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インテル×教育機関 ハイスペックな「ラボ」で培われる資質・能力とは

8面記事

企画特集

教室には高性能デスクトップ型PC31台と立ちながらでも作業可能なデスクが並べられている

教員養成大学がハイスペックなPC環境を整備する意義とは
~信州大学教育学部村松研究室「FabLab長野」~

 今、学校現場では未来の創り手を育もうと、先端テクノロジーを体験できる「ラボ」を設置する機運が高まっている。さかのぼること2016年5月、信州大学教育学部の村松浩幸研究室は、デジタル工作機器を活用した市民向けのものづくり工房「FabLab長野(ファブラボ長野)」を企業との共同運営で立ち上げた。以降、教員を目指す学生が次世代型教育のあり方を学んだり、教育研究に活用したりするとともに、先端テクノロジーを活用した新たな教職科目や教員研修プログラムの開発に取り組んでいる。そこで、これからの時代に必要な資質・能力を育てるために、教員養成大学がハイスペックなPCやデジタルなものづくりの環境を整備する意義について聞いた。

村松 浩幸 信州大学学術研究院教育学系教授 同大学教育学部学部長。
NHK高専ロボコン審査委員長、前・日本産業技術教育学会会長など。
専門は技術教育学。中学技術科はじめ技術教育の振興に尽力。
2015年科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞理解増進部門受賞

次世代型教員養成のモデルに~教員・学生相互でICT活用に取り組む~

 信州大学教育学部の学生は、約20年前から入学時にBYODとしてノートPCを自分で購入し、授業や研究などでICTを活用している。これに加え、ものづくり・技術教育コースの学生を中心に、「FabLab」でのハイエンドなPCや3Dプリンター、レーザー加工機を活用した創作活動が行われている。
 また、同学部では教職のICT必修科目として「コンピュータ利用教育」があるが、同学部では全コースの教員が担当しているのが特徴だ。そのため、学生の教育や現場の先生方の研修に寄与することを目的に「次世代型学び研究開発センター」を設置。例えば小学校においてプログラミング教育がスタートしたときも、このセンターが中心になって教材・研修等を提供する仕組みになっている。
 「クラウド活用しかり、最近ならデータサイエンスやAIについても全コースの教員に関わってもらうことで、コンピュータの授業だけでなく、各教科や各領域でのICTの利活用が広がっている。これが、他の大学との大きな違いになったと考えている」と村松教授。その中で、学生たちに対しても附属小・中学校での教育実習においてICT活用を必須にしたところ、附属学校内でも自然とICT活用が進み始めたという。「最初は教員の提示型の使い方が中心だったが、1人1台端末&クラウド活用によって児童生徒自身の活用へと広がった」と話す。
コロナ禍でも、信州大で最初にオンライン授業を立ち上げたのが教育学部で、ここでも全コースの教員が関わるカリキュラムモデルが功を奏したといえる。「学校のICT活用では、どうやって教職員全体を巻き込んでいくかが課題になるが、こうした仕掛けが重要だったと改めて感じている」と振り返った。

ハイスペックなPCがもたらすもの

 一方、学生は4年間かけてPCを活用するため、ハイスペックなPCでないと物足りなくなってくる。使い方もおのずと高度化していくことから、エンジンとなるCPUには高負荷な処理やマルチタスクに耐えられる一定の性能を持ったスペックが求められるようになるのだ。ましてや、生成AIなど先端技術が急速に進化する今日では、インテル社が提供している動画処理やAI処理速度に優れたCPUを搭載したPCのニーズが高まっている。
 「学校へのハイスペックなPCの導入には、今すぐ授業で活用したいという場合とともに、将来を見据えた必要性も考えていかなければならない。ハイスペックなPCにより新しい世界や可能性が見えてくると子どもたちの学びも広がる。それらを踏まえると、まずは先生方から導入していくとともに、端末の入れ替えやDXハイスクールなどの機会を通じて最先端な学びが実現できる環境をできる限り整備していく必要がある」
 デジタル工作機器にも同じことがいえる。3Dプリンターも「FabLab」を立ち上げた頃は、大学生ならともかく、中学生が使うなんて考えられなかったという。「これまで木工や粘土で手作りしていたものを、3Dプリンターで簡単に立体造形できるようになったのは大きな進歩。今では長野市内の高校や中学校でも、3D―CADソフトや3Dプリンターを使った授業が試みられている」と時代の変化を口にする。

