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ポストコロナに向けた学校の感染対策

8面記事

企画特集

新型コロナウイルス感染症の第5類への移行を受けて

 2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は、新たな変異株による流行を繰り返し、いまだ収束する兆しは見られない。この間、学校では子どもの健康や学びを保障するため、張り詰めた糸のように緊張を強いられてきたが、そろそろ次のフェーズへと向き合う時期を迎えている。ここでは、そんなポストコロナ時代に向けた学校の感染対策を探るとともに、教職員の負担を軽減し、安全を担保する各種感染症予防機器を紹介する。

学校の安全を担保する環境整備の充実を

コロナ・インフル同時流行の動向
 今冬の新型コロナウイルスの「第8波」は、昨年の夏を上回る感染拡大になることに加え、季節性インフルエンザも流行し、より多数の発熱患者が同時に生じることが危惧されていた。このため、発熱外来など医療機関の負担を減らすよう、小学生以下や重症化リスクが高い子ども以外は、医療用の抗原検査キットを使って新型コロナウイルスに感染しているかどうかを確認し、自宅療養することが基本となっている。
 だが、現実には今回も各地で医療・救急機関がひっ迫する事態を招いており、死者数もわずか2カ月間で1万5千人を超えるなど、これ以上感染を広げないための一人一人の予防対策が重要になっている。
 こうした中、新型コロナウイルスの影響による公立学校の臨時休業も着実に増え始め、文科省の昨年12月1日時点の調査では、特定の学年・学級の臨時休業を行っている学校は1645校(4・7%)、学校全体の臨時休業を行っている学校は31校(0・1%)となった。
 ただし、年を跨いだ1月24日時点の調査では全体的に減少傾向となり、昨年の同時期と比べるとそれぞれ4727校(13・3%)、1114校(3・1%)を上回る臨時休業は防ぐことができたようだ。
 一方、同時流行が懸念されていたインフルエンザについては、昨年末に厚生労働省が2020年以来、3年ぶりに全国的な流行シーズンに入ったことを発表した。その後、1週間を経過するごとに倍増するペースで感染者数を増やしており、九州地方から関西、関東へと流行範囲を広げている状況だ。また、それに伴って学校での臨時休業も増え始めている。すなわち、厚生労働省が「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を立ち上げて警鐘を鳴らしてきたことが、最悪ではないまでも現実化したといえる。

5月から活動制限の緩和へ
 このように、依然として新型コロナウイルスを中心として感染症への警戒が続く中で、この春からは大きな転換期を迎えることになる。なぜなら、政府が5月8日から新型コロナウイルス感染症を第2類から、規制対象外のインフルエンザ並みの第5類へと移行すると発表したからだ。
 現在の感染症法による分類はSARS、MERS、結核と同じ第2類相当で、感染すると入院勧告、就業制限の対象になり、社会や経済活動に支障をきたすことが問題視されていた。新型コロナウイルスが初めて流行してから約3年が経過し、これ以上足踏みを続けていると、国の財政基盤、人々の生活基盤そのものを揺るがす事態になるからだ。したがって、国内の感染症対策はポストコロナへと大きく舵を切ることになり、医療体制はもとより、人々の行動や学校活動の制限も大きく緩和されるようになる。
 これまでも「第7波」で拡大したオミクロン株における重症化率の低下等を受けて、患者の療養期間の見直し(10日間から7日間)、感染者の全数把握の簡略化、水際対策の緩和などを進めてきたが、今回は国の制度を変えるもう一段アップした緩和政策になるのは間違いない。

子どもや教職員の負担を解消する必要が
 こうした中、学校においても活動制限の緩和を進めなければならない理由がある。それは、コロナ禍の長期化による子どもたちのストレスや教職員の負担増が大きな問題となっているからだ。
 2020年春の長期臨時休校以降、さまざまな側面で「新しい生活様式」を強いられた子どもたちは、就寝時刻の遅れやゲーム・スマホの使用時間の増加、間食の機会が増えるなど生活習慣の乱れが指摘されている。加えて、友達や教員と話す時間が減ってイライラや不安な気持ちが強くなるなど、7割以上が何らかのストレス症状を抱えていることが明らかになっている。
 それらが結果的に、身体の不調や無気力化、不登校を引き起こす要因となっているのだ。とりわけ、今年の春に卒業を迎える中・高校生は、生活習慣の大半の場面で3年間ずっとマスク着用を続けてきた世代となり、思春期に不自由な思いを余儀なくされてきたことでの心身への影響が危惧されている。
 一方で、新型コロナウイルスは集団感染に発展する恐れもあるが、子どもの重症化率は極めて低い。その中で、どちらが子どもの健康にとって本当に大切なのかを真剣に考える時期に来ていることが挙げられる。
 また、教職員においては「新しい生活様式」を順守するための指導における心労に加え、毎日の消毒作業や換気対策が負担となっている。もとより、長時間労働による働き方改革が求められる中で、その負荷はピークに達しているといわざるを得ない。したがって、こうした子どもたちや教職員双方の心理的・身体的な負担を解消するためにも、活動制限の緩和は避けて通れなくなっているのだ。
 だが、新型コロナウイルス自体は決定的なワクチン・治療薬が開発されたわけではなく、収束してもいないのも事実であるから、今後もさらなる感染拡大の波が起きることは避けられないだろう。というのも、すでにアメリカでは新たな変異株「XBB.1・5」の流行が起きており、国内でも感染例が検出されていること。加えて、ゼロコロナ政策が失敗した中国の感染爆発に伴い、新たな変異株出現の可能性も高まっているからだ。
 つまり、学校現場としては活動制限の緩和といつまた感染が拡大するかもしれないという狭間の中で、感染対策にどのように対応していくかが問われることになる。

