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補助金を活用して、理科設備を充実しよう

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企画特集

理科の特性を生かした深い学びのために理科設備の充実は不可欠だ

理振補助を使い、計画的な整備を
 理科は、前回の学習指導要領から授業時間数を増加。日常生活等から課題を見いだす活動や見通しをもった「観察・実験」などの充実により、さらに学習の質の向上を図ることを意図している。したがって、学校設置者や学校は理科教育における「観察・実験」等の教育活動を充実させるため、理科教育設備整備費(以下、理振補助)等の補助金を有効に使って必要な設備の整備を行っていく必要がある。
 理振補助とは、公・私立の小・中・高等学校等の設置者に対して、理科教育設備の整備に要する経費の2分の1(沖縄は4分の3)を補助する制度。補助対象となる設備の基準に関する細目については、理科教育のための設備の基準に関する細目を定める省令において「品目」と「数量」が規定されているが、計量器、実験機械器具、野外観察調査用具、標本、模型等が主な対象となる。
 なお、理振の新基準では、すべての学校が最低限整備すべき設備が、設備がA(最重点設備)・B・Cの三つにランク分けされている。例えば優先的に整備すべき設備(最重点設備)としては、小学校では電子てんびん、電流計、生物顕微鏡、てこ実験器、薬品庫、百葉箱(デジタル製含む)、気体採取器、アクアリウムセット等。中学校では光学台、電源装置、三球儀、顕微鏡など52品目。高等学校ではオシロスコープ、霧箱、放射線測定器、pH計、DNAモデル組み立てセット等が品目化されている。


理振補助の対象とならない少額理科教材は「教材整備指針」で購入できる

中学校の7割以上が重点設備を未保有
 ただし、このような品目を示して計画的・効果的な設備整備を促しているにもかかわらず、重点設備のうち小学校の約20%、中学校の約75%が未保有の状況だ。
 こうした実態には、理振補助は基準金額を限度として補助を行っているため、各学校では理科教育等設備の現有額を把握することが必要だが、そのための理解の促進や台帳管理の難しさが挙げられている。また、理振台帳については、通常、各学校の担当教師や事務職員が管理しているが、理振補助を受けたことがない学校や一定期間理振補助を受けていない学校については作成、管理を行っていない場合もある。
 加えて、コンピューターの本体や基本ソフトなど各教科等の教育に共通して使用され得る設備は対象外とされているが、例えばタブレット端末付き顕微鏡は対象となるなど、どこまで補助対象になるかが分かりにくいことも課題として指摘されている。
 したがって、今後も技術の進展に伴う観察・実験器具等の設備の変化や、学校におけるICT環境の整備状況を踏まえて品目の見直しを行っていくとともに、学校がより申請しやすいような台帳管理の在り方についても検討していくことが望まれている。

「教材整備指針」は理科機器の充実にも
 このほか、理科設備の整備に関連する制度としては、「教材整備指針」を踏まえた「義務教育諸学校における教材整備計画」(単年度約800億円)と、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」(単年度1805億円)に基づく地方財政措置がある。 
 学校に備える教材の品目・数量の目安を示す「教材整備指針」では、理振補助の対象とならない実験観察・体験用教材などの少額理科教材(小学校において1組1万円未満、中学校において1組2万円未満、高等学校において1組4万円未満の実験器具)について、地方交付税による財政措置がなされている。
 その割合は小学校で必要な実験器具全体の57%・約100点におよび、例えば手回し発電機や簡易水質検査器、顕微鏡照明装置などの導入が可能だ。また、中学校でも直流電圧計・電流計、フレシキブルスタンドなど56%・約180点 、高等学校でも直視分光器や燃料電池実験器、鉱物標本など48%・約280点が対象となるため、理科設備の充実に向けて大いに利用していく必要がある。
 さらに、「教材整備指針」で新たに追加された機器では、小学校はプログラミング教育用ソフトウェア・ハードウェアや発表版、中学校は3Dプリンターなど昨今の技術革新を踏まえた教材、特別支援学校は視線・音声入力装置、学校全体で共用可能な機材として拡大プリンター、複合機などがラインアップされている。

理科の特質に応じたICT活用を推進する
 また、このほど2025年度まで延長された「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」では、学習者用や指導者用コンピューター、大型提示装置・実物投影機等の整備のために必要な経費を引き続き補助する。国際数学・理科教育動向調査では、小中学生とも高い水準を維持している一方で、「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」などの資質・能力に課題があることが挙げられている。
 そうした点でも、これからの理科教育には「観察・実験」などの直接体験に加えて、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末を活用する場面を増やし、科学的に検証・探究する力を育成していく必要がある。
 例えば、小学校なら「観察・実験」の過程での情報検索やデータ処理に始まり、デジタル顕微鏡やセンサーを用いた計測との組み合わせによって総合的な考察を図る。児童が相互に情報を交換する、説明する際の手段として活用するなどが考えられる。
 中学・高校では、これにシミュレーションやデータサイエンスなどの技術を用いてデータの分析・検証を加え、個々が主体的に考察を進める。さらに、レポートやプレゼン資料などを作成して自分の考えをまとめる活動につなげていくことが期待できる。
 しかも、中学校理科の新学習指導要領では各学年を通じて大地や気象の変化といった災害のメカニズムについて理解することや、放射線教育が2学年に加えて3学年でも盛り込まれた。こうした自然や身体への影響の仕組みを学ぶ上でも、ICTを使った動画や実験教材の活用は欠かせなくなっている。

わが国の将来を担う理科系人材の育成に向けて
 Society5・0時代を迎え、わが国が今後も国際競争力を維持していくには、新しい価値の創造や技術革新を実現できる付加価値の高い理工系人材の育成がカギを握っており、そのためには初等中等段階からの取り組みが大事になる。すなわち、今後の理科教育には実感を伴った理解に向けた「観察・実験」機会の拡充と、その考察や主体的な学びにつなげるICT活用をより一層進めていくことが求められている。
 しかし、全国的に自治体の財政が厳しさを増す中で、新学習指導要領の実施に必要な設備や教材の整備が十分に手当てされない学校も多くなっているのが現実だ。だからこそ、学校設置者や学校は、これらの国による補助金の特性を理解した上で適切な申請に努め、子どもたちの科学的な見方・考え方を養うために欠かせない理科設備を計画的に整備していくことが求められている。

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