日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

教室をDIYで断熱改修 さいたま断熱改修会議による「芝川小・遮熱フェス2022」

12面記事

企画特集

芝川小での断熱改修ワークショップに参加したボランティアと子どもたち

エアコンが効かない教室はもはや限界

 「夏にはうだるような暑さになる教室を何とかしたい」―。2022年8月、さいたま市立芝川小学校は、地域のボランティアや保護者、子どもたちが参加したDIYによる教室の断熱改修が行われた。ここでは、その取り組みを通し、エアコンを導入するだけでは解決しない、今の教室が抱える暑さ寒さ問題をクローズアップする。

外気温と室温がほぼ変わらない状況

 さいたま市立芝川小学校は、築50年を経過した鉄筋コンクリート造。当時建てられた多くの校舎と同様に「無断熱」な建物のため、夏にはエアコンを稼働しても教室の暑さが解消されない状況が続いていた。
 実行部隊となった「さいたま断熱改修会議」は、埼玉県内で活動する工務店と設計事務所、窓や断熱材等のメーカーが集まって発足した有志の団体で、2019年から暑さ対策と省エネの重要性を訴える活動を続けている。前PTA会長から相談を受けたことが契機となり、PTA会、芝川おやじの会、学校+さいたま断熱改修会議による「芝川小・遮熱フェス2022実行委員会」を立ち上げた。目的は、

 (1)夏の暑さ対策を主とした子どもたちの学習環境の改善。
 (2)対策前後の室温等を計測し、対策の効果を数値化して検証。
 (3)ワークショップ形式で実施し、みんなで環境を考えるきっかけにする

 ことだ。
 断熱工事を行う教室は、夏の暑さが最も厳しくなる最上階南端の4年1組とした。東京大学の前真之准教授の協力で温度・湿度・CO2濃度データを計測したところ、夏の授業中はエアコンを最低温度(冷房吹出温度:実測10~13度位 )で運転していても、教室内の温度は朝から30度を超えている状況。窓等からの熱侵入に加え、屋上からの輻射熱を受けることで、外気温と室温がほぼ変わらない状況になっていることが判明した。

教室の天井・壁・窓を断熱改修

 具体的な対策としては、教室の天井・壁・窓それぞれに断熱工事を行うことに決定。天井は既存ボードを外し、155mm厚の袋入グラスウール断熱材を天井裏へ敷き詰める。壁には45mm角の木材を取り付けて、ボード状断熱材を貼り、その上から県産材の杉板で仕上げる。窓には断熱内窓や外付けブラインドを設置したかったが、予算的に難しかったため、容易に取り外し可能な「遮熱パネル」を立てかけた。加えて、廊下の窓にも同様のパネルを設置した。
 これらの工事は保護者や子どもたちも参加するワークショップ形式で行われたのが特徴だ。参加者からは「学校の天井に断熱材が入っていないとは知らなかった」「寒さは重ね着でしのげるが、暑さは個人で対策するには限度がある」といった声が寄せられたという。
 なお、工事に使った資材のほとんどは「さいたま断熱改修会議」の参加企業が無償で提供。工具代や大工の人件費など不足する部分は、「芝川小おやじの会」が中心となって実施したクラウドファンディングによる寄付で補った。実際には天井断熱・窓遮熱・CO2デマンド換気の設置であれば150万円(税込)程度の見込みになるとのことだ。

屋上からの輻射熱を計測する

6~8度室温が下がるなど断熱効果を実感

 断熱改修後の計測では、未対策の教室が32~36度だったものから6~8度室温が下がり、室内の温度ムラも減少。また、窓の遮熱パネル設置だけでも、朝方の室温が3度ほど低下したほか、天井の表面温度が約6度低下し、窓からの熱の流入も激減するなど、断熱工事を行った効果が実感できた。
 さらに、その後には換気対策として、故障していた換気扇を新品に交換するとともに、CO2濃度が1000ppmを超えると自動で換気扇ONとなる換気コントローラーを設置する工事を行った。冬の室温を計測したところ、窓を開けて換気をしていた日は室温17度以下になっていたが、翌日CO2制御による換気に変更すると、室温23~26度にキープできた。また、窓開け換気をしなくても、換気扇の自動制御運転で室内のCO2濃度基準を十分にクリアするなど、快適・省エネには断熱改修と併せて換気制御を行う重要性が認められるかたちになった。
 こうした結果をもとに、学校関係者や地域住民を招いた成果報告会や、役所や議員、住宅業者などを集めた見学会も実施するなど、学校断熱改修の輪を広げていく活動にも力を注いでいる。

学校断熱改修の促進に向けた課題

 「さいたま断熱改修会議」では、今回の工事後における教室内の計測結果から、子どもたちの学習環境の根本的な改善には断熱改修が望まれること。したがって、本来は行政予算での断熱改修が進められるべきだが、ほとんどの自治体の暑さ対策はエアコン設置だけにとどまっていると課題を挙げる。
 その上で、ボランティアによるDIYによる断熱改修には、学校・PTAの理解を得ることや協力してくれる業者を得る難しさがあり、労力や負担を考えると全国的に広げるには無理がある。また、行政的にはその後の維持管理の責任所在をどうするか、学校にも一部の教室だけを改修することに対し、公平性などの課題があると指摘した。
 今後ますます夏季の気温が上昇するとなれば、子どもたちや教職員の健康への影響が深刻化することは避けられない。同時に電気代が高騰する中で、これ以上エネルギーの浪費が続けば、ランニングコストや将来のエアコン設備の更新も含め、さらに財政をひっ迫させることになる。そうした意味でも、自治体は学校の暑さ対策を真剣に見直し、手遅れにならないよう断熱改修などを取り入れていく必要がある。

壁の断熱材を寸法通りにカット(左)窓に「遮熱パネル」を立てかける(右)

企画特集

連載