エネルギー教育の支援で持続可能な未来を担う次世代育成を図る
10面記事端末を操作して自分が実践できる省エネの工夫を選ぶ児童たち
東京ガスが展開する学校教育支援活動
依然として不安定な国際情勢や激甚化する自然災害に備えるための強靭で持続可能なまちづくりなどを背景に、わが国では身近にあるエネルギー・ライフラインを今一度見つめ直す気運が高まっている。東京ガス株式会社では次世代を担う子どもたちがエネルギー・ライフラインについて理解を深め、エネルギーのあり方について自分ごととして考えられることがより良い未来と社会を作る上で必要であるとして、学校教育への支援など次世代育成に力を入れている。本記事では同社が行う学校教育における支援活動の一部を紹介する。
取り組み事例1
新たな出前授業「みんなでエネチャレ」でSDGs学習をサポート
東京都足立区立西伊興小学校
東京ガスの新しい出前授業「みんなでエネチャレ」。エネルギーへの理解を深め、子どもたち一人一人が省エネの工夫に取り組むことを通して、SDGsの達成を目指すというものだ。足立区立西伊興小学校の5年生2クラスを対象に行った「エネチャレ」のトライアル授業を取材した。
まずは、身近な暮らしの中で、ガス・電気・石油といったさまざまなエネルギーが使われていることを確認。児童が住む足立区には工場が多く、強い火力でガラスを溶かすのにガスが使われていることや、気付きにくい場所、たとえば埼玉スタジアムや教室の冷房にもガスが利用されていることを示した。
「これらのエネルギーを使うと二酸化炭素が出ますが、なぜ二酸化炭素が出るとよくないのでしょう?」という東京ガスのゲストティーチャーからの問いに、全員が声をそろえて「地球温暖化!」と返答。日頃からSDGsを学び、環境問題に対する子どもたちの意識の高さがうかがえた。
太陽に温められた地球の熱が、二酸化炭素の温室効果によって宇宙に逃げなくなるのが地球温暖化の仕組み。この地球温暖化によって何が起こるのだろうという問いは、次のような穴埋めのクイズ形式で出された。
・氷がとけ、(1)が上昇して住む場所がなくなる
・これまでのように(2)がとれなくなる
・(3)がふえる
子どもたちは思い思いの答えを口にし、教室はにわかに活気を呈した。正解は(1)海面(2)農作物(3)異常気象。子どもたちの興味を引いたところで、都市ガスの原料である天然ガスは石油や石炭に比べて、燃やした時に発生する二酸化炭素が少ないことから環境にやさしいエネルギーであること、エネルギーの会社だからこそできる、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電といった地球温暖化を防ぐための取り組みについて解説した。
さらに1950年から2100年までの気温上昇(観測と予測)は最大4・8度にも達することを紹介。実際に今夏の熱波の例を出し、気温40度が44度になることを想像してみてください、と地球温暖化を自分ごととして認識させた。
省エネ効果の具体的な数値で児童の興味関心を引き出す
ここからグループワークへ入っていく。各自の端末を開き、2次元バーコードを読み取り、「エネチャレ大事典」のサイトにアクセス。上述の通り、私たちは暮らしの中でいろいろなエネルギーを使っている。つまり、二酸化炭素を生活の中で出していることになる。地球温暖化を防ぐには、どんな省エネができるのか。グループで相談しながら、「エネチャレ大事典」に提示された省エネの工夫にチェックを入れて選んでいく。
このときのポイントは、(1)リビング(2)おふろ・トイレ(3)キッチン(4)生活という4つの場面で、本当に「自分たちがやる!」工夫、1年間続けられる工夫を選ぶこと。たとえばリビングでは暖房の設定温度を下げる、キッチンでは炎が鍋の底からはみ出さないようにする、といった具合。
毎日できそうだという項目を選んでチェックを入れると、1年間で減らせる二酸化炭素の量と節約できる金額が自動で計算される。暖房の設定温度を2度下げると、1年間で減らせる二酸化炭素の量は○○kg、節約できるお金は○○円といったように数値として示されることで、子どもたちは、自身の選んだ日常的な省エネ行動に具体的な効果があることを実感的に学んだ。
