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Change!子ども主体の学びに対応した学校を創る

9面記事

施設特集

“どんな学びを実現したいのか”を明確にした上で学校を創り変える

ウェルビーイングな視点で進める学校施設づくり

 文科省はウェルビーイングの考え方をコンセプトに、授業以外の場面も含めて児童生徒一人一人が満ち足りた学校生活をおくるための学校施設へと改善していくことを提唱している。そこで、こうした時代の変化に対応した学校施設づくりのあり方を紹介する。

学校改革に対応した施設の改善

 社会のあり方が大きく変化する時代を迎え、これからの学校教育は教員主導による一斉型授業から、子ども自らが主体的かつ協働しながら学びを深めていくことが必要になっている。こうした中で学校施設にも従来の教室中心の形態から脱却し、フレシキブルな学習スタイルに対応できる空間が求められるようになっている。
 例えば、グループでの話し合いやプレゼンに向いた教室形態、高度なICT活用や個人研究・探究活動に適した設備を備えたメディアラボ、特別の配慮や日本語指導が必要な子どものための余裕教室の利用、廊下や階段を含めたオープンスペースの有効利用など、学校全体を学びの空間として再構築することが期待されている。
 一方で、学校施設は構造体の劣化対策やライフラインの更新など長寿命化改修によって「省エネ」効率を高め、脱炭素化に貢献していくことや、誰もが快適に過ごせるバリアフリー化を進め、インクルーシブな教育環境へと創り変えていくことも重要になっている。その中では、9年間の学びの連続性を重視した小中一貫校の新設や、地域コミュニティーの拠点としての他社会施設や体育施設との複合化も進められるようになっている。
 ただし、このような学校改革に対応した施設の改善は、もはや学校設置者だけで考えるべきものではない。それには、学校現場や地域の声を反映するとともに、最新の知見を持った専門家・民間企業のノウハウや知恵も借りながら、地域全体で新たな学校づくりに取り組んでいくべき課題といえる。つまり、これからの学校はどうあるべきか、どんな学びを実現したいのかを明確にした上で、その思いを具現化していくプロセスが大事になる。

子ども主体で学習が進められる空間に

 こうした中、文科省は9月に「ウェルビーイング向上のための学校施設づくりのアイディア集」を公表した。ウェルビーイングを実現するための視点を、児童生徒の「学び」「生活」の充実、その基盤として必要な「環境」と「安全」、さらに学校を地域の中で作っていく「共創」を加えた5つに整理し、多様な主体の参画によって生まれる施設整備の展開を紹介しているのが特徴だ。
 「学び」の事例の一つが、子どもたちが活動空間を広げていく普通教室になる。富山市立芝園小学校では、オープンスペース型の普通教室において、通常の一人用机だけでなく、数人が寄り合って作業できる大型机を配置。子ども一人一人が学習課題を持ち、自分にとって最適な方法や場所で他者とも協働しながら学んでいく複線型授業を実施している。このような学習活動の行き来を結びつけるのは、クラウドによる子ども間や教員・子ども間のリアルタイム参照になる。
 また、教室前のオープンスペースに、グループ学習や個別対応できる場所を用意する。壁一面のホワイトボードをマルチスクリーンとして活用するとともに、机や椅子も可動&スタッキングできるものに変更することで、教室空間も個別や集団などマルチに活用できるようにした事例もある。

対話や発表の形に対応

 対話や発表の形に対応した空間づくりとして、京都市立開建高等学校では、普通教室4つ分の大空間を区切ることなく使用。生徒80人が一つの探究課題に取り組み、各所でのグループ発表と、それに対しての質問から対話を誘発させ、学びを深めている。また、異年齢集団での対話を重視した教育を行うために、大規模改修時に普通教室に「サークル対話」のためのベンチを配置した学校もある。
 図書室の活用では、ICT機器と併用したラーニングセンター化を進める学校が多いが、地域住民と共有する場所にした北海道安平町立早来学園に注目した。ここでは、学校教育活動の時間帯であっても地域住民が本の貸し借りや仕事の場として使用することが可能で、学校全体の活気や地域交流への興味が高まったという。

生徒の心持ちにフィットする場所を

 「生活」では、生徒の心持ちにフィットする場所を提供するために、岐阜市立草潤中学校は、学習机・椅子の代わりにオフィス用の家具を多く取り入れた普通教室のほか、一人学習用のブースやソファでくつろげる空間など、授業中にも利用可能な居場所の選択肢を用意した。ユニークなのは、その日の授業ごとに校内外の選択肢から生徒が授業を受ける場所を決めていることで、廊下に設けられた「イマここボード」に自分のネームプレートを張り、教職員や他の生徒に居場所を知らせていることにある。
 また、廊下の各所に休憩時間にちょっと一休み、友達とおしゃべりできるスペースや一人用ソファを置く、学習空間・教室とは別に児童生徒のロッカー・休憩スペースを確保する、不登校傾向のある生徒が一人で学習しやすいサポートルームを整備した学校も。
 ユニバーサルな環境整備としては、トイレ改修時に、自認する性と身体の性に違和感がある子どもにとっても使いやすいよう、「だれでもトイレ」を設置したアイデアを紹介。トイレの入り口は全体で一つにし、手前に「だれでもトイレ」やバリアフリートイレを設置することで、外からはどのトイレに入ったかが分からないようにする工夫が取られている。教職員・多様な専門職が心地よく働ける環境づくりとしては、東京都板橋区立板橋第十小学校が、フリーアドレスタイプへの模様替えや休憩スペースの設置などを行った事例を紹介。また、学校では教職員以外の専門スタッフの採用が増える中で、職員室内に専用のエリアを設け、安心して業務にあたれるようにしたケースもある。

グループでの話し合いに向いた学校家具も

共創を通じて学校を構想する

 「環境」では、地域産業の集成材・CLT製材等を活用した木造の学校を整備。家具も地元の木工業者がデザインしたものを採用し、地域の木材を身近に学べる空間を創出するとともに、バイオマスボイラーを活用することによって資源循環・地域資源をつくる。
 良好な室内環境に向けた事例では、外壁等を断熱化する、自然通風を取り入れる、天井や壁面に吸音機能を設ける、明るさが調整可能なLED照明を設置するなどが紹介されている。
 「共創」では、小規模な町の学校整備の構想にあたり、コミュニティーデザインの専門家を迎えつつ、住民参加で「どんな教育をしたいか」を協議。生涯学習センターの中に学校を組み込み、子どもたちの活動が地域社会に展開するような新しい時代の学びの場を計画した事例や、構想段階から地域住民や教職員等が設置者・設計者と共創し、新校舎で行う学びをデザインする取り組み、また、使用中の校舎の活用方法について、教職員が専門家と共同で空間環境を改善したり、改修計画の検討に地元住民や教職員が参画し、地域開放の視点を取り入れたりといった取り組みのほか、新校舎の施工や既存教室の改修を児童生徒や地域住民が自ら行うなど、「自分たちで学校を変える」新しい学校づくりの形も披露されている。

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