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造形実験 新しい美術の授業を始めよう!

14面記事

書評

三澤 一実 編
意欲的に学び深める手だて提案

 「造形実験は特に『知識』の習得を中心に据えながら、創造的な『技能』や、『思考力、判断力、表現力等』も伸ばしていく学習活動である」。編著者による、こうした定義付けは、本書に収める7人の執筆者による美術の実践報告(第2~8章)を読むと得心がいく。
 例えば「『緊張感』とは何か?という問いに対して、生徒の多様な実験から、平面や立体、写真、映像などの探究の解(作品)が生まれた」実践。思いを表現するために、試行錯誤し、画びょうを使った針山の上を風船がすれすれに通過していく映像作品(絶体絶命)に結実させた生徒たちがいる。数学で学んだ同心円を三つ紙に描き、紙を丸めてのぞくとゆがんで見えたことから、写真作品(先が見えない)として表現した生徒がいる。このほか「愛」や「光の表現を考える」をテーマにした実践などもある。
 いずれも研究するテーマについて考え抜き(課題把握)、その思い、考えを表現する方法を試行錯誤(実験)して、作品を制作、研究成果を発表するという学習構造が生徒一人一人の学びの深まりを支える。そこには意欲的に取り組む生徒の姿を見ることができても、「先生これでいいですか?」と問う、これまでの生徒の姿はない。
 美術教育の「知識」を再定義しつつ、学習指導要領の改善や生成AIがもたらす表現方法の多様化に対する一つの回答を「造形実験」という新たな手だてとして提案した。
(2530円 武蔵野美術大学出版局)
(矢)

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