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未来思考で変わる学校と教育環境

12面記事

施設特集

 学校施設の老朽化がピークを迎える中、子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備が必要になっている。ここでは、未来思考で変わる学校施設をテーマに、新しい時代にふさわしい学校づくりのあり方や、教育環境を向上させる最新の施設設備・機器を紹介する。

新しい価値創造とウェルビーイングな視点をもった学校づくりへ

望む未来に向けて学校を変えていく
 新学習指導要領が目指す個別最適化された学びと協働的な学びに対応した多様な学習空間や、クリーンで高度な教育環境を推進するため、文科省は来年度の概算要求で公立学校施設整備に2104億円、国立大学・高専等施設整備に1000億円、私立学校施設等整備に329億円を計上。また、自治体の負担を縮減する補助率の引き上げや建築費の単価アップなどにも着手している。併せて、国土強靭化に向けた屋内運動場等の防災機能の強化や、コロナ禍の学びの保障に向けた衛生関連機器の導入も加速化していく必要があるなど、これからの学校施設・設備にはより一層の変化が求められている。
 もちろん、その前提には公立学校施設では建築後25年以上の建物が約8割を占めるなど老朽化がピークを迎えており、そのための長寿命化改修が必須になっている。
 その上で、文科省が学校施設のビジョンとして「未来思考で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造する」ことを提唱する理由は、これからの予測が困難で変化の激しい時代には、私たち自身で望む未来を示し、作り上げていくことが求められているからだ。すなわち、今後、学校施設を造り替えていく上では新たな価値を創造していく力や、一人一人や社会全体の幸せを考えたウェルビーイングの思想が欠かせないことを指している。

学びのスタイルの変容に対応する
 このような学校施設の長寿命化改修では、建て替え同等の教育環境を確保することと同時に、ICT活用等による個人及び協働的な学びを展開できる空間や、教室との連続性・一体性を確保し多様な学習活動に柔軟に対応できる空間など、学びのスタイルの変容に対応するワークスペースを整備することが推奨されている。また、そのためには廊下や階段、体育館、校庭など、あらゆる空間を学びの場として捉え直す、柔軟な視点を持つことも大切になる。
 それは、これからの社会に通じる人材を育成するためには、従来までの知識詰め込みに偏重した子どもたちから見て受け身の一斉型授業から、児童生徒自ら自律的・主体的に学び、対話を重ねながら課題を解決していく授業への転換が求められているからにほかならない。
 したがって学校設置者においては、どのような学びを実現したいか、そのためにどんな学び舎を創るか、それをどう生かすかといった新しい時代の学び舎づくりのビジョン・目標を共有した上で、改修計画を立てることが重要といえる。そして、こうした新たな価値を創造していく力を持つことが、学校施設の魅力化・特色化につながっていくことになるのだ。
 現状、アクティブ・ラーニング型授業に対応できる多目的教室の整備率は3割にとどまっており、GIGA端末整備によって使われなくなったコンピューター教室をどうするかといった問題も浮上している。その中で新しい教育環境の姿としては、教室と連続する空間も活用し、高機能のコンピューター室を専門的で高度な学びを誘発する「デザインラボ」として造り変える、映像編集やオンライン会議のためスタジオや情報交換、休息ができるラウンジを設ける、老朽化した公民館、図書館を学校に複合化・共有化する、地域住民との交流・学習の場ともなる「共創空間」を整備するといった動きも起きている。これらや余裕教室の活用を含め、各学校に新しい時代の学びに対応した多様な教育環境をどのように整備していくのか、今後の学校設置者の手腕が問われている。