FabLab長野にある3Dプリンターの前で話す村松教授

テクノロジーを使って未来の創り手を育てる授業づくりができる力を

 その上で、デジタルなものづくりには、完成までのプロセスにおいても試作・検証が容易で問題解決が図りやすく、自由度も高いのが魅力と指摘。「STEAM教育を軸とした探究的な学びが求められる中で、先進技術が寄与する部分はとても大きい。ハイスペックなPCやデジタルなものづくりの環境を整備することは、未来の創り手となる子どもたちの好奇心を刺激するだけでなく、創造性や可能性を狭めないといった観点からも重要になる」
 ただし、子どもたちの課題解決につながり、学び自体が深まるようにすることが教員の役目であることは変わらない。「だからこそ、教員も先端テクノロジーを一定以上は経験しておく必要がある。本学部では、そうした意味からも教員養成の段階から学生らにハイスペックなICT環境に触れる機会を用意し、未来の創り手を育てる授業づくりに生かせる力を付けてあげたいと考えている」と強調した。

課題解決型人材を育成する教員研修プログラム インテル(R)SFI フレームワークの提供を開始

世界で2万人以上の教員が参加

 インテル社では、次世代のイノベーターを育成する教育現場でのテクノロジー活用を推進するため、小中高等学校の教員向け研修プログラム「インテル(R) Skills for Innovation フレームワーク(SFI)」を提供している。
 インテル(R)SFIフレームワークは、米国をはじめとする世界47か国で2万人以上の教員が参加しており、急激に変化する社会に柔軟に適応できる、課題解決型人材の育成に向けた授業デザインや指導、評価手法について理解を深めることができる。
 未来社会で活躍する児童生徒の基盤を築くとともに、教育現場の変革を支援している。現在、日本の教育委員会や教員養成系大学、学校と連携し、テクノロジーを活用した新しい教育モデルを推進している。

社会変化に適応したスキルを育成する

 このような背景には、第4次産業革命による雇用の需要変化に伴い、AIや機械学習、ビッグデータなどテクノロジー分野の人材需要が増加しており、今までと異なるスキルが必要になっていることが挙げられる。すなわち、日進月歩で進化しているこれからのIT社会で活躍するためには、学校教育の段階から、課題解決能力、技術設計およびプログラミングにおけるスキルアップを図っていかなければならないのだ。
 GIGA端末の更新時期を迎えた教育現場では、PBL型学習や文理を融合した総合的な学びを取り入れるSTEAM教育が新しい時代の学びとして注目を集めており、そのため文科省も教員のICTを活用した指導力の向上に取り組んでいる。また、高等学校では「DX加速化推進事業(DXハイスクール)」によって、ハイスペックなPCの導入などSTEAM教育に必要な環境の整備も進められている。

STEAM教育を豊かにするサポートを

 こうした中、テクノロジー活用を通じた授業変革と教員のマインドシフトの実現を目指すインテル(R)SFIフレームワークでは、70種類以上のアクティビティを含む教員用指導案、パワーポイントプレゼンテーション、児童生徒用ワークシートなどのデータをセットにした教材で、児童生徒がさまざまなICTツールを活用して課題解決実践できる内容が特徴の「スターターパック」と、自主学習を通じた基礎知識の習得から始まり、集合研修での模擬授業や最新ツールの活用、現場実践後の振り返りとフィードバックまで、教員がテクノロジーを効果的に活用した授業をデザイン・実施するための包括的な「教員研修」をセットにしたパッケージを用意。これらの学習者中心の授業デザイン+目的を持ったテクノロジー活用による各段階での学びを通し、教員が21世紀のスキルを子どもたちに指導する方法を深められるのが魅力だ。
 なお、ダイワボウ情報システム(株)では、インテル(R)SFIフレームワークを基にした独自の教員研修プログラムを開発し、来年4月から全国の販売パートナーを通じて教育委員会・学校への提供をスタートさせる。そのほかの協力企業においても、順次提供を開始していく意向だ。

スターターパックはこちらからダウンロード!

登録コード:InTelSFIJapan

「STEAM Lab」が拓く、未来の学び

~次期学習指導要領で注目を浴びる、STEAM教育の最前線を探る~

 テクノロジーを活用して新たな価値を創造できる人材の育成が求められる中、次期学習指導要領では文理融合型のSTEAM教育が重視されるといわれている。インテル社では、こうした次世代型の学びを広げるため、これまで全国19校に社会で通用するハイスペックなハードとソフトを提供する「STEAM Lab」の整備を支援している。ここでは、その中の2校の取り組みを通じて、未来の創り手を育成する教育の可能性を探った。

