「遊んでないで」と言わないで おもちゃと遊びのキッズビジネス
16面記事柏木 恭典 著
「遊び」の本質的価値を問い直す
自分の子どもに「遊んでないで」と言ったことはない、という親はまずあるまい。
本書は、「子どもたちは遊びの中で最高に洗練された人間らしい重要な能力を発揮しているのだ」との世界的な一学者の言葉を用いて「遊び」の本質的価値への省察を迫る。
現在の日本は「教育は将来の人生のための準備」と捉え、親も保育者も教師も皆「将来の人生」のために、と子どもたちに働き掛け続けている、と指摘。そうなると「遊び」は、もはやせいぜいのところ、「息抜き」「ガス抜き」「気晴らし」でしかなくなり、その地位は失墜する、と著者は警告する。
さらに、「遊ぶこと」は「決して楽なことでも、息抜きでも、気晴らしでもない」「自分自身のすべてを賭けた緊張感や張りのあるスリリングでリスキーな行為であり、何かを学ぶための手段や方法におさまるようなものではない」と断言する。胸を突かれた思いだ。
また「子どもにとっては、いつでも最も集中しているのは遊んでいる時であり、遊んでいる時以上に真剣な時はない」と言い、それは「大人が真剣に働いているのと同じ」とも言う。「遊び」を軽く見てはならない。
今は子どもが遊ばなくなり、遊べなくなってきている。安全性と将来の安定性の過剰重視が「遊び」を「壊滅させようとしていないか」とも。効率偏重社会への警鐘の一書だ。
(2200円 一莖書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)