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「叱らない」が子どもを苦しめる

14面記事

書評

藪下 遊・高坂 康雅 著
褒めて伸ばす「常識」に一石

 今や「叱らない教育」が「善」、「叱る」のは「悪」、そして「褒めて伸ばす」のが教育界の常識になっている。この常識が、いじめや不登校、非行などの減少をもたらしているならばよいのだが、現実はそうではない。
 評者は、この「常識」にずっと疑問を感じていた。「叱る」ことも時には必要なのだ。だから、本書の刊行を知ったとき「やっぱり、出てきたな」と快哉を叫ぶ思いで手に入れた。果たせるかな「暗夜の一灯」の書物だった。
 世の中は自分の思い通りになんかなるはずがない。それが現実であり、その現実の中でどう生きるか?を育てるのが教育の役割なのだ。本人にとって「思い通りにならない」さまざまな事態を、本書では「世界からの押し返し」と言う。それらは、子どもの成長には本来は不可欠なのだが、今は大人が、その「世界からの押し返し」に慣れていないと直言する。そういう大人や事情の中で、子どもは「万事が思う通りになるし、なるべきだ」という「行き過ぎた個人主義」の「万能感」を身に付ける。平たく言えばわがままな井の中の蛙である。 世の中の現実は甘くない。子どもにはその現実に正対する「生きる力」がないから、拒否や逃避によって不登校、引きこもりになるのではないか。誤解のないように付け加えたい。本書は、極めて冷静かつ多くの事実、事例に基づく学術的で温かい、まさに賢者の一書と推奨したい。
(1012円 筑摩書房(ちくまプリマー新書))
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

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