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学びと成長の講話シリーズ第5巻 幸福と訳すな!ウェルビーイング論 自身のライフ構築を目指して

16面記事

書評

溝上 慎一 著
評価規準などの不透明さ危惧

 著者の主張の根幹にあるのは、「ウェルビーイングは、自身のライフをどのように構築するか、それが自身にとって満足いくものであるか、それによって自分は幸せだと感じられるかを評価することを問題とする概念である」とする考え方である。
 本書は全5章構成で、第1章は、著者のウェルビーイングの定義とそのポイントを二つの観点から、第2章は、ウェルビーイング論における主観的アプローチについて、第3章は、ウェルビーイング論の前史について、それぞれ論じられている。第4章は、鳥取県倉吉市における取り組みを紹介し、その成果と課題を分析する。第5章は、ウェルビーイングの危うい二つの捉え方について論じる。
 令和5年3月の中央教育審議会の次期教育振興基本計画に関する答申を受けて、多くの学校の経営方針に「ウェルビーイング」があふれている。しかし、児童・生徒一人一人が「自分が幸せだ」と評価するための評価規準はどのようなものであり、それを確かに習得させるための方略はあるのかが見えないことを評者は危惧している。さらに、人間は社会的存在であるという視点が欠落しているようにも感じる。著者は、自身のライフの構築においては、主観的ウェルビーイングとともに社会的ウェルビーイングが表裏一体のものとして捉える必要があることを指摘しており、大きな示唆を得ることができた。
(1650円 東信堂)
(新藤 久典・元国立音楽大学教授)

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