現地レポート(1)デジタルなものづくりを通して「深い学び」を
兵庫教育大学附属中学校 STEAM教育を実践する場として

左から荊木講師、森山教授、冨田校長

 2022年春、兵庫教育大学はインテル社の助成と大学の予算を投じて「STEAM Lab」を附属小・中学校を含めた3カ所に整備した。立ち上げに関わった森山潤教授は「文科省から教員養成フラッグシップ大学の指定を受け、令和の日本型学校教育に向けたSTEAM教育の推進とそれに係わる教員養成を図る狙いがあった」と振り返る。
 こうした背景には、2021年度から附属幼・小・中学校においてSTEAM教育の共同研究を進めてきた経緯がある。「足りなかった環境面が整い、本格的な実証研究が可能になった」と語るのは、冨田明徳校長(兵庫教育大学附属小・中学校)だ。
 そのような兵庫教育大学附属中学校の「STEAM Lab」には、インテルの高性能なCPUを搭載したデスクトップPC31台がグループ学習に適したテーブルごとに配置されているほか、教室を取り囲む形で複数台の3Dプリンターやレーザー加工機などが整然と並べられている。また、PCには高度なデザインと画像編集が可能なクリエィティブツールがインストールされ、ロボット・プログラミング教材も豊富に備えるなど、まさにデジタルなものづくりを体験するにふさわしい空間になっている。
 なお、小学校はこうしたメディア教室と廊下を挟んで多目的に使える空間が地続きになっており、「総合や英語、理科などの教科に加え、オンラインでの国際交流もこの場所で行っている」と冨田校長が話すように、より柔軟な活動ができる設備になっている。

"分かる"と"創る"が往還する学びが実現

 一方、中学校の「STEAM Lab」は、総合でSTEAM型のプロジェクト学習を実施。教科では技術科を中心に理科や美術など幅広く活用しているほか、科学部もこの場所でミニチュア模型を作って文化祭で発表した。こうした取り組みが進む中で、技術科を担当する荊木拓講師は「昨年、社会問題の一つであるバリアフリーに役立つロボットのモデルを作成する授業を行ったが、例えば数学の授業でも3Dプリンターを使うことを提案するなど、そこで得た知識や技術を他の教科でも生かそうとする生徒が増えた」と語り、それはロボットコンテストへの応募といった学校外の創造活動にも発展しているという。
 これを受けて森山教授も「個々の学びの支援はタブレット、クリエーティブにプログラミングやコンテンツづくりをするときはデスクトップPCと、上手く使い分けができるようになっている」と生徒の成長を口にする。その上で「今までの教科の学びは"分かる"というゴールで終わることが多かった。しかし、生徒がこの環境で創造する手段を身に付けることによって、"分かる"と"創る"が往還する学びができるようになったことが大きな変化」と話し、そのことが教科を横断して考える力にもつながっていると指摘した。

他者と協働する力、課題の先へ向かう姿勢

 「STEAM Lab」の活用を知るために、荊木講師による3年・技術科「単元:機械が動く仕組み」の授業を視察した。ここでは実際に「micro:bit」で機構を動かすプログラミングにチャレンジしながら、回転運動を伝える仕組みの学習理解を図っていた。
 最初に大型モニターで概要を説明してから、小グループに分かれて工作づくりに挑む。生徒たちは持ち込んだタブレットで手順を確認しつつ、基板をPCに接続し、プログラムを作成していく。その過程では、他のグループからアドバイスをもらう、フリースペースに移動して情報交換するなど、クラスメイトと協働しながら課題解決していく姿がいくつも見られた。
 その後、実行できたグループに森山教授が「動いているときにLEDが点灯するカスタマイズができるよ」と声をかけると、すぐにトライ。「こんなのができるんだ!」と目を輝かせると、他にどのようなプログラミングができるのかを自発的に探し始めた。さらには、学校のチャイムを模したメロディを創作したり、パーツを追加して別のクランク機構を作ったりしたグループもあり、知識を得るだけではない、自ら創造力を働かせる取り組みへと発展していたのが印象的だった。

話し合いながら思い思いにプログラミングを作成し、クランク機構を動かす生徒たち

世界を変えていく子どもたちを育てる

 荊木講師はアナログとデジタルを融合したものづくりを授業に取り入れている。バリアフリーに役立つロボットを福祉用具メーカーに評価してもらうことで、ユーザー目線や製造面での課題を知り、実社会で通じるリアルなものづくりへの意識を高めている。
 その上で、森山教授は「こうした未来の教育を先取りした環境のもと、デザイン思考を働かせる教育をしっかり展開し、世界を変えていく挑戦ができるようなマインドを持った子どもたちを育てていきたい。それには指導できる教員の養成が大事になることから、現在の教職課程のカリキュラムを刷新していきたい」と抱負を語った。

