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子どもの声からはじまる 保育アセスメント 大人の「ものさし」を疑う

14面記事

書評

松井 剛太・松本 博雄 編著
対話通じた活動展開の可能性

 保育現場で痛ましい事件や事故が起きるたびに、保育を見る世間の目は厳しさを増し、保育内容は制約的になる。学校教育と同様に、保育にもPDCAサイクルが導入され、可視化可能な画一的な評価が優先される。
 本書は、このような社会情勢において、創造的で、子どもと保育者の水平的な多様性に満ちた保育活動を展開していく可能性を理論的かつ実践的に論じたものである。
 第Ⅰ部では、イギリス、イタリア、ドイツ、スウェーデンにおける、子どもの権利の尊重を基礎に置き、対話を通じて子どもの声を聴きながら進めて行く保育アセスメントの歴史的発展や現状、課題などが述べられている。
 第Ⅱ部では、日本における乳児から幼児までの楽しく、かつ魅力的な保育実践の記録が紹介されている。子どもたちと接する保育者が、子どもの発した声だけでなく、表情やしぐさなどを含めて、子どもの声を対話的に聴き取る様子が生き生きと描写される。QRコードで読み取れるドキュメンテーションや写真・動画によって、臨場感はさらに増す。
 保育の中で成長発達していくのは、子どもだけではない。子どもの声を聴き取ろうとする保育者もまた、保育活動や子どもを見る自らの「ものさし」を問い直していくのだ。そこには、保育に関わる全ての人たちが発達していく保育の新たな可能性が開かれている。
(2860円 北大路書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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