一人一人のチャレンジがSDGs達成の第一歩となる
日本中の家庭が協力して二酸化炭素の排出量を減らす。その目標の目安は1年間のチャレンジで、1家庭合計200kg。「1年間で減らせる二酸化炭素の量が合計で200kgを超えた人?」の問いかけに、ほぼ全員が手を挙げた。そして、自身が選んだ省エネの工夫をグループで教え合い、なぜその工夫を選んだかを発表し合った。子どもたちからは「簡単な工夫でたくさんの二酸化炭素が減らせるんだね」「これだったら毎日続けられそう」など前向きな意見が多く上がった。日常でできる小さな工夫を自身で発見・選択させることで、省エネを自分ごととして捉えて、継続的な行動定着が期待できる。
最後に東京ガスのゲストティーチャーが、省エネ行動を1年間継続するために大切なことは「本気・強い気持ち」「あきらめず何度もチャレンジ」の2点であると伝え、「一人一人が目標達成のためにチャレンジしていけば、地球温暖化を止めることができる」と子どもたちに日々の行動変容を促し、出前授業「みんなでエネチャレ」を締めくくった。
取り組み事例2
広がるエネルギー・ライフライン教育
東京都新宿区立四谷小学校
児童へ節水、節電、省エネに協力できることを問いかける香取主任教諭
1月17日、東京都新宿区立四谷小学校で、社会科の公開授業が行われた。単元は4年生の「くらしをささえるライフライン」。香取桜子主任教諭によるもので、「住みよいくらしを続けるために、私たちが節水、節電、省エネに協力できることは何だろう」という目標を設定した。本時は単元の最後の授業だった。
資料を提示して生活に欠かせないライフラインを自分ごとに
まず、これまでの学習内容を振り返った。ダムが渇水している画像や「電力需給ひっ迫警報」が出された際のニュースの映像、天然ガスが約50年後に枯渇する資料を提示。水道局や電力会社、ガス会社が安全に安定して届けるために、工夫していることも確認した。
その後、香取主任教諭は、児童らに本時の目標を提示。ライフラインといわれる水道、電気、ガスを無駄使いしないために、自分たちでできる対策を個人で考えさせた後、グループで話し合わせた。
個人で考える時間には一軒家のイラストを提示し、児童が日常生活をイメージしやすいよう工夫した。各個人で考えている時は「ガスって何に使ってるの?」「水道の節約方法、少なくない?」などと悩む声も聞こえた。
しかし、グループワークが始まると、話し合いは活発に進んだ。その後の発表では「冷蔵庫を開けたままにしない」「LEDを使う」「蛇口をこまめに閉める」「お風呂のお湯を減らす」など、多数の意見が出てきた。
現場の声を聞いて自身の予想を価値づけさせる
児童の発表の後に、東京ガス、電力会社、水道局の三者から、節水、節電、省エネの方法を教わった。
東京ガスの担当者は「お風呂のお湯を沸かす回数を減らす」「料理では蓋を使って熱が逃げないようにする」といったことを紹介。児童からは「簡単だから自分でもできそう」といった声が上がっていた。
電力会社からは「エアコンはサーキュレーターを使って空気を循環させる」「アイロンやドライヤーは消費電力が多いから短時間で」といったメッセージが送られた。
水道局の担当者は「容器に水をためながら使う」などの節水方法を紹介したり、「水を家庭に届けるにも電気を使うから、水道の使う量を減らすと、電気の使う量も減る」と、節水と節電のつながりを示したりした。
香取主任教諭は最後に、お湯を沸かすのにガスを使うことや、水を届けるのに電気が必要なことを受け「水道、電気、ガスはつながっている」「1つ気を付ければ3つとも大切にできるし、1つ無駄にしたら3つとも無駄にしてしまう」と結論を出した。
教員研修会・レポート
エネルギー会社による教員研修会
研修で学んだことをどのように授業化するか話し合う教員たち
東京ガスは、学校教育支援活動の一環として、教員向けの研修会を行っている。その中の一つである経済広報センター主催「教員の民間企業研修」は、通算で33年間受け入れを継続している。本研修会は、公立学校の教員を対象とした法定研修「中堅教諭等資質向上研修」の一つとして実施され、2023年度は8月1・2日の2日間にかけて行われ、新宿区と大田区の小学校から10名、中学校から4名の計14名が参加した。
