2025年に注目の教育キーワード10選
トレンド情報技術の進展や生成AIの普及、グローバル化、人口減少など、子どもたちを取り巻く環境が急速に変化していくなか、教育の在り方や学校環境にも変革が求められるようになりました。
社会の多様化に対応する学び方や教員の働き方改革、日本の将来を担う子どもたちに必要な学びと学校の役割についてなど、多くの場面で議論が行われ、今後の教育活動の展開に関心が高まっています。
本記事では、2025年に注目される10のキーワードについて紹介します。
1.次期学習指導要領改訂に向け中教審での議論が本格化
これからの社会を生きていく子どもたちに対する教育には、必要な資質や能力の確実な育成を目指すことが求められます。中央教育審議会では、学習指導要領を着実に実施することを含めた次期教育振興基本計画の策定に関する議論が進められています。
▽中央教育審議会での議題
・個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育
・デジタル学習基盤
・質の高い教師の確保に向けた環境整備の在り方 など
令和4年12月以降、文部科学省の有識者検討会では教育課程、学習指導及び学習評価にかかわる現状の課題や今後の論点について、整理を進めています。
現行の学習指導要領の趣旨には学力向上や自己有用感の向上が確認される一方で、「思考力・判断力・表現力」の育成には課題が残っています。PISA2022(※)では、高い学力を維持していることや、社会経済文化的背景において格差の小さい国の一つであると評価されました。その一方で、自律的に学習を行う自信が低い状況も指摘されています。
※PISA2022とは、義務教育修了段階の15歳の生徒が持っている知識や技能を実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることを目的とした調査のこと
出典:文部科学省『今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会論点整理』『次期教育振興基本計画(答申)(概要)』
2.部活動の地域移行(地域展開)の改革推進期間が最終年度
子どもたちが、将来にわたりスポーツ文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保するため、部活動改革の必要性が増しています。部活動改革では、部活動の地域移行(地域展開)を推進することで、持続可能な部活動と各地域での体験格差を解消し、部活動の最適化を図ることを目的の一つとしています。
▽部活動の地域移行の概要
・休日の部活動について合同部活動や部活動指導員の配置により地域と連携する
・学校外の多様な地域団体が主体となる地域クラブ活動へ移行する など
文部科学省では、令和5年から令和7年までを「改革推進期間」と位置付け、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す取り組みを進めることを求めています。初年度の令和5年度では47都道府県の347市区町村で運動部活動の地域移行等に関する実証事業が行われました。
これらの成果と課題を基に、今後の取り組みに活かし、部活動の地域移行を進めていくことが重要です。
出典:文部科学省『学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】』『令和5年度 運動部活動の地域移行等に向けた実証事業 事例集』
3.教師の処遇改善、令和7年度予算で文部科学省と財務省が攻防
近年、グローバル化や情報化などで社会構造が大きく変化するなかで、学校教育に対する期待が増加するとともに、学校教育が抱える課題の複雑化・多様化が進んでいます。
学校の管理・運営や外部対応業務により、教員の職務負荷が増大していることや、恒常的な時間外勤務の実態などが深刻な問題として挙げられます。このような課題を解消するためには、職務の見直しや学校事務の効率化による教員の勤務時間の縮減を図り、処遇改善や職務環境を整備していくことが重要です。
財務省「財政制度等審議会」における議論では、以下のような提案が示されました。
・教職員定数の改善等を国の支援なく時間外在校等時間の削減を求める
・時間外労働の削減を条件に給与の引き上げを行う
これに対し、教育関係団体連絡会は現実性に乏しく、充実した教育を行えなくなるといった懸念点があるとして、阿部俊子文部科学大臣に声明を手交しました。声明には、中央教育審議会の議論に鑑み、文部科学省の令和7年度概算要求の内容の実現を強く求めるという内容が含まれています。
出典:文部科学省『第一章 教員給与をはじめとした処遇改善の在り方についての基本的な考え方』『全国の校長会や教職員団体などで構成される教育関係23団体よりあべ大臣へ、緊急声明を手交』
4.義務教育段階でのAI活用でガイドライン改訂へ
