災害時における避難所の環境整備のために「LPガス空調と災害時対応バルク」を導入
12面記事LPガスを備蓄した災害時対応バルク(石ヶ瀬小学校)
愛知県・大府市
地域の避難所となる学校施設では、防災機能の強化として劣化せず長期保管が可能なLPガスを備蓄し、都市ガスや電気が途絶した場合もライフラインを維持する「災害時対応バルク」の導入が進められている。その中で、いち早く公立小中学校への整備を決め、平時から体育館や柔剣道場で、停電対応型GHP(ガス空調)のエネルギー源として活用しているのが大府市(愛知県)だ。そこで、同市教育委員会の宮島年夫教育長に、導入経緯や整備におけるポイントについて話を聞いた。
大府市教育委員会 宮島 年夫 教育長
避難所の環境整備として冷暖房が不可欠
大府市は20年前の東海豪雨で浸水などの大きな被害を受け、将来的には南海トラフ地震が想定される地域でもあることから、地域防災計画に基づき、避難所となる学校施設等に防災倉庫を設置するなど環境整備に力を入れてきた。その上で、「災害が起きた際の避難者に役立つ場所にしたいと考えたときに課題を感じていたのが、夏や冬の時期に不可欠な体育館における冷暖房空調の整備でした。また、近年では児童生徒の熱中症予防の観点からも空調整備は急務となっていたこともあり、2019年度から検討を開始しました」と宮島教育長は振り返る。
ただし、市内の全小中学校に整備するには大きな財源が必要なのも事実。それゆえ、財政に余裕のない自治体では重荷になっており、全国の学校体育館における空調設置率はいまだ一桁にとどまっているのが実態だ。同市でも、避難所の防災機能の強化に積極的な市長の後押しがあったものの、予算を効率的に使い、災害時や平時の学校活動にも活かせる仕組みが求められた。
経済産業省の補助金が決め手に
LPガス仕様の停電対応型GHP(ガス空調)と災害時対応バルクをセットで
こうした中、導入の決め手になったのが、経済産業省の「石油ガス災害バルク等の導入事業費補助金」を活用することだった。これは、自衛的な燃料備蓄のためにLPガス災害バルク等の設置に要する経費の一部を補助することにより、災害発生時においても、公的避難所等に対するLPガスの安定供給の確保を図り、その機能を3日間以上維持させることを目的としたもの。整備費用のうち、補助対象経費の2分の1を補助金でまかなえるため、LPガス仕様の停電対応型GHPの設置に伴う費用負担を大幅に抑えられるメリットがあった。
しかも、LPガスは災害に強い分散型エネルギーとして、過去の大規模震災でもライフラインの維持に貢献した経緯がある。たとえば、東日本大震災では仙台市に設置された「災害時対応バルク」が、地震や津波の被害を受けたにもかかわらず安全点検後すぐに利用されており、耐震性の高さが証明されている。また、北海道胆振東部地震で40時間の大停電に見舞われた函館の病院も、前年に同システムを導入していたことによって長時間発電ができたことが報告されている。
すなわち、体育館近くにLPガスを備蓄しておけば、万が一の際もエネルギー供給を安全かつ迅速に行うことができる。このように、整備費用と防災性の2つの面で優位性があることが選定理由となり、自立型電源を備えたLPガス仕様の停電対応型GHPと「災害時対応バルク」をセットで導入することに決定した。
バルク容量の半分のLPガスで、空調機を3日間稼働
具体的な整備は、2020年度に中学校全4校の体育館と柔剣道場から開始。小学校9校の体育館も、今年の10月中にはすべて設置が完了する予定だ。「災害はいつ起きるか分からないため、早期の対処が必要。したがって、まずは避難スペースが大きく、市内にバランスよく配置している中学校から整備を進め、それから小学校へと広げていく計画となっています」と説明する。
また、災害時には被災から72時間をいかに乗り切るかが重要になるが、同市が導入したLPガスを貯蔵している災害時対応バルクは、半分の量で空調機を3日間稼働できる容量を備えている。加えて、停電時は空調機以外にも、照明や非常用コンセントとして使用できるほか、被災時は愛知県のLPガス協会と優先的に追加供給を受ける防災協定も結んでおり、リスク分散も図っている。
熱中症予防や冬場の行事が快適に
設置後の空調の運用としては、夏は体育の授業や部活動、学校行事で活用し、冬は学校行事で活用している。また、土日は地域のスポーツ活動の際に有料で開放しているのも特徴だ。「災害時に地域の皆さんが避難する場所に、空調が設置されたことを知る機会になれば」と期待する。
また、空調効果の例として宮島教育長は「ご存知の通り、真冬の学校の体育館は冷蔵庫の中にいるようなもので、簡易的な暖房機器はあったものの卒業式などの学校行事や集会を行うには厳しい環境でした。実は、空調を導入する前は断熱性能が確保されていない体育館のような大空間では暖房効率が悪いのではないかと心配していましたが、私が訪問した際も予想以上に暖房が効いており、学校からは大変快適になったと喜ばれています」と指摘する。
近隣自治体からの視察も
このような同市の「LPガス空調と災害時対応バルク」の取り組みに対し、過去1年間で近隣の9自治体が視察に訪れている。そこでも、なぜLPガスなのか、平時の運用はどうしているのかといった点が関心事になっているとのこと。
その中で、宮島教育長は災害時のエネルギー供給として大切なのはリスクを分散させることだと強調する。「学校の教室における空調も、地域によって都市ガスや電気、LPガスなど多様なエネルギー源を使い分けています。今回の事業は災害に強いLPガスを備蓄することで、いざというときにも避難所で空調を使用できるようにすることが前提になりますが、普段の学校活動にも役立てられる意義のある取り組みになったと考えています」と話してくれた。
LPガス仕様の停電対応型GHPの室外機(大府北中学校)
体育館の室内機(大府西中学校)