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教師の自腹

12面記事

書評

福嶋 尚子・栁澤 靖明・古殿 真大 著
解決でなく「解放」目指す

 お金のことを口に出すのは憚られ、我慢や自己犠牲を美徳としがちなこの国で、これまで語られることの少なかった「自腹」の問題。これは大学教員でも、一般会社員でも多かれ少なかれ心当たりのある問題だが、主に公立の小・中学校の「教職員の自腹」に焦点を当てた本書は、前著『隠れ教育費』と同様、公費と私費とのはざまで見過ごされてきた問題に焦点を当てることによって、この国の公教育財政を巡る構造的課題を照らし出している。
 本書のためにインターネットで集められた1034人の声は切実で、その発生場面は授業、部活、旅費、弁償・代償など多岐にわたっており、また教職員の感情面に着目すると積極的自腹・消極的自腹・強迫的自腹にも分けられ、自覚や受容する論理もあるという。そのため著者らも「なくせる自腹」「なくすことが難しい自腹」「なくならなくともよい自腹」に分類し、自腹の解決ではなく「解放」を目指す。
 確かに教職員の意識はアンビバレンスで、積極的ではないにせよ、保護者には負担させられない、手続きが煩雑になるぐらいなら100円均一ショップで済ませた方が―といった声も少なくない。だが、そうした「自発的」な搾取の構造は、改善されない働き方の問題と通底している。本書が提案する教育行政との連携、学校財務マネジメントの確立と意識改革は解放のための着実な一歩となるだろう。
(2310円 東洋館出版社)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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