令和5年7月、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を策定しました。学習指導要領(情報活用能力)を踏まえ、生成AIについて理解を深め学びに活かす力の育成が重要であるとの方針です。
生成AIの技術革新やそれらを活用したサービス開発社会実装が飛躍的なスピードで進展していることから、ガイドラインの改訂を考える必要があるとして、令和6年に初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議が設置されました。この会議では生成AIに関するサービスの活用法や使用時のリスクなど、さまざまな視点から意見交換が行われ、具体的な検討が進められています。
▽改訂に向けた意見交換・検討内容
・学校現場における生成AIの利活用の在り方
・児童・生徒が学びに活用する際の考え方や留意点
・教職員が校務において活用する際の留意点や利活用に向けた方策 など
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIに関するこれまでの取組み』『初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議 設置要綱』
5.全国学力学習状況調査でCBT方式が拡大
全国学力学習状況調査は、義務教育の機会均等とその水準の維持向上を目的とする調査です。調査にCBT(※)方式を導入することで、国や教育委員会、学校における活用が充実することが期待されています。
▽CBT方式の拡大で期待されること
・解答データを機械可読のビッグデータとして蓄積できる
・ICT端末を利用することで、多様な方法環境での出題・解答が可能になる
・電子データにより問題解答を配信回収することで負担を軽減できる
CBT方式を導入する教科は1教科から徐々に増やし、課題の抽出と解決を繰り返すことで段階的に拡充し着実に移行していくことが重要です。
令和7年度は、中学校調査のうち理科のみをCBT方式で実施する予定とされており、令和8年度以降は、CBT方式実施教科を可能な限り拡大する方向です。また、小学校への導入については、中学校の実施状況を踏まえ検討していくとしています。
※CBT(Computer-based Testing)とは、コンピュータ使用型調査のこと
出典:文部科学省『令和7年度以降の全国学力・学習状況調査(悉皆調査)のCBTでの実施について』
6.不登校児童・生徒の学びの場の保障が正念場
近年、不登校の児童・生徒が増加していることが大きな課題となっています。文部科学省が発表した『令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要』によると、不登校の児童・生徒数は約34万人にも上り、11年連続で増加している状況が明らかになりました。
こうした現状を受け、令和5年3月に『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』が、同年6月に『経済財政運営と改革の基本方針2023』が示され、不登校児童・生徒の努力や成果に対して適切な評価を受けられる仕組みづくりが進められています。
令和6年8月には、不登校児童・生徒が行った学習成果に対する成績評価について法令が改正されました。
学校教育法施行規則の一部改正
義務教育段階の不登校児童生徒について成績評価を行うにあたっては、文部科学大臣が定める要件の下で、不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果を考慮することができることを法令上に規定
引用元:文部科学省『不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果の成績評価に係る法令改正について』
多様化する学習環境や子どもたちに対し、誰一人取り残されない学びの充実に取り組んでいくことが今後の課題といえます。
出典:文部科学省『令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要』『不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果の成績評価に係る法令改正について』『「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について(通知)」令和6年8月29日』『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』『経済財政運営と改革の基本方針2023』
7.コミュニティ・スクール導入校が公立で拡大
コミュニティ・スクールとは、学校運営協議会を設置した学校のことを指します。平成29年3月、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部が改正され、学校運営協議会の設置が努力義務化されました。