ライフラインを支える現場を見学
1日目は、オリエンテーションからはじまり、同社の事業概要とSDGsへの取り組み説明に続き、都市ガスの安定供給を常に監視している供給指令センターのリモート見学を実施。ライフラインの安心・安全・安定に対するガス会社の工夫への理解を深めた。午後は扇島LNG基地を見学し、都市ガスの生産プロセスを学んだ。
2日目は出前授業の紹介からスタート。主体的・対話的な学習を支援する同社のプログラムが説明された。続いてのエネルギー講義では、エネルギーを考える視点を養うために、「エネルギーの基本」から「CO2削減に向けて」など、テーマ別に解説がなされた。
午後からは、校外学習先としても人気が高いガスの科学館「がすてなーに」の館内見学。教員たちは暮らしを支えるエネルギーの役割について体験的に学んだ。
研修での学びが多様な授業案に
最後は、研修で学んだことを授業にどう活かすかを話し合い、発表するグループワーク。参加者は4班に分かれ、各班独自の授業案を発表。2年生の生活科で、自分たちで育てた野菜をガス調理する体験を通して、水・ガス・ごみの3つのポイントを押さえる授業案。6年生総合では出前授業を活用し、エネルギーについて学んだことをもとに、自分の生活と環境問題について考え、より良い生活につなげていく授業案などが出された。
いずれの授業プランにも共通していたのは、環境問題などの課題解決に向けて「自分ごととして考えること」と「将来につながっている問題と認識すること」という2点。参加者からは「SDGsという言葉だけが独り歩きし、どうしたら児童に実感してもらえるか、悩んでいました。でも、今回の研修を通し、先生方と話し合う中で、まずは、私たち自身が自分ごととして考えていくことが大切だ、と実感しました」という力強い言葉が返ってきた。
日本社会科教育学会・レポート
教員によるエネルギー教育の研究をサポート
授業で使用したガス管を提示しながら、都市ガスが安全で安定的に供給されていることを説明した
エネルギー教育の課題に迫る
ガス管やマイコンメーターの貸し出し、ゲストティーチャーの派遣などで東京ガスが授業実践の支援をしている社会科自主的研修会(埼玉県)は、日本社会科教育学会の第73回全国研究大会(オンライン)において学習指導要領におけるエネルギーの取り扱いについて研究発表を行った。研究大会は2023年10月28日~29日の2日間にわたり開催され、幼稚園から大学までの社会科教育関係教官および教員が参加した。
同研修会が課題として取り上げたのは、4年社会科の単元「住みよいくらし」において、飲料水、電気、ガスの中から選択して学ぶことになっているが、現状では飲料水を選択した授業実践が圧倒的に多く、エネルギーである電気やガスを選択した授業実践が少ない点、さらに、電気やガスが選択されたとしても、学習指導要領記載の「健康な生活の維持と向上」を学ぶことが困難であるという点だ。
ライフラインの観点から飲料水とガスの共通性を導く
課題解決に向けて、同研修会は単元「住みよいくらし」において、エネルギーである「ガス」を教材とする授業を実践した。授業では、東京ガスのゲストティーチャーから、都市ガスは海外から運ばれて、各家庭に届けられていることや、ガス管の素材として採用しているポリエチレンは柔軟性が高いので地震時の揺れに強く、土中でも腐食しないため、耐久性に優れていることを学び、ガスは飲料水と同じくライフラインとして「安全で安定的に供給されていること」を導いた。しかし、授業を受けた児童はガスを使った生活について「気持ちが良い」「心地よい」という感想を持つことが多く、ガスだけでは「地域の公衆衛生の向上」や「健康な生活の維持と向上」という概念に導くことは困難だったことを指摘した。
このことから同研修会は、学習指導要領の記載を「健康な生活の維持と向上」から「快適な生活の維持と向上」に変更すること、さらに内容の取り扱いにおいて「飲料水は必修とし、電気やガスについてはいずれかを選択して取り上げること」を示すよう提言した。