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「マキちゃん母になるそして教師になる」~克己復礼~

関東版

論説・コラム

片山 哲也 群馬医療福祉大学非常勤講師

 「教育は変える事」勿論よりよく変えることである。学生時代それぞれの学生が人生の岐路に立つ。そのときに進むべき我が道を見つけ、未来構想図を描けること、その道しるべを指し示すと言う大きな責任を感じながら多くの学生と接してきた。
 義務校を退職し、その後11年間群馬医療福祉大学で教職を目指す後進の指導の一端を担ってきた。その間多くの感動の場に出会ってきたが、また今年も大きな感動を覚える事ができた。
 入学した学生は十人十色、しっかりと目標を持って入学するもの、とりあえず大学に入ってから考えようと言う学生まで幅がある。本学を令和5年3月卒業の一人の学生の5年間は、彼女にとっては激動の年月であったに違いない。
 クラスメートからの愛称は「マキちゃん」。彼女はこの4月で3歳になる娘がいる。この事実だけで激動の学生生活だったことは容易に想像できる。
 彼女は行動的で明るく、男女を問わず多くの友人が出来る性格の持ち主。ふるさとを離れて一人暮らしをしている中で、親しい学友ができる事は必然の事である。恋をして子どもを授かったのが2年生、これからどうするか、出した結論は結婚し、子どもを産むこと。これが最初の結論。次は学校生活をどうするか、1年休学して、その後復学する。
 2年生の頃、我が道を行く奔放な学生だったマキちゃん。言葉使いなどは時々顰蹙を買う事があるほどだった(これは本人の弁でもありますが)。1年の休学を終えて復帰し、1年後輩のクラスでの学生生活が始まり、再び私の講義に出席してきた。子どもを産み、自身も生まれ変わって復学してきた(私の感想)。
 以前の奔放なマキちゃんも、生まれ変わった「まきさん」も素敵な若者なのだが、何が一番変わったか、それは「私はこの子のためにも教師になって、しっかり生き様を見せられるようにしたい」と明確な目標を持って帰ってきてくれたことである。当然のことながら学びに対する姿勢は別人の様に意欲的になったことも想像に難くない。
 新型コロナで遠隔授業も多くあり、子育てと学業を成立させるにはかえって良い環境を作れたのかもしれないが、この事実を温かく受け入れた「仁すなわち真心を育て人の道を行う」という本学建学の精神は学校にも教職員にも、ましてや、出かけたときには娘の「『ゆかちゃん』の分」といって一つ多く土産を買ってくるクラスメートにもしっかり根付いていると実感し、感慨深いものがあった。
 少子化は将来への最大の課題だと議論紛々だが、少子化対策は生涯にわたって誇りを持って働ける仕事を持つことだと思っている。大学生であっても、子育てができる優しさ・暖かさに包まれた社会であれば、解決の糸口はきっとある。
 「美しい心を行動で表す」これは本学の教育理念である。時間という伝統は短くても、心のつながりという文化は確実に育まれていると実感する。
 マキちゃんはどうなったか。令和5年4月から故郷の小学校教員として正式に採用され希望に満ちて教師としての一歩を踏み出すことになった(勿論この原稿は本人の了解を得ている)。

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