高断熱、高効率照明・空調から省エネ化を~学校施設におけるZEB化の実現⼿法等の報告書から~
10面記事老朽化で省エネ性能が低い学校施設
文科省は3月末に、快適で健康的な温熱環境の確保と脱炭素化を推進するため、学校施設におけるZEB化(建物で消費するエネルギーを省エネと創エネによってゼロ以下にした建築物)の実現⼿法や推進⽅策などを取りまとめた報告書を公表した。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、公立施設の約4割を占める教育施設の脱炭素化を率先して進めていく必要がある。だが、公立小中学校施設は築40年以上の⽼朽化した施設が約4割を占め、省エネルギー性能が極めて低い。加えて、普通教室等への空調設備の設置増加や新型コロナウイルス感染症対策による換気対策により、学校施設で使用する一次エネルギー消費量が増加している。
したがって、学校施設のZEB化には、そうしたエネルギー消費構造の特徴を踏まえ、断熱化、空調・照明設備の⾼効率化を図り、建物のライフサイクル全体を通じたCO2排出量を削減していくことが重要になる。それゆえ、本報告書では公立小中学校施設における代表的なZEB化対策の項目として、
(1) 照明器具の高効率化
(2) 外皮(外壁、屋根等)、開口部(窓等)の高断熱化、日射遮蔽
(3) 空調設備の高効率化
(4) 太陽光発電設備の導入
―を挙げている。
年間一次エネルギー消費量の半減が可能
例えば、東京の校舎における技術導入イメージでは、屋根と外壁を高断熱化、窓に複層ガラス、内壁には可動間仕切りを設けた上で、明るさ制御機能を備えたLED照明、高効率空調、前熱交換器を整備。これによって、年間一次エネルギー消費量を半減できるとしている。これは、北海道や沖縄でのモデル校による検証でも同様の効果が実証されているという。
学校施設は屋根面積や開口部が大きいことから、断熱化とともに窓からの熱流出を抑える高断熱ガラスや高性能サッシを導入することや、日射遮蔽には複層ガラスを使用することが有効だ。また、昼光をなるべく取り入れて人工照明の利用を減らす、ライトシェルフでより多くの光を室内の天井部に取り入れる工夫も大事になる。
高効率な空調設備は、冷暖房負荷、熱源機器容量やコストの低減を図ることができる。また、全熱交換器を併せて導入すれば、換気による空調エネルギー消費量が削減され、空調負荷低減も図れる。さらに、コロナ禍で室内の換気が重要となる中で、CO2測定装置を使って適正な外気導入量を制御し、冷暖房時の外気負荷の低減を図っている学校もある。
同様に、避難所として使われる屋内運動場についても、外壁等の断熱化に加え、再生可能エネルギー設備や蓄電設備を導入することにより、自然災害の発災等に伴い停電した場合においても、室内温熱環境を長時間にわたって一定程度保持することができるようになる。
省エネになる使い方を実行していく
学校設置者においては、このような省エネ化を可能にする整備・機器を念頭に、新増築を行う際には積極的により上位のZEB基準を満たすとともに、域内の複数の学校施設に対して費⽤対効果が⾼い取り組みから段階的・計画的にZEB化を図っていくことを求めている。
その上で、学校施設のエネルギー消費量の削減には、設計段階と運用段階を一体的に実行することが重要となるため、導入した設備を適正な状態に維持するための日常的なメンテナンスはもちろん、児童生徒及び教職員の省エネ行動を誘発するため、コントロールパネルなどによるエネルギーの「見える化」や、不在時の停止や室内温度の確認など適切に運用するための仕組みを導入することが重要としている。
例えば、教職員が環境に配慮して施設を利用することができるよう「学校施設運用マニュアル」を作成し、適切に引き継いだり、児童生徒に環境教育の一環として省エネになる使い方を指導したりするといったことが考えられる。