日経文庫 教育投資の経済学
12面記事佐野 晋平 著
効率・公平性の観点から再考提唱
著者は、本書を通して、日本が長期にわたる経済停滞により直面している教育の所得格差、社会人のリスキリングの必要性の増大などの経済学に関わる教育課題の解決に向けて、教育経済学のエビデンスを紹介しながら、解決に向けた方向性を幾つか提言している。
残念ながら著者が指摘するように、教育問題を経済学の対象とすることに違和感を抱く人は多い。そこで著者は、「教育は人的資本への投資である」という視点から、近年の教育経済学の研究の進展を踏まえ、経済学で教育を考える意義を国内外の研究成果を紹介しながら分かりやすく説明している。
著者は、教育には膨大な公的資金が投入されており、効率性と公平性の両観点から捉え直すことの必要性を説いている。教育は、それを受けた個人に恩恵を与えるだけではなく、他方で公的に恩恵を与える。評者は、この指摘から、Microsoft社の創業者ビル・ゲイツ氏を想起する。彼の成功と社会貢献活動は、一人の優れた人材を育てることが世界に多大な恩恵を与えることを証明している。このことは、ではなぜ、日本では彼のような人材を輩出することができていないのかという問いとなって返ってくる。
今、さまざまな課題に直面している教育に携わる人々に、本書を参考に、「教育は人的資本への投資」であるという視点から、現在の教育問題を分析し、解決策を摸索することを提案したい。
(1320円 発行 日経BP 発売 日経BPマーケティング https://bookplus.nikkei.com/)
(新藤 久典・元国立音楽大学教授)