3年間の知見に基づき、衛生関連機器を導入する
 学校現場がポストコロナを取り入れた上で感染対策を進めていくには、心理的な不安を解消し、消毒作業などにかかる負担を軽減する、学校全体の安心感を担保することが何より重要になる。そのためには、この3年間の知見に基づいた衛生関連機器・用品の導入を積極的に進めていくことが大切といえる。
 なぜなら、これまでの学校における感染対策は、大半が人の手や個人の努力だけに頼りきっていたのが実態であり、それらを少しでも解消するとともに、同時に安心感を与える仕組みがポストコロナへの道を進めることにつながるからだ。
 例えば、今後の学校における活動制限の緩和でもっとも大きな変化になるのは、授業中でのマスク着用の撤廃になるが、多くの子どもたちが密集する教室では、飛沫やエアロゾルを通じて感染者を広げてしまうリスクがあるのも事実だ。そのため教室内での安心感を担保するためにはこまめな換気が必要になっていたが、気候条件や周辺環境の騒音状況によっては子どもの体調や学習に支障が出るため、実施が難しいことも多々あった。
 したがって、教室内の安全を担保するには機械換気設備が整備されているかどうかが重要になるが、整備されていない場合も、老朽化改修時などの機会にはエアコンに加えて必ず換気設備を整備していくこと。同時に、冬季の低湿度によるウイルスの繁殖を減らすためには、加湿器を使って室内湿度を常に40~60度に保つことも欠かせない。近年では校舎の新設時に天井埋め込み式の加湿器を整備するのが標準化しているが、これも改修時には必ず計画に組み入れて整備を進めていきたいところだ。
 そのほか、室内の環境衛生や換気を維持するには、空気清浄機やサーキュレーターも効果的であり、体育館・武道場などは熱中症対策として導入が進んでいる大型扇風機も活用していきたい。

横浜市の全市立学校にCO2モニターを設置
 もう一つ、教室などの室内で感染リスクを下げるためには、室内の二酸化炭素含有率を1000ppm相当に維持することが望ましいとされている。だが、それぞれの教室で「十分な換気」が行われているかどうかを体感で把握することは難しい。そこで、その目安を知る道具として導入を期待されているのが、室内の二酸化炭素濃度を測定できるCO2モニター装置だ。
 本装置を使えば、常に教室内の二酸化炭素濃度を「見える化」できるため、教員がいちいち換気の状況を気にする必要がなくなる。また、LEDランプの色で状況を把握できたり、アラームが鳴って警告してくれたりするタイプもあり、日々の教室の安心感を高めることができる。しかも、CO2モニターは持ち運びが可能なため、音楽室や体育館など換気状況が気になる場所で教育活動をする場合にもモニタリングできるのが魅力だ。こうした取り組みでは、良好な空気環境を保たれているかどうかが数字で明確に分かるため、教職員はもとより児童生徒の換気に対する意識が高まることが報告されている。
 また、CO2モニターは「学校等における感染症対策等支援事業」等で補助対象となっていることから、すでに全国の自治体でも学校への導入や貸し出しを実施するケースが増えている。横浜市でも、今年1月から全市立学校の各教室にCO2モニターを設置。「空気の見える化」を図ること、児童生徒の換気の実践や意識の向上を進めているほか、そのデータをWEB上で公表し、保護者への周知も図っている。

人の手を借りない感染対策を進める
 人の手を借りずにできる感染対策として、今後、学校現場への導入が期待されているのが紫外線照射装置だ。本装置は人体に無害な紫外線を照射してウイルス・細菌を不活化させるもの。光が当たった浮遊するウイルスだけでなく、モノの表面に付着したウイルスも除菌できるため、日常的な消毒作業が欠かせない学校のような多くの人が集まる場所に適した技術になっている。
 すでに多くの医療機関の診察室や待合ホール、大学・高等学校の外来者の出入りが多い受付などに設置が進められているが、特にオミクロン株以降は、空気中を浮遊する細かい粒子によるエアロゾル感染が指摘されていることから、学校の音楽室や放送室、トイレなど密閉空間になりがちな場所には効果的といえる。
 また、学校における衛生環境の改善としてトイレの洋式化改修が本格化している中では、便器や扉・床など接触機会が多い物質表面に、抗ウイルス・抗菌コーティングを施工するケースが増えている。加えて、手洗い場の自動水栓化もトレンドになっており、コロナ禍においてはトイレ以外の洗面台も自動水栓に切り替える自治体が増加中だ。
 集団感染リスクが高い学校では、新型コロナウイルスだけでなく、ノロウイルスやRSウイルスなどさまざまな感染症への対策が重要となり、給食室のドライ化も懸案事項となっている。とりわけ、自ら感染予防を図ることが難しい幼稚園や小学校低学年、特別支援学校などでは十分な警戒が必要になることから、こうした人の手を借りない環境衛生対策をもっと進めていかなければならない。
 なぜなら、学校の感染対策は今に始まったことではなく、今後も新型コロナウイルスのような新たなウイルスが出現する可能性もあるからだ。だからこそ自治体においては、なるべく早期の財源の確保に力を注いでもらうとともに、学校施設の改修時などを通じて環境衛生の向上に積極的にトライしてもらいたい。

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