磯村　元信　著
「課題困難校」の現実からの訴え

　長年「課題困難校」の校長を務め、「さらばドロップアウト！」などのタイトルでテレビのドキュメンタリー番組でも紹介された著者の熱い教育論と実践記録である。
　「教育は実践でしか語れない」をモットーとし、「目の前にいる生徒の実態をもとにして高校や高校生の再定義を行い、それに基づいて学校教育を柔軟に見直す必要がある」と説く。それは、進学校以外の多くの高校では基礎学力や学ぶ姿勢を付けるところから始めねばならず、日常的な生活指導の徹底なしに勉強を教えることはできないという学校の現実、大人の想像以上に大きなコンプレックスを抱える子どもたちの現実、「学力至上」神話の袋小路に立ち往生する貧困家庭、ひとり親家庭などの現実に立脚している。
　「教育改革のキラキラとした横文字」を発信するだけで、具体策を「現場に丸投げして役割を終えている」教育行政や、「現場を知らない人の幻想」にすぎない「乾いた言葉」でものを言う評論家への視線は極めて辛辣である。だが、それが多くの教職員の本音だろう。
　学校の大きな変化として「教育の議論をしなくなったこと」を嘆く。学校が教育の場としての輝きを取り戻すには、対症療法的な施策ではなく、教職員が自校の子どもたちのことを真剣に語り合える環境、条件をつくることこそが最優先だと考えずにいられない。
（２２００円　新評論）
（浅田　和伸・長崎県立大学学長）