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学生が主役の地方創生プロジェクト 地方創生カレッジで育む学生の地方創生マインド

11面記事

企画特集

学生は白馬・小谷両村長らの前で自らの案を発表した

 学生の地方創生への思いを育み、「ジブンゴト」として自ら行動に起こすことを支援する取り組みが進んでいる。それが内閣府の補助事業である「地方創生カレッジ」が大学等の教育機関と連携して実施している「学生が主役の地方創生プロジェクト」だ。このプロジェクトは、学生が「地方創生カレッジ」が提供するeラーニング講座を通じて地方創生に必要な知識を学んだ上で、地域の課題や将来を考えるワークショップやフィールドワーク、地元事業者等との議論などを通じて、地方創生に対する学生の意欲や関心の醸成を図る目的で2022年度に始めたという。本稿ではその取り組みを追った。

 「地方創生カレッジ」がなぜ「学生が主役の地方創生プロジェクト」に取り組むのか。それは学生が地域の将来の地方創生を担う人材であり、「地方創生カレッジ」のミッションが地方創生を担う人材の育成や確保を支援することにあるからだ。地域の課題を解決して地方創生に取り組むとき、必ず実践的なノウハウや知識が必要になる。そうした地方創生に関するさまざまな分野の実践的知識や事例等を200を超える無料のeラーニング講座で提供するのが「地方創生カレッジ」だ。
 地方創生のさまざまな分野の知識が必要となるのは「学生が主役の地方創生プロジェクト」でも同じだ。だからこそ「学生が主役の地方創生プロジェクト」では学生が地域の課題を分析し解決案や企画を議論する際に必要な知識を「地方創生カレッジ」で学ぶことで、課題を深堀りでき、地に足の着いた議論につながる。2023年度には秋田県立大学と連携した「学生が主役の地方創生プロジェクト~課題先進県で考える娯楽ではないアソビ~in由利本荘」と法政大学と連携した「学生が主役の地方創生プロジェクト 法政大学生が地域とともに描く Hakuba Valleyの未来」の2件のプロジェクトが立ち上がった。

事例(1)秋田県立大学 地方創生を「ジブンゴト」に

 「学生が主役の地方創生プロジェクト~課題先進県で考える娯楽ではないアソビ~in由利本荘」は、秋田県立大学の学部生を対象とした「あきた地域学アドバンスト」(担当教員:経営システム工学科 嶋崎真仁教授)の授業の一環として実施された。プロジェクトには秋田県立大学の学生だけでなく、社会人や近隣の高校生まで総勢56名が参加した。プロジェクトは、「地域の暮らしを楽しくするには?」をテーマに地方創生に向けて何ができるか、社会人から高校生まで膝詰めになって意見やアイデアを出し合うワークショップと、ワークショップで得た学びを言語化して発表する「地方創生アイデア発表会」で構成された。

eラーニング受講で学びをより深く

 参加者は、事前に「地方創生カレッジ」のeラーニング講座を受講してワークショップに臨んだ。事前に「地方創生カレッジ」のeラーニング講座を受講するのは、地方創生について事前に理解を深めてワークショップに臨むことで積極的に自分の意見が出せるようになる上、理解や認識が深まることで地方創生を「ジブンゴト」としてとらえやすくなるからだ。
 一方で「地方創生カレッジ」には200を超える地方創生に関する講座が収録されている。その中から学生が自ら自分に必要な講座を選定するのは難しい。そこで授業を担当する嶋崎教授が今回のテーマに合った講座を選定した。今回選定されたeラーニング講座は「地域人口推計」と「地域課題解決のためのデータ利活用」の2講座であったが、受講した学生からは「秋田が直面する人口減少問題について知りたいことがぎっしりつまっていた」「地元のつながりの大切さについて理解が深まった」などの声が寄せられた。

世代間交流で地方創生を身近な問題に

 ワークショップでは、地域の高校生から社会人まで多様な世代の混合グループを作り「地域での暮らしを楽しくするには?」を議論のテーマに設定して地方創生に向けてどのようなことができるか議論した。参加者は由利本荘市の暮らしの中での「楽しい時」と「モヤモヤする時」を自由に出し合い、言語化したうえで、モヤモヤを楽しい時に変えていくためにどのような行動が必要か話し合った。ワークショップは1日で終わりだがプロジェクトの本番はここからだ。約2カ月後にワークショップでの学びを言語化してアイデアを具現化するための方策を学生の立場から対外的に発信する「地方創生アイデア発表会」が控えている。約2カ月間も間が空いているがこの約2カ月間は休みではない。学生は、この2カ月間で各グループのアイデアをブラッシュアップしなくてはならないからだ。その過程でアンケートを実施し解析まで行う。参加した社会人や高校生もワークショップで出た「まずやってみよう!」を実践しグループに共有することになっているのだ。だからこの濃厚な2カ月間は参加者にとって「ジブンゴトの熟成期間」だ。その熟成期間を経て殻を破ったアイデアが「地方創生アイデア発表会」で発表された。