インクルーシブな教育環境を~バリアフリー化の推進~
 もう一つ、学校施設の長寿命化改修で重要になるのが、インクルーシブな教育環境の実現だ。近年では障害の有無や性別、国籍の違い等にかかわらず、共に育つことを基本理念として、物理的・心理的なバリアフリー化を進め、インクルーシブな社会環境を整備していくことが求められており、学校においても障害等の有無にかかわらず、誰もが支障なく学校生活を送ることができるよう環境を整備していく必要があるからだ。
 特に公立小中学校等施設のバリアフリー化については、すでに2020年5月の法改正によって努力義務化されている。このため文科省では、2025年度末までの整備目標を設定して取り組みの加速を要請。バリアフリー化のための改修事業について国庫補助率を引き上げ、「学校施設のバリアフリー化の加速に向けた取組事例集」を取りまとめるなどして早期の整備を促している。さらに、年末に公表したバリアフリー化の調査結果をもとに、再度、全国の学校設置者に向けて加速化の要請を発出した。
 学校施設のバリアフリー化としては、全ての学校に車椅子使用者用トイレとスロープ等による段差解消を整備すること。加えて、要配慮児童生徒等が在籍する全ての学校にエレベーターを整備することが目標になっている。だが、学校施設のバリアフリー化に関する計画がある地方自治体は増加傾向にあるものの全体の25%にとどまっており、十分な取り組みができているとは言い難い。
 中でも、公立小中学校等の9割以上が避難所に指定されている中で、屋内運動場の車椅子使用者用トイレの設置率が約4割、スロープ等による段差解消も、⾨から建物の前までが8割弱、昇降⼝・⽞関から教室までが6割程度など整備目標に届いていない状況となっている。
 近年では地震時だけでなく、気象変動に伴う豪雨などにより避難所を開設する機会が増えており、高齢者や乳幼児、医療ケアが必要な人などを受け入れる上での環境整備の遅れが表面化している。また、地域に開かれた学校づくりや地域住民の生涯学習の場として多様な年齢層が学校に参加する機会を増やすためにも、バリアフリー化の推進は重要なファクターとなる。

特別支援教室が不足している
 また、特別支援学級に在籍する児童生徒数が10年間で約2倍に増加する中で、全国で4千近い教室が不足していることも大きな課題になっている。この点についても文科省では、各設置者に対し、国の財政支援制度を積極的に活用するなどして、2024年度までに教室不足の解消に向けた取り組みを集中的に行うよう要請している。具体的には、新設校の設置、校舎の増築、分校・分教室による対応、廃校・余裕教室等の既存施設の活用が挙げられる。
 しかも、教室不足という点では、普通教室でも小学校35人学級化に伴って新たな教室の整備や空き教室の活用が必要になっているほか、不登校の児童生徒が25万人に達する中で、通学しやすい教室や相談場所となるスペースの確保の重要性も増している。加えて、国際化で急増している日本語指導が必要な児童生徒(外国籍を含む)に向けた学習空間づくりも、今後急ピッチで進めていかなければならない。なぜなら2021年5月時点の調査によれば、その数は全国で6万人に迫っており、前回調査から14・1%も増加しているからだ。

