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映像作家 宮崎駿<視覚的文学>としてのアニメーション映画

20面記事

書評

米村 みゆき 著
翻案に着目、新たな気付き多い考察

 『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』などで知られる宮崎駿監督によるアニメーション映画の幾つかは、国内外の文学作品から何らかの触発や影響を受け、独自の映像世界が創造されている。
 著者によれば、宮崎監督の翻案の特徴は<原作に準拠しつつ添加した脚色>であり、原作を掘り下げて読解し、解釈し、さらに自らの解釈要素を映画の中に再配置している。監督の言葉を借りれば、「無意識の底には個人のものではないものがある」。そこまで掘り下げ、出合うのを待つのである。
 本書は、大学での講義内容を基に宮崎アニメを<視覚的文学>として考察したもので、宮崎作品のファンにとっては新たな気付きに富む大変興味深い考察となっている。
 例えば『崖の上のポニョ』では、車椅子の高齢者たちが水中で自由に歩く場面がある。本書によれば、水没する町は水中世界のアナロジーであり、魚たちと同じように、歩けない高齢者たちが水の中では自由に歩けるようになるという物語上の論理が現れる。
 また金魚に「ポニョ」と名前を付けることで、その存在は宗介にとって「金魚じゃないよ。ポニョだよ」という無二の存在に変わる。
 宮崎作品は楽しい虚構でありながら十分なリアリティーを持つ。だから、単に「面白かった」で終わらない奥深さが残るのだ。
(2200円 早稲田大学出版部)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)

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