1分間プレゼンでアイデア続々

学生は限られた時間で次々にアイデアを発表した

 「地方創生アイデア発表会」は秋田県立大学内のホールで開催された。高校生や市内の商店主、自治体職員など約50名の会場参加に加え、全国から50名超のオンライン参加があった。
 当日は由利本庄市の湊貴信市長に加え、コメンテーターとして地方創生の第一線で活躍している子育て支援団体「ままちょこ」代表の菅原清香さんや隣接するにかほ市の地域おこし協力隊「Ventos」代表の中山功大さんが参加した。
 当日は、14名の学生が1分ずつのプレゼンを行ったが、コメントするのはコメンテーターだけではない。参加者全員がスマートフォンを通じて感想や意見を出せるから発表会は必然的に活発になる。
 発表されたアイデアの一部を紹介すると、市内の公園で豚汁の屋台を名物にした「雪まつり」開催、大学内の空き教室を活用した高校生向けの学習スペース創設、歩いて発電する「発電床」を活用した生活習慣病予防と夜道が明るい街の実現、ディープな地域の祭りやイベントを巡るバスツアーの創設など、ユニークなアイデアに加え、由利本荘地域に特化した生物図鑑アプリの新設、ビジュアル系ロックにジャンルを固定した音楽フェスティバルの創設など個々の関心を掘り下げたプランもあった。いずれも県内や隣県の自治体での成功例を参考にしながら、地域らしい独自性を盛り込んだアイデアだった。

「仲間と共有して、道を開いて」

 由利本荘市の湊貴信市長は「1分間プレゼンのスピード感に圧倒された。若者のさまざまなニーズを集めた上での発表だったので参考になり、実現したいという思いを持った。実現には難しい面もあり、ヒト・モノ・カネという要素が大事になるが、それらを一つ一つクリアすると実現に近づく。『誰かがやる』ではなく、『自分がやる』という思いを持ってほしい」と講評した。
 中山氏は、「どの発表も自分の課題に向き合って、解決策を提示していた。交流が少ないとか、遊ぶ場所がないというのは若者のリアルな声。ぜひここから事業計画書をまとめて、コンテストへの応募など具体的な行動につなげてほしい。計画を作ることによって、収益性にも踏み込んだ具体的なプランに発展していく。行政の補助金も活用して、インプットとアウトプットを同時に進めてほしい」とエールを送った。
 菅原氏は「実現できないアイデアは何一つなかったと思う。ぜひ仲間を作ってほしい。ゼロをイチにするのはものすごい労力がいるが、仲間がいると道が開ける。やりたいこと、目指すことを共有して発信すると、周りが力になってくれる」とアドバイスした。
 学生の指導に当たった嶋崎教授は「発表を通じて、課題が見えてきたのも事実。提案を自分たちでやりたいとは思っていても、具体的にどう進めたらいいかはすぐにはわからない。自分たちの構想の甘いところが見えたとき、それをフォローしてくれるのが『地方創生カレッジ』や事例集ではないかと思う」とまとめた。
 参加者に実施したアンケートでは98%が大変満足/満足と回答しているが、「自分でも考えなかったような素敵な案が沢山あって、正直地元にあまり魅力を感じられなかった部分もあったけれど、今回の『地方創生カレッジ』に参加して考え方が大きく変わったし、まだまだ自分たちの手で魅力的な街にしていけるんだと希望がもてた」(高校生)、「学生の柔軟な発想が新鮮でした。地方創生に興味があるので、こういったイベント自体が面白いですし、もっと各地でやってほしいなと思いました」(社会人)と好評だった。

熱心に発表を聞く参加者たち

事例(2)法政大学 大学から離れた地域での実践的な学び

 「学生が主役の地方創生プロジェクト 法政大学生が地域とともに描くHakuba Valleyの未来」では、法政大学の学生が長野県の白馬村と小谷村という自治体に対して実際に地域課題解決に向けた提案を実施した。テーマは「インバウンドの取り組み」および「雇用・産業の取り組み」だ。東京に所在する法政大学の学生が長野県の白馬村・小谷村の地域課題の解決に「ジブンゴト」として取り組むのだから現地でのフィールドワークは欠かせない。
 フィールドワークでは、小谷村役場・白馬村役場をはじめとして、同地域の産業従事者や関係者へのインタビューを通じて生の声に直接触れた。さらに「みんなの故郷白馬をつくる」を企業理念に掲げる地元企業のreth(株)が現地コーディネーターとして寄り添った。地域課題解決に向けた理論や知識の事前学習も欠かせない。このプロジェクトでは、法政大学キャリアデザイン学部の酒井理教授がプロジェクト・ワークに必要な理論や知識を講義するとともに、「地方創生カレッジ」のeラーニング講座からテーマに沿った講座を受講させることで学生が地域課題解決に取り組む上で必要な知識や理論を習得した。

