「熱中症警戒アラート」は役立っているのか?自治体・教育委員会向けアンケート結果より
10面記事気象庁・環境省調査
自治体のアラート活用は6割~関係部署との連携や活用方法に課題~
熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される際に発表される「熱中症警戒アラート」は、熱中症の発生予防にどの程度貢献したのか―。気象庁と環境省は、2021年度・第2回「熱中症予防対策に資する効果的な情報発信に関する検討会」において、協力を得られた一部自治体や教育機関等からアンケートやヒアリングを通じて検証した結果を公表している。
まず、自治体向けの熱中症対策アンケートの結果では、全国7割の自治体で暑くなる前(概ね4月~梅雨が明ける前)に熱中症対策を実施していたが、主な地域において、実施できていない割合の高い項目は、自治体施設への空調導入、電気代補助、行事中止等ルール策定・導入、教育機関への呼びかけ、防災無線・広報車、公共スペース屋根設置・緑化などだった。その理由としては人手や予算不足が最も多く、次に時間不足、担当部局・担当者不在が挙げられている。
次に、「熱中症警戒アラート」を活用している自治体は全国で6割程度だったが、地方別に見ると関東・甲信が8割に迫り、北海道、九州南部及び沖縄では活用する割合が低かった。アラートを活用していない理由では、「活用方法が検討できていない」ことが多い結果となった。
どの時間帯に住民に「熱中症警戒アラート」発表の周知を行っていたかでは、「特に決まっていない」(20%)の割合が最も高く、関東甲信は「当日朝(8~10時)」(46%)、北陸では「前日夜」(21%)となっている。
行事中止や空調導入などの動きには結びついていない
こうした調査結果から、「アラートの活用や熱中症対策への対応は、広報や呼びかけが中心となっており、行事中止、ルールの策定、自治体施設への空調導入などの動きにはまだ結びついておらず、こうした取り組みを推進するための人材、予算、組織体制、関係部署との連携などの課題が多く寄せられている」とまとめている。
8割の教育委員会がアラートを活用 所管学校の「屋外での活動変更・中止」や「冷房設備の稼働」の指導に
続いて、教育委員会向けの熱中症対策アンケートの結果では、何らかの熱中症対策を8割以上が行っている中で、「冷房設備の稼働」の割合は、四国が95%ある一方、北海道が31%であった。「水筒や日傘、帽子の許可推奨」の割合は、東海で87%に対し、北海道では41%。「部活動の変更・中止」の割合は北陸が85%に対し、北海道が23%、沖縄が8%。「ポスター・大型ビジョン掲示」の割合は、近畿で29%に対し、九州南部が8%だった。
このことから、猛暑日になる日が少ない北海道では「冷房設備の稼働」や「授業(体育等)の変更・中止」への意識が低いことや、沖縄では「部活動の変更・中止」の割合が最も低いことが分かった。
文部科学省と環境省が策定した「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」の活用については、「所管学校の指導に活用」している割合が8割。地方別に見て、ガイドライン活用の割合の高い対応は、北陸=「所管学校の指導に活用」(91%)、四国=「研修会、教職員への啓発に活用」(47%)、東海=「運動・行動の指針の設定」(63%)、「熱中症発生時の対応方針見直しに活用」(47%)、「所管学校のガイドライン作成に活用」(44%)だった。
また、所管の学校向けに「熱中症対策ガイドライン」を作成している割合は、関東甲信の教育委員会で32%、全国で21%に留まっている。しかも、アラート発出時の対応を記載する割合は全国で14%しかないという結果になった。
「熱中症警戒アラート」の活用について、所管の学校に対してどのような内容を指導しているかについては、「屋外での活動変更・中止」(64%)、「冷房設備の稼働」(63%)、「部活動の練習の内容変更・中止」(63%)でアラート発表の活用を指導する割合が高かった。指導していない理由では、「気温に基づく対応を指導しているため」「暑さ指数に基づく対応を指導しているため」が多かった。地方別の特徴では、北海道の「必要性が乏しいため」(18%)、沖縄の「何をすれば良いかわからないため」(33%)が挙げられる。
民間企業と連携した講習・研修会や、学校への暑さ指数計の配布に発展した例も
本調査のまとめでは、8割程度の教育委員会において一定程度アラートの活用指導や熱中症対策が実施されていることが確認できた一方で、熱中症対策の内容・対応には地域差が見られており、全体の底上げが必要と指摘。その上で「アラート活用の指導の割合は高いものの、所管の学校向けガイドラインの作成及びアラート活用に関する記載の割合は全国で2割程度と低い。さらに多くの教育委員会において所管の学校向けのガイドラインを作成し、アラート発出時の対応を記載するよう啓発していく必要がある」としている。
加えて、自治体(熱中症対策担当部局)や教育委員会などの団体にヒアリングを実施した結果としては、「アラート活用に関する検討会の実施、民間企業等と連携した講座・研修会の開催、暑さ指数計の購入・学校への配布を行う事例があるなど、積極的にアラートを活用していくための取り組みを実施する事例が確認された。今後アラート活用を普及していく上で、参考となる先進事例の情報収集、周知・啓発を行っていく必要がある」とした。
LINEでの発信や個人向けメール配信にも対応
本調査は、「熱中症警戒アラート」が開始された2021年12月末時点の結果であり、現在は自治体・教育委員会とも、さらに具体的な熱中症予防の指針として活用が進んでいることを期待したい。
「熱中症警戒アラート」は今年も4月26日から運用を開始しており、前日の17時および当日の朝5時に最新の予測値をもとに発表する。環境省熱中症予防サイトや気象庁ウェブサイトで掲載するほか、環境省LINE公式アカウントや、個人向けメール配信も行う。利用する場合は環境省熱中症予防情報サイトのリンクページからの申し込みが必要だ。また、ヤフーアプリなど民間企業による「熱中症警戒アラート」の通知の取り組みも年々広がっている。