新築・建替時の木材利用の促進も
 小中一貫校・義務教育学校の新設や少子化による統廃合における建て替えが進む中では、自然との調和や豊かな生活・学習環境に寄与する木造校舎を採用する自治体が増えている。新築校舎全体としても、2020年度に建てられた学校施設805棟のうち、595棟(73・9%)が木材を使用。その内訳は、木造校舎が154棟、内装木質化が441校。木造校舎の学校別では、幼稚園が6園、小中学校が102校、義務教育学校が8校、高等学校が27校、特別支援学校が11校となっている。また、体育館や武道場でも木材利用が進んでおり、今回の調査では新しく建てられた施設の大半が木造、または内装木質化が施されている。
 その上で特徴的なのは、全体の木材使用量の7割以上が国産材を使用していることだ。これにより脱炭素化への効果に加え、地元の間伐材等の利用につながることで地域経済の活性化・地場産業の振興に貢献できることも大きな魅力になっている。
 木材の良さは、地震に耐える強度がありながらも軽量で、断熱性にも優れていること。そして、何より木のもつ温かみや心地よさが子どものストレスを緩和し、授業の集中力を増す効果があることが挙げられる。また、湿度を自然に調節する木材は健康面にも効果があり、木造校舎はRC造校舎に比べてインフルエンザによる学級閉鎖の割合が3分の1という調査結果もある。
 もう一つ、木材利用の促進には施工技術の進化も大きな要素となっている。近年では集成材と製材の最適な組み合わせによる費用対効果の高い施工も可能になっており、その中では建築基準法改正により規制緩和された木造3階建て校舎も生まれている。木材ならではの温かみやデザインを活かした造形により、子どもたちが生き生きと過ごし、学び、成長していける、新しい時代の学び舎として注目を集めている。
 ただし、学校施設の木造施設数はいまだ全体の1割にも達していないため、文科省は今年度より学校施設の内装木質化を標準化するとともに、地域材を活用して木造施設を整備する場合は補助単価を5%加算するなどして木材利用の促進を図っている。

学校家具も変化する必要がある
 さらに、教育環境では施設だけでなく、学校家具もそれに合わせて変化していく必要がある。例えば、これまで一般的に使われてきた教室机ではGIGAスクール構想で導入されたタブレットを活用するには手狭になることから、寸法の大きい新JIS規格の机に切り替えることが推奨されている。ただし、教室机をすぐに買い替えるのは財政的に難しいため、机の奥行を簡易的に拡張できるアタッチメントや落下防止ガードを設置し、対応する学校も多くなっている。
 また、多目的スペースなどを使って個人やグループで自由な学習を展開するためには、学習形態に合わせて容易にレイアウト変更が可能なテーブルやパーテーション、収納性に優れた椅子やさまざまな姿勢にフィットして学習をサポートする机・椅子、リラックスできる木製の机・椅子などを用意することも重要だ。私立高校や大学では個別の学習スペースを設けるところも現れている。
 すなわち、新たに多目的教室などを設計する場合は、単にハード面の整備にとどめず、壁や間仕切りも含めて多様な学習活動を生み出す要素として計画する、学校用家具の設置や活用まで視野に入れて検討していく必要がある。

防災機能の強化も進めていく
 一方、激甚化する風水害や切迫する大規模地震への備えとしては、政府が国策として進める「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(事業規模15兆円)」のもと、より早期に防災機能の強化を図ることが求められている。その一つが、過去の大規模地震で多くの被害を出した屋内運動場等の吊り天井や、窓ガラス、照明、内外壁材といった非構造部材の耐震化だ。
 構造体の耐震化は平成期に実施された対策でおおむね完了しているが、私立学校を中心に対策が未整備の建物が多く残っている。したがって、これを2025年度には70%、2028年度までには100%にすることを目標に掲げている。
 次に、避難者の生活拠点となる体育館では寒暖期に対応した空調設備が欠かせないが、昨年9月時点の文科省調査では整備率が15・3%と遅れが目立っている。2年前の調査では9%だったことを考えると伸びてはいるが、文科省では、これも2025年度までに35%まで押し上げる意向だ。また、教室棟では熱中症対策として普通教室の空調整備はほぼ完了したが、特別教室は6割程度にとどまっている。
 加えて、こうした空調を災害が発生した際にも使用するためには非常用の電気を供給するための備えが必要になるが、自立型発電機・蓄電池の整備も十分とはいえない。したがって、LPガスの備蓄による災害用バルクとしての利用や、地域の電力・ガス会社と連携した供給体制の確保とも併せて、二重三重の対策を練ることが重要になっている。また、災害時のライフラインとなるマンホールトイレを始めとした断水時のトイレや公衆Wi―Fiなどの災害時利用通信の整備。浸水対策としては電源設備の高台化や止水版の設置といったインフラの整備を一刻も早く進めていかなければならない。

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