eラーニングと現地調査の組み合わせ

 地域課題解決に向けた提案は、白馬村村長と小谷村村長の自治体トップに向けて実施するから責任は重大だ。学生たちは提案直前にも地元のステークホルダーとの意見交換会も実施した上で入念に準備して提案に臨んでいる。
 「インバウンド」分野では、地域に長期滞在する外国人旅行者が増える一方で、地域の飲食店数がその需要を満たしていない現状をとらえ、地域の食材を利用した民間事業者が運営する移動販売車の創設を提案した。併せて地元食材を活用した、外国人が好むメニューの開発も進めると構想を発展させた。
 「雇用・産業」分野では、生産年齢人口が減少、夏と冬の観光シーズンに人手不足が慢性化する課題の解決策として、首都圏などの大学生がインターンシップで地域産業の一時的な担い手となるプランを提案した。滞在した学生が地域のファンとなり、地域の未来に関与し続けていけるメリットも強調した。
 発表会は盛況で、発表を聞いた参加者からは、「(学生が提案した)就業体験がキャリアアップにつながる仕組みを構築すればいい」など提案を補う意見も多く寄せられた。

コーディネーターから一言

秋田県立大学 教授 嶋崎 真仁 氏

 アイデア発表会後の交流会で高校生が居残り、大学生や異なる世代の人たちと話し合ってくれたのが意外だった。テーマ設定もちょうどよく、交流が深まり、課題も浮き彫りにできた。
 現実的には学生ができることは限られている。実際に事業を進めていくには、構想を実現に導いた過去の知恵者から学ぶことが大切で、具体的には資金調達に関するテクニックが必要。それを学ぶことで今回の学習にも肉がつくと思う。例えば大学内のイベントでも資金を用意するテクニックは必要になる。それを理解した上で考えると、個々のアイデアがもっと具体的なものになり、自分のやりたいことを引き出すこともできる。学生たちの発想を実現するために、成功体験がある人たちをメンターやゲストとして招くのも手だ。
 そうしたことを学ぶ上で、「地方創生カレッジ」には多くの学者やオピニオンリーダーが講師を務める良質な教材がそろっている。事業を進めた背景や経緯なども詳しく学ぶことができるし、各地の成功事例を学ぶ情報源としても有用だと感じている。

法政大学 教授 酒井 理 氏

 地域の多くの社会課題は、例えば企業にとっての売上のような明確な数値目標がなく、誰かの正解が他の人の不正解であるような複雑性がある。事前学習で地域の問題に的を絞って、そこに関わる人の多様な意見を聞いて考えをまとめ、それを地域の人の前で自らの言葉で表現するのは簡単な作業ではない。悶々とした状況を乗り越えて、答えを導き出す作業そのものが、学生にとっての生きた学びになるはずで、それが地方創生を学びのテーマにするメリットだ。
 今回学生が受講した「地方創生カレッジ」のeラーニングは、地方創生に絡む一般的な課題・事例を、学生それぞれが知識として取り込んでいけるもの。こうした活動は事前の学びとして欠かせない。短時間で複数の講座を学べるのも大きな魅力。今回のプロジェクトでは「地方創生カレッジ」で得た地域の一般的な事例についての知識に、自らの実際のフィールドワークを組み合わせることで、学びの効果がより高まったように感じる。

「地方創生カレッジ」とは

 「地方創生カレッジ」は、地方創生の本格的な事業展開に必要な人材を育成・確保するためのプラットフォームである。地方創生を進めていく上で役立つスキルや全国の優れた事例を学べる他、受講者がイベントを通じて現場で活躍する人と相互に交流できるメリットもある。
 地方創生の第一線で活躍する専門家が講師を務める200を超えるeラーニング講座が収録されており、2024年2月末現在までの延べ受講者は約20万人に達する。いつでも、どこでも、誰でも、スマホやタブレットの無料動画で受講でき、「脱炭素」「SDGs」「デジタル」「観光振興」など、現在注目を集めるテーマについて学べる。
 地域コミュニティーのリーダーから各事業分野の現場の専門家まで、幅広い地方創生人材の育成を支援する「地方創生カレッジ」では、地域をよくするため「知りたい!」「どうしたらいい?」と日ごろから疑問に思う課題解決のヒントが見つかるだろう。
 また、eラーニング講座で身に付けた知識やスキルは、「地方創生 連携・交流ひろば」の掲示板を活用することで理解が深まり、実践事例や参加レポートから地方創生のヒントを見つけることができる。
 「地方創生カレッジ」は、公益財団法人日本生産性本部を補助事業者として実施している。「地方創生カレッジ」事業の詳細はホームページから。「学生が主役の地方創生プロジェクト」も公開中。

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