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小中一貫教育はなぜ推進されている? その背景と期待できる効果

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 学校教育の現場では、不登校やいじめ、学力低下、学校間格差など解決すべき課題が挙げられ、その一因として中学進学時の環境の変化があるとされています。授業のスピードや指導方法が変わったり、定期考査が行われたりなど、小学校生活と中学校生活との間に大きなギャップがあります。これにより、子どもたちが大きな不安を抱えてしまっていると考えられます。

 日本の義務教育制度では、小学校に6年間、中学校に3年間通うことが一般的です。しかし、現在さまざまな課題の解消を図るために「小中一貫教育」という教育課程が注目されています。

 今回は、小中一貫教育とは何か、その目的と効果について解説します。

小中一貫教育とは

 小中一貫教育とは、従来の小学校・中学校にあたる9年間の義務教育を一貫して行う教育課程のことです。「小中一貫型小学校・中学校」と「義務教育学校」の2つの形態があります。

 小中一貫型では、組織上独立した小学校・中学校が義務教育に準じる形で一貫した教育を実施します。

 一方、義務教育学校では、1人の校長の下で1つの教員集団が9年間一貫して教育課程を編成・実施します。平成27年6月の通常国会において、新たな学校の種類である「義務教育学校」の設置を可能とする改正学校教育法が成立し、平成28年4月1日に施行されました。

出典:文部科学省『小中一貫した教育課程の 編成・実施に関する手引』『小中一貫教育制度の導入に係る学校教育法等の一部を改正する法律について(通知)

小中一貫教育の推進に至る経緯

 グローバル化や情報化の進展、核家族化や少子化の進行といった社会状況が急速に変化するなかで、学校の現場でも児童・生徒を取り巻くさまざまな課題が多様化・複雑化しています。

 中央教育審議会では、『新しい時代の義務教育を創造する(答申)』で義務教育の質の向上が求められています。幼児教育と小学校教育については、平成22年『幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議』の報告により、両方を連続性で捉えるよう示されました。中学校と高等学校については、平成11年度に中高一貫教育制度が選択的に導入されています。

 一方、小学校と中学校の連携についてはこれまで検討されていませんでしたが、グローバル化や少子化が進む現状を踏まえて、中高一貫教育を推進することがさまざまな課題解決につながると考えられています。

出典:文部科学省『新しい時代の義務教育を創造する(答申)』『幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議

小中一貫教育が推進されている背景

 文部科学省の『小・中学校間の連携・接続に関する現状、課題認識』によると、小学校から中学校へ進学する段階で、不登校やいじめといった問題が急増する傾向にあることが分かっています。『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の経年的な結果によると、小学校から中学校へ進学する際に下記のような課題があることが考えられます。

 ・新しい環境での学習や生活に不適応を起こす「中1ギャップ」
 ・学習・生徒指導面での小・中学校の接続が円滑でない
 ・上級生や教職員との人間関係の変化による不安も影響されている

 また、各児童・生徒における心身の発達や成長においても早期化が見られ、従来であれば中学校段階の特質が、現在では小学校段階でも見られる傾向にあります。

 このような状況への対策として小中一貫教育の推進が有効に作用すると考えられています。小中一貫教育により、小・中学校の接続が円滑に行えるような工夫や、学習面でのギャップを小さくするための対策を行うことが可能です。

出典:文部科学省『小・中学校間の連携・接続に関する現状、課題認識』『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査

小中一貫教育の目的

 小中一貫教育の目的として、以下の3つの要素が挙げられます。

(1)小学校から中学校への接続を円滑化する

 ・学習や人間関係といった環境の変化を軽減し中1ギャップの解消につなげる
 ・各児童・生徒の発達に合わせた指導を行う

(2)児童・生徒がさまざまな教職員、児童・生徒と関わる機会を増やす

 ・地域コミュニティの弱体化、核家族化、少子化の進行による人間関係の固定化を避ける
 ・かかわる相手を増やすことで学びの機会や視野を広げる

(3)教育内容や学習活動の量と質を向上させる

 ・小学校と中学校の教員が連携することで、9年間の義務教育の全体像を把握する
 ・長期的な視点から学習・生徒指導の工夫に取り組む

小中一貫教育に期待できる効果

 一部の市町村では、実際に小中一貫教育の取り組みを進めており、その成果が認められています。これらの成果を参考に小中一貫教育を導入することで、児童・生徒や教職員、社会へのメリットが期待できます。

▽具体的に成果が見られた項目例

 ・中学生の不登校出現率の減少
 ・市町村または都道府県独自の学習到達度調査、全国学力・学習状況調査における平均正答率の上昇
 ・児童・生徒の規範意識の向上
 ・異年齢集団での活動による自尊感情の高まり
 ・教職員の児童・生徒理解や指導方法改善意欲の高まりや意識面の変化

小中一貫教育を導入する取り組み

 現在、さまざまな市町村が小中一貫教育を導入する取り組みを進めています。ここで、その取り組み事例と成果について紹介します。

▽千葉県君津市

 ・取り組み内容:小・中学校教員の相互乗り入れ授業を実施
 ・成果:小・中学校の先生が来て算数や数学の授業を進めることで児童・生徒の学習意欲を引き出すことができた

▽山口県和木町

 ・取り組み内容:コミュニティ・スクール委員会を中心として、園・小・中学校が連携して取り組む活動の課題分析と目標設定を行い、学力向上部会、心の教育部会、体力向上部会の3部会による教職員研修会を実施
 ・成果:園・小・中学校をつなぐカリキュラムを作成したことにより、教職員の学校間の学びをつなぐという意識が高まり、授業改善につながった

▽福岡県篠栗町

 ・取り組み内容:中学校体育会の一部種目への小学校高学年の参加や小学校体育会の運営面における中学生による受付、救護ボランティアなど、小・中学校の合同行事を実施
 ・成果:地域からの小中一貫教育に対する関心が高まり、学校同士の組織連携も進んだ

子どもたちの成長に合わせた教育を

 現在、小・中学校では各段階の教職員が丁寧に児童・生徒へ指導をしています。しかし、小学校から中学校に進学する際の環境の変化は、子どもたちにとって大きな負担となっていることが分かっています。

 中学校進学時に子どもたちが抱えやすい不安を解消し、有意義な学校生活をおくるためには、学校教育が生徒・児童の心身の発達状況に対応することが求められます。今後の小中一貫教育への取り組みにより、現状課題となっている中一ギャップや環境の変化に対する不安などの解消が期待されています。

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