教育現場におけるChatGPTやBing AIなどの『生成AI』の活用例と課題
トレンド技術革新やサービス開発が飛躍的なスピードで進展し続けるなか、生成AIの活用が注目されています。
教育現場で生成AIを活用することについてはさまざまな議論がなされ、令和5年7月4日に文部科学省から『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』が公表されました。
この記事では、『ChatGPT』や『Bing Chat』などの生成AIが教育にどのように役立てられるのか、具体的な活用例とそれに伴う課題に焦点を当てて解説します。
生成AIとは
生成AIとは、膨大なデータを基に新しい文章や映像を創出する人工知能のことです。『ChatGPT』や『Bing Chat』、『Canva』などの対話型生成AIは、膨大な量の情報から深層学習によって構築した大規模言語モデル『LLM(Large Language Models)』に基づき、任意の単語や文章に続く単語や文章を推測し、『統計的にそれらしい応答』を生成します。プロンプトと呼ばれる指示文を工夫することで、より精度の高い回答が得られるため、自然に人間と会話をしているかのような応答が可能です。
また、多くの社会人が文章作成、翻訳等の素案作成、ブレインストーミングの壁打ち相手(※)など、生産性向上へ向けて活用をしていることから、さらに注目が高まっています。
※ブレインストーミングの壁打ち相手とは、生み出した意見やアイデアを整理したりフィードバックしたりしてもらうこと。
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
教育現場で生成AIを活用する目的
教育現場で生成AIを活用する目的として、学習や日常生活に情報技術を活用できるようにすることが挙げられます。文部科学省が制定している『学習指導要領』では、情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力と位置づけ、それらを育成していくことの重要性を強調しています。
新たな情報技術である生成AIを使いこなすための力を育てるには、生成AIの性質やメリット・デメリットを十分に理解させることが大切です。
出典:文部科学省『平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)』
教育現場での活用例
教育活動や学習評価の目的を達成するうえで、生成AIの利用が効果的か否かを判断する必要があります。ここからは、教育・校務においてどのように生成AIを活用できるか紹介します。
教育での活用例
子どもたちを教育するうえで、生成AIの活用が考えられる場面として、情報モラル教育や言語学習などさまざまな例が挙げられます。
情報モラル教育
・生成AIを用いて、あえて誤りを含む回答を教材として生成する
・実際にAIにより生成されたものに触れることで、性質や限界などを生徒に気付かせる
議論を深める目的
・グループでアイデアを出す活動の途中段階に、生徒同士の議論だけでは足りない視点を見つけて議論を深める
言語学習
・より自然な英語表現への改善を目指した英会話の相手として生成AIを活用する
・子どもたち一人ひとりの興味関心に沿った単語リスト・例文リストの作成に活用する
・外国人の児童・生徒等の日本語学習のために活用する
プログラミング学習
・発展的な学習として生成AIに高度なプログラミングを行わせる
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
校務での活用例
教師や教育に関わる業務においても、たたき台として生成AIを活用できる場面があります。
児童・生徒の指導に関わる業務
・教材、練習問題やテスト問題、授業準備に生成AIを活用する
学校の運営に関わる業務
・報告書、授業時数の調整、研修や広報用の資料、挨拶文や式辞原稿の生成に生成AIを活用する
その他部活動や外部への対応
・校外学習等の行程作成、文書作成、外国籍の方への文書の翻訳に生成AIを活用する
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
教育現場で生成AIを活用する際の課題
生成AIは、教師の負担軽減や子どもの学習においての補助的な役割として積極的な導入が進められています。一方で、教育現場で生成AIを活用するうえで、いくつかの課題も挙げられます。
真偽を判断しづらい
・生成AIの回答は誤りを含むことがある
・対象分野に関する一定の知識や自分なりの問題意識を持つことが必要
情報保護に関するリスクがある
・生成AIに入力した個人情報が生成AIの機械学習に利用されることがあり、回答として出力されるリスクがある
・AIが生成した回答に不正確な個人情報が含まれるリスクがある
必要なセキュリティを満たしていない可能性がある
・必ずしも必要なセキュリティ要件を満たしているとは言えない可能性がある
・ChatGPTやBing Chatなどの生成AIは、約款内容を踏まえて利用を判断するのが望ましい
著作権侵害になる恐れがある
・AIによる文章を利用する際、他人の著作物との類似性及び依拠性がある場合は著作権侵害となる恐れがある
・生成AIを利用する際は、これらの課題を理解したうえで使用の対象や方法を検討することが重要
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
教育現場での生成AIの活用に関する今後の取り組み
一部の学校を対象にパイロット的な取り組みを進めており、その成果と課題の検証を行っています。以下のような大まかな活用ステージを意識し、情報活用能力の一部として生成AIの仕組みの理解や学びへの活かし方を身につけていくことがガイドラインに記載されています。
・生成AIの仕組み、利便性、リスク、留意点を学ぶ
・よりよい回答を引き出すためのスキルやファクトチェックの方法を学ぶ
・問題の発見や課題の設定、自分と異なる考えを比較・整理するための活用を学ぶ
また、関係機関や企業と連携し、以下のような取り組みを実施することで、学校教育の在り方を改善するのに活かせると期待できます。
・生成AIの活用事例を共有するイベントの開催
・フィードバックを基にした柔軟なガイドラインへの改定
・教育現場や保護者向けの啓発資料や研修への協力要請
教育現場で生成AIを適切に活用するためには、知識の蓄積と多様な支援が必要であると考えられます。
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
生成AIの活用で教育の質向上と校務の効率化を目指す
技術革新が進むなか、生成AIは教育の質を向上させ、校務の効率化により教師の負担を軽減する有効なツールとして期待されています。
しかし、その活用には正確な情報の理解、セキュリティやプライバシーの保護、著作権の遵守など、さまざまな課題が伴います。これらの課題に対処し、生成AIを有効に活用するためには、文部科学省のガイドラインに沿った適切な運用が求められます。
また、教育現場での実践的な活用事例の共有や、継続的なフィードバックに基づくガイドラインの改定も重要です。生成AIの活用は、教育の未来を形作る重要な一歩であり、その可能性を最大限に引き出すためには、教育関係者、保護者、そして社会全体の協力と理解が不可欠です。