学校と地域住民等が力を合わせて学校運営に取り組むことを可能にする「地域とともにある学校」への転換に有効な仕組みとして、注目が集まっています。
▽コミュニティ・スクールの主な機能
・校長が作成する学校運営の基本方針を承認する
・学校運営について教育委員会または校長に意見を述べることができる
・教職員の任用に関する教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述べることができる
令和6年5月の段階で、全国の公立学校におけるコミュニティ・スクールの数は20,153校、導入率58.7%でした。文部科学省は、今後も更なる導入の加速化、地域学校協働活動との一体的な取り組みを進めることでコミュニティ・スクールの質向上を図っていくとしています。
出典:文部科学省『令和6年度コミュニティ・スクール及び地域学校協働活動実施状況調査(概要)』『令和6年度 コミュニティ・スクール及び地域学校協働活動実施状況調査』
8.小学校中学年からの教科担任制が本格化
義務教育9年間の見通しを重視し、複雑化・多様化する令和の学校の在り方を踏まえて、文部科学省では令和4年度から段階的に教科担任制の推進に取り組んでいます。
▽教科担任制導入の4つの観点
(1)授業の質の向上
(2)小中学校間の円滑な接続
(3)多面的な児童理解
(4)教師の負担軽減
また、教科担任制実施の効果が十分に発揮されるためには、連携して学校全体で組織的に取り組むことが重要です。
▽教科担任と学校全体の連携
・管理職による積極的なマネジメント
・学級担任と専科教員、相互の指導の内容や状況に目を配る
・時間割を作成する上での複雑性
・専科教員や児童の学校内での移動に伴う時間の確保 など
現在、教科担任制を導入している小学校では、時間割を作成する上での複雑性や、専科教員・児童・生徒の学校内移動に伴う時間の確保など、さまざまな課題が挙げられています。これらを一つひとつ解消することで教育環境の改善を図り、教育の質向上につなげることが重要です。
出典:文部科学省『教科担任制に関する事例集冊子』
9.大学入学者数がピーク迎え、減少へ
急速な少子化により、18歳の人口は大きく減少する一方、大学進学率は大幅に上昇しています。
▽18歳人口と大学進学者数の遷移
・1966年:18歳人口 約249万人 / 大学進学者数 約29万人
・2023年:18歳人口 約110万人 / 大学進学者数 約63万人
・2040年:18歳人口 約82万人(推計) / 大学進学者数 約51万人(推計)
少子化に伴い、18歳人口の減少が推計どおりに進行すると、今後の大学進学率の伸びを加味しても大学入学者数が増加するとはいえません。
新型コロナウイルス感染症に対する措置の影響、遠隔教育の普及や生成AIの台頭、研究力の低下、国際情勢の不安定化など、高等教育を取り巻く状況は大きく変化しています。
▽今後の高等教育政策に求められること
・教育研究の「質」のさらなる高度化
・高等教育全体の「規模」の適正化
・高等教育への「アクセス」確保 など
大学をはじめとした高等教育機関の在り方を見直し、今後の高等教育政策の方向性と具体方策を講じる必要があります。
出典:文部科学省『急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)概要』
10.公立学校教員の採用選考、令和7年度は5月から
令和5年5月、文部科学省は教員採用選考試験の早期化を進めるという方向性を示しました。近年の採用倍率の低下や受験者数の減少、民間企業等の就職活動の動向を踏まえ、教師志願者の増加を図り、質の高い教師の確保につなげるのが目的です。
令和6年度実施教員採用選考試験の第一次選考は6月16日を目安に設定したものの、依然として教員採用選考における受験者減少傾向が続いています。
新規学卒者の受験動向も踏まえ、もう少し前倒しの日程を検討する必要があるとして、令和7年度実施教員採用選考試験の第一次選考は5月11日を目安とし、最終合格発表も前倒しを検討するよう求めました。
教員採用選考試験の複数回実施や多様な専門性を有する質の高い教職員集団の構築に向け、採用選考を工夫することで質の高い教師の確保につなげていくことが重要です。
出典:文部科学省『令和8年度教員採用選考試験の実施に関する留意点等について(通知)』
まとめ
時代とともに多様化する社会や学習環境のなかで、教育に関する計画や取り組みに関して議論が活発化しています。より質の高い教育を受けられる学びの場や教員を確保するため、さまざまな法令改正や政策が本格的に実施され、今後の教育現場の展開にも期待が高まっています。
子どもたちに必要な学びを実現させるためには、教育関係者はもちろん、地域含め社会全体が連携していくことが大切です。