人新世 科学技術史で読み解く人間の地質時代
12面記事平 朝彦 著
人と地球の共存する未来への指針
地質時代は、生物の繁栄、絶滅を境に区分されてきた。最近、現代は人類がいわば自然の一部として過ごしてきた時代とは大きく異なる、という認識が生まれてきた。そこで、現代を含む時代について「人新世」という新しい地質時代が提案されている。
本書では、まず「人新世」という時代概念が提唱されてきた経緯が説明される。それから、さまざまな科学技術が、誰の手で、どのようにして現れ発展してきたのかが、多くの具体例をもってドラマチックに述べられている。そして、人類がこれから目指すべきは、進化した人間と管理され持続性が保たれた地球が共存する時代(アース・ソサエティ3・0)であると投げ掛ける。ここで著者は、いたずらに危機感をあおるのではなく、人間の可能性を信じつつ、未来への指針を示している。さらに終章では、人新世において、新しい物語創造のリーダーシップを取っていくべきは、1945年に核の惨禍を受け、2011年に大災害を直接経験した、私たち日本人であろうと述べている。
本書は、世界的科学者である著者がうたう、学問分野を超越した「人間賛歌」である。アース・ソサエティ3・0を切り拓くのは、未来に生きる子どもたちであり、その実現は教育に負うところが大きい。多くの教育に携わる者に、未来へ向けての指針を与えてくれる。
(3300円 東海大学出版部)
(渡邉 聡・元静岡県公立中学校校長)