日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

地域を巻き込んだ交流を通して、未来を担う若い世代を育成

20面記事

企画特集

オリジナルの回収ボックスを作成し小学校へ渡しに行く高校生ら

 ユニクロ・ジーユーを展開する(株)ファーストリテイリング(以下、FR)がUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とともに取り組む、小・中・高校生対象の参加型学習プログラム「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」が今年10周年を迎える。このプログラムは、子どもが主体となって回収した子ども服を、FRが世界各国の難民・避難民に届けるというもの。持続可能な開発目標(SDGs)の考え方とも親和性が高く、昨今の教育現場でさらに注目を集める「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」について、その狙いや背景に迫った。

「服のチカラ」で育むSDGsやESDへの意識

「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」とは
 FRは、服の持つ力を最大限活用するという目的の下、不要になった服をユニクロやジーユーの店舗で回収し、世界各国の難民・避難民へ寄贈するという活動を、2006年よりUNHCRと協働で開始した。
 その後、難民の約半数を占める18歳未満の子ども用の服が慢性的に足りない現状が明らかになり、2013年に始動したのが「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」だ。このプロジェクトでは、FR社員による出張授業を受けた小・中・高校生が主体となり、校内や地域で不要になった子ども服を回収する。回収した服はFRによって、難民などの服を必要とする人々に届けられる仕組みだ。これまでに全国から3570校、のべ38万人の子どもが参加し、約540万着の子ども服が回収されている。
 プロジェクトのねらいは、

 (1) 児童生徒が身近な「服」を通じてグローバル規模の社会課題(難民問題や環境問題)に関心を持つきっかけを作ること
 (2) 「自分にもできる社会貢献がある」と気付き、行動する機会を提供すること
 (3) 服の回収の呼びかけ等を通じて地域社会とつながる機会を提供すること

 ―の3点。

 授業ではまず、リサイクルの意義や、「命を守る」「自分の個性を表現する」といった服が持つ“チカラ”、喫緊の社会課題の一つである難民問題についてFR社員が解説。授業で使用される教材は、学習指導要領に明記された「持続可能な社会の創り手の育成」の実現に向けて毎年内容が改訂されているほか、学校からの要望に応えSDGsとの関連性についても扱うなど、常にバージョンアップされている。
 また、コロナ禍による学校の学習環境の変化に伴い、2020年度からは従来の「出張授業」に加え、「映像授業」「オンライン授業」の形式も追加。さらに、クイズやワーク形式で児童生徒に「私たちには何ができるのだろう?」という疑問を持たせ、世界の社会課題と自分とのつながりを熟考させるなど、児童生徒の学びがより深まるさまざまな工夫がなされている。

社会を生き抜く力を身に付ける
 2022年度参加中の3名の高校生は、在籍していた小学校に当時高校生の先輩が訪れ、回収活動を呼びかけたことが記憶に残っている。「小学生だった当時は子ども服を集めることだけに執着していたが、高校でのFRの授業を受け、集まった服がどのように難民へ届けられるのかが分かり、難民問題についての理解も深まった」と語る。
 本プログラムでの経験が人生の糧になったと語る過去の参加者も多い。
 現在、大学生の橋本さんは高校1年生の時に本プロジェクトに参加。どうすれば小学生に難民についてわかりやすく伝えられるかを考えたことや、周囲の協力を得られれば困っている難民の子どもを助けられることを知ったことが印象深かったという。
 現在、特別支援学校の事務員を務めている岡崎さんは、高校3年生当時、「環境」のテーマでSDGsを学ぶ選択授業にてプロジェクトに参加。高校の代表として責任を持って地域の人々と接したことが貴重な経験になったと語る。「服のチカラ」を学んだことに加え、活動を通じて人を笑顔にできた体験が忘れられないようだ。
 参加校のある教員は、本プログラム参加にあたり狙いとしていた「自分たちができることを目に見える形で体験する」「世界(外)に目を向けるきっかけをつかむ」という2つのことが実現できたと喜ぶ。
 呼びかけや回収活動を通して子どもが主体的に地域を巻き込みながら、校種を越えて交流することで、責任感の醸成や世界に目を向けることにつながる―そんな社会を生き抜くための力を子どもが身に付けられるのが本プログラムの醍醐味だ。


校種を越えた呼びかけで新たな交流が生まれた

次年度応募受付開始は1月5日から
 2023年度の応募は1月5日(木)開始。学校からの申し込みであれば小・中・高等学校(特別支援学校、外国人学校を含む)を問わず参加できる(締め切りは4月19日(水)まで)。
 優れた取り組みを行った学校は「“届けよう、服のチカラ”アワード」で表彰され、受賞校の取り組みはSNSやウェブサイト、事例集などで広く発信される。今年は3年ぶりに臨場で開催予定だ。
 グローバルカンパニーとしてFRが実施する「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」の今後の展開に期待したい。

「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」
 https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/society/youth/school/power_of_clothing/index.html

企画特集

連載