現地レポート(2)子どもの創造の翼を広げる拠点に
埼玉県戸田市立戸田東小学校 20年後の社会で活躍できる子を育成する

STEAM Labには一つの島に4台ごとハイスペックPCが配置されている

 教育改革を進める戸田市は、これからの時代を生きる子どもたちに必要な資質・能力を育成するため、産官学と連携しながら、Subject、EdTech、EBPM、PBLの4つの視点からなる「戸田市SEEPプロジェクト」を実践するとともに、義務教育段階におけるSTEAM教育の基盤づくりに力を入れている。
 その一つとなるインテル社との共同研究では、2021年4月に施設一体型の小中一貫校として開校した戸田市立戸田東小学校・中学校に「STEAM Lab」を整備。この教室にはインテルのほか、協力パートナーとしてリコージャパン、アドビ、アバロンテクノロジーズから提供された高性能なCPUを搭載したデスクトップPC21台、3Dプリンター3台、ロボットカー10台、大型掲示装置、動画編集ソフト、3D-CADソフトなどが配備されており、まさに未来の学びを見据えたクリエイティブな活動やアウトプットが表現できる場となっている。
 こうした中、「20年後の社会で活躍できる子」の育成を目指しているのが戸田東小学校だ。探究的な学びを自己完結で終わらせない「誰かの何かの課題」を解決するプロジェクト型学習「しののめタイム」を実践する中で、教員が集団を導くファシリテーターとなり、子どもの自律的な学びを促すスタイルへと舵を切ってきた。
 そのような新たな学びを通した教員・子ども双方の変容を受け、「各教科の見方・考え方を着実に育てる必要性を感じ、教科の中にも分野横断型にテクノロジーの活用を加えたSTEAM教育の視点を取り入れる試みを進めている」と高橋博美校長は語る。

主体的な学びや創造性を発揮できる場に

 同校の「STEAM Lab」は、こうしたPBLとSTEAM教育を融合する上で欠かせない拠点となっている。同校でSTEAM教育の研究推進委員を務める清水享教諭は、「知る」と「つくる」のサイクルを軸にした学びによって学習が変化した例として、3・4年生のプログラミング教育で、「Scratch」でプログラムを作成するだけでなく、そのプログラムをロボットカーに転送し、実際に動かしてみるところまで授業が発展したことを挙げる。その取り組みでは、目的地まで最短で到達する、障害物を避けるといったプログラミングにもトライすることで、最終的には自分たちで迷路を作るところまでできるようになった。
 また、5・6年生になると外部講師の有識者からオンラインでアドバイスを受けたり、動画編集ソフトにいろんな素材を取り込み、字幕や音を加えて編集作業を行ったりする児童も出てきているなど、自ら課題を見つけ、その解決の糸口を探るために「STEAM Lab」を活用することが多いという。
 例えば、6年・算数「比」の単元でPBLを組み、身近なものの中から黄金比を探すという課題を与えた際、「等身大のものをデフォルメしたときに、一番可愛らしく見える縦横比がある」と主張したグループがあった。それは日本の建築物などに古くから使われている「白銀比」という縦横の比率で、今も多くの有名キャラクターの体型に採用されているものだった。その上で、「一般的なフィギュアと白銀比のフィギュアを3Dプリンターで作り、実際にどちらが可愛らしく見えるかを比較するところまで発展した」と学びが深まる過程を口にした。

3Dプリンターに出力するためのデータを作成する児童

社会で通用する本物の道具に触れるメリット

 このように、同校では「STEAM Lab」というデジタルなモノづくりができる環境を使って、PBLの成果物を制作することが日常化している。取材時も、児童たちが授業の合間を利用して3Dプリンターで作っていた成果物を受け取りにくる場面があった。
 ただし、「STEAM Lab」はPBLの課題解決に取り組む中での選択肢の一つであり、児童が課題解決において最適な方法として選んだときに利用する場となっているのがポイントだ。谷口広樹教頭は「段ボールや粘土で作る以外に、3Dプリンターで作るという選択肢ができた。つまり、自分の可能性を広げる手段をもう一つ手に入れたことになる」と指摘した。
 もちろん、「STEAM Lab」を活用した授業をデザインするにあたっては、教員が基本操作を覚えるところから始める苦労もあった。しかし、「いざ使い始めると児童の方が呑み込みも早く、まずは使わせてみることが大事だと気付いた。小学生のうちから社会で通用する本物の道具を体験できることは、好奇心を刺激してキャリア教育につながるほか、これからの予測困難な時代にも、変化にしなやかに対応できるスキルになるはず」と清水教諭は期待を口にする。
 今後、「STEAM Lab」で行っていきたい取り組みとしては、学年を超えた協働的な学びの場として活用することを挙げる。「4~6年生が共同でプログラミングや3Dプリンターで制作する、場合によっては施設一体型のメリットを活かし、中学生も一緒になって教え合ったり学び合ったりするような学びができれば」と抱負を語った。

インタビューに答える谷口教頭(左)、清水教諭(右)

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