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「論理的思考」の文化的基盤 4つの思考表現スタイル

16面記事

書評

渡邉 雅子 著
求める能力、教育方法の違いを国際比較

 教育文化のモデルを、「経済原理」「政治原理」「法技術原理」「社会原理」と四つの教育原理に類型化し、それぞれの原理に対応する形で米国、フランス、イラン、日本での小論文や作文の教育、歴史教育を調査し「思考表現スタイル」の違いを提示した。各国固有の「思考表現スタイル」から求める能力、教育方法、初等教育段階からの思考の枠組みが明らかにされ、刺激的である。
 例えば小論文や作文。米国では「五パラグラフ・エッセイ」という型を教えることから始まり、経済効率性などを重視して自分の主張を明確に述べるスタイルを構築した。フランス式小論文「ディセルタシオン」はフランス革命を経験し、矛盾を解決するために弁証法を取り入れ、丁寧な思考と全体構成に重きを置く。イランの作文「エンシャー」は聖典の一節などを結びにし、個人の主張を想定しない。日本の感想文などは「他者の立場から自己の意見を見直すこと」に重点を置き「社会秩序を成り立たせる道徳心を『自己形成』として」養い「共同体の構成員の育成」を目指す。
 著者はそれぞれのスタイルに優劣を付けるわけではない。「自分の立ち位置とその長所短所を自覚した上で、四つの原理の思考表現スタイルを書く・語るコミュニケーションの『スタイル』のレベルで使いこなせるようになること」を今後の日本に求める。著者の提案を真摯に受け止めたい。
(4950円 岩波書店)
(矢)

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