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からだの権利教育入門 幼児・学童編 生命の安全教育の課題を踏まえて

14面記事

書評

浅井 春夫・艮 香織 編
科学と人権に立脚した性教育説く

 性犯罪や性暴力への批判や問題改善への機運が世界的に高まっている。日本では令和2年6月に「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が示され、五つの課題と方針が省庁の役割分担とともに決まった。その第一が「生命の安全教育の推進」であり、これは文科省が単独で責任を持って推進することになった。
 本書は、Q&A方式でその考え方や取り組みを分かりやすく提案したものである。その主張の核心は「からだの権利教育」という書名に顕著である。「生命」も「安全」も抽象的で曖昧な言葉であり、「いのち」と言い直せば道徳的な内容や印象が強くなって、「科学」と「人権」という視点が欠落しがちだと指摘する。
 子どもたちには、「個々のからだの感覚を尊重して、からだの権利を育んでいく教育が必要」と説く。「自分のからだを科学的に知ること、そして自分の感覚との対話を通し、からだの権利の学習が子どもたちに自分のからだを大切にし、守る力を育む」のだと主張する。
 「いのちの授業」という実践はなされているが、「いのちの尊重」の教育が実を結んでいるとは言い切れない現状への新たな視点を提供し、提言しているのが本書の真骨頂であり、魅力なのだと、読み進めながら納得した。「からだの権利」について、その概念、内容、「境界」「同意」「名称」「性被害」などの極めて具体的事例を明快に解いている。
(1980円 子どもの未来社)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

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