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多様化・高機能化が進む「学生服」「体操服」

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 わが国の高品質なモノづくりを象徴する学生服。その市場は、少子化が進む今も1千億円規模といわれている。こうした背景には、時代によって価値観やニーズが変わる中でも、名制服メーカーがこだわりをもって競い合い、学校・学生にとって魅力的な商品を生み出してきたからにほかならない。では、現在のトレンドはどうなっているのかー。多様化・高機能化への対応が求められる「学生服」「体操服」の最新動向をお伝えする。

学生服の変遷~通学着としての丈夫さから機能性重視へ~

 学生服のトレンドは、戦後に復活した詰襟・セーラー服スタイルによる丈夫で耐久性に優れた通学着が一般化。その後、制服の着くずしが問題視されるようになると私立学校を中心にブレザー制服が採用され始め、一流デザイナーが手掛けるファッション性を重視したDCブランド制服が流行するなど、学校への愛校心を高め、独自性やアイデンティティを表現するオリジナルデザイン制服を採用する学校が増えていった。
 2000年代半ばからはデザイン性に加え、ストレッチ性などの着心地を高める素材、ノーアイロンやウォッシャブルといった手入れのしやすさを迫求した機能的な制服が求められるようになり、現在もこうした保護者のニーズを捉えた高付加価値商品の開発競争が続いている。あわせて、年々猛暑が厳しさを増す中では夏服のクールビズ化もより必要性を増しており、通気性や速乾性のほか、紫外線力ットや透け防止といった機能性を高めた商品によって差別化を図ることが不可欠になっている。
 また、個性化や多様性を尊重する社会が望まれる中で、生徒が主体になって制服のデザインを決めたり、制服の着用を自由化したりする学校も多くなり、2018年頃からはブレザー型の制服にモデルチェンジする学校が急速に増え始めた。そこでは制眼まわりとしてのネクタイ・リボンの組み合わせはもちろん、季節に合わせたブラウスやセーター、パーカー、サマーニット、ポロシャツなどを含めた着こなしを提案することで、生徒のファッション感覚に合った着こなし方の変化も楽しめるようになっている。

ジェンダーレス制服の時代へ

 こうした中で、現在は制服のブレザー化によるモデルチェンジが活発化している。その大きな理由の一つとなっているのが、個々の多様性や性的少数者(LGBTQ)に配慮する動きが広がっていることだ。特に自身の性別に違和を感じている生徒は服装に悩みを抱えていることが多いことから、上着を男女共通のブレザーにして、スカート・スラックスなどの組み合わせを選択できる「ジェンダーレス制服」へと切り替える学校が多くなっている。
 きっかけになったのは、文科省が2015年に性的少数者の児童生徒への配慮を求める通知を出したことで、選択肢を設ける高校の増加に繋がった。その流れはここ数年間で中学校にも急速に波及しており、今や約7割の中学・高校が女子生徒用にスラックス制服を採用しているという調査結果も公表されている。
 すなわち、これからの学生服づくりは、男女それぞれに求めるイメージをデザイン化したものから、自分らしさや誰もが心地よく着ることのできるものヘと変わっていく必要があるといえる。しかも、学校にとっても身近な制眼をきっかけに、生徒たちに多様性を尊重し合う態度や行動を醸成していけるメリットがある。
 だが、ジェンダーヘの配慮を前面に押し出し過ぎると、かえって周囲の反応を気にして「着たい制服が着られない」ケースが生じる懸念もある。したがって、学校にはジェンダーレス制服を採用する前から生徒たちに多様性を尊重する理解を促し、一人一人が自由な意思のもと気軽に制服を選択できる「着やすい環境」をつくってあげることが大切といえる。

エリア標準服の導入が加速

 一方で、自治体単位で制服の仕様を統一化(エリア標準服)する動きも加速している。スケールメリットを活かした共同調達によって価格を抑えることができるからだ。もともと、こうした統一型制服の採用は、制服の着くずしなどが問題視される中で正しい制服の着用を徹底させることや、転校時の買い替えをしなくて済むといった合理的な理由が主だった。
 しかし、制服の購入費用は10年間で平均5千円も高くなっており、価格高騰に伴う家庭での経済的負担を軽減することを自的に、統一型制服を導入する自治体が自立つようになった。その中で、近年では各校が一斉にジェンダーレス制服へと切り替えやすくするために統一型制服を採用するケースも増えている。すでに2020年度から福岡県福岡市や北九州市がスカートとスラックスを選択できる統一デザインの制服を導入したほか、愛知県の犬山市、福岡県の太宰府市、三重県いなべ市の中学校なども追随。静岡県裾野市は市立中学校5校の制服を2023年度から統一し、ブレザーを基調にスラックスとスカート、ネクタイとリボンの選択は性別に関係なく自由に選択できるようにした。

