解されるわけではない」と言う。それは、伝える側と受け取る側の「知識や思考の枠組み(スキーマ)」が違うからであり、人は自分のスキーマのフィルターを通して物事を理解するからだと述べる。
教師がある日突然「今日から平面図形に入ります」と言って授業したとしても、初めから「ぜひとも平面図形を学びたい」と思っている児童はどれほどいるか。自分にとって重要でない情報は記憶には残らない。認知科学、心理学の専門家である著者が、認知バイアス等の「言っても伝わらないものを生み出すもの」や「コミュニケーションの達人の特徴」について、具体的な場面を紹介しながら解説する。相手の視点に立つ「心の理論」や自己を振り返る「メタ認知」を、話す側、聴く側双方が意識することが大切であることを再認識させられる。評者も相手の感情に配慮しながら「具体と抽象を行き来しつつ」「理由や背景」を示しながら話そうと思う。
(1870円 発行 日経BP 発売 日経BPマーケティング https://bookplus.nikkei.com/)
(重森 栄理・広島県教育委員会乳幼児教育・生涯学習担当部長(兼)参与)