安定供給に向けた生産ラインの効率化を促進

 このような中学校を中心としたモデルチェンジの増加は、制服メーカーにとっては商機を増やすチャンスである反面、安定供給に向けた体制づくりがより一層求められるようになっている。なぜなら、学生服は多品種小ロット生産であるばかりでなく、それぞれの学校に対して入学前の同時期に納品する必要があるからだ。
 加えて、ここ数年間は新型コロナウイルスの影響によって、営業から生産、納品にいたるまで大きなダメージを受けることに。既存のビジネスモデルを変革することが求められるようになり、工場の生産性を高める自動化・デジタル化などの設備投資や配送を効率化する物流センターを新たに整備したり、海外生産の比率を高めたりして対応するところが相次いだ。
 ただでさえ制服業界を取り巻く環境は、少子化・統廃合による市場の縮小や生産・物流コストが増加する中で年々厳しくなっている。それでも他社との競合に打ち勝つためには、学校ごとの多様な要望に応えるとともに、備蓄生産などの生産体制の早期化に努め、しっかりと納期を守ることが欠かせないのだ。
 さらに、小中一貫校や義務教育学校が増加している中では、6年間の着用を想定した耐久性やコーディネートにも力を入れる必要も生まれているほか、コロナ禍で進んだAI自動採寸やEC(電子商取引)サイトを強化し、受注活動から生産、物流までの流れを効率化していくことも重要になっている。

幅広いシーンで着用が広がる「体操服」

 もう一つ、制服メーカーにとって大きなウェイトを占めるようになっているのが「体操服・スポーツウェア」だ。従来、学校の体操服といえば、体育授業の際に着用するための無個性で野暮ったいジャージがほとんどだった。しかし、近年では大手スポーツウェアメーカーとのライセンスブランドを展開する制服メーカーが増え、体操服自体にもデザイン性や機能性が求められるようになっている。
 その理由としては、コロナ禍の感染対策として洗濯が簡単な体操服での通学を認めたり、冬季でも教室の換気が必要になって防寒着代わりにしたりと、学校での着用ルールが変化したことも要因の一つだ。また、多様性への理解が広がる中で性差を感じさせない印象を与えることも利点になっており、ウインドブレーカーやパーカー、スエットなどを加えたセットアップ提案も増加。さらに、2022年に登場して話題を集めたジェンダーレス水着は、すでに300校以上が採用しており、今や大手総合スーパーも販売に乗り出すなど需要が拡大している。したがって、今後学校ではますます制服と体操服をTPOに合わせて使い分ける時代になっていくことが予想されている。
 こうした学校特有のニーズの高まりを受け、制服メーカーではスポーツウェアを代表するブランドに頼るだけでなく、これまでの体育着を扱ってきたノウハウを生かした自社ブランドの開発にも力を入れ始めるようになっている。そこでは、通気性のいいメッシュや消臭機能を付与した生地を使ったり、ストレッチ性や軽量感にこだわったりと、より機能性を高めた商品が次々と登場している。

学生服のリュース&リサイクルも

 一方、予測困難な時代を生き抜く力の育成が求められる中で、今日の学校の課題となるテーマを解決するためのソリューション事業に力を入れる制服メーカーも年々増えている。その内容も、かつては着こなしセミナーなど「服育」が主流だったが、現在ではSDGsや多様性理解教育、探究学習、防災教育などに広がっている。
 また、核家族化や貧困家庭が増加する中では、制服メーカーによる学生服のリユース&リサイクルも大切な役割になっている。例えば学校や制服販売店等に着られなくなった学生服の回収ボックスを設置し、必要な家庭に安価で販売するとともに寄付・支援に活用するなど、持続可能な社会の実現に向けた貢献も重要になっている。

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