「多面的評価」で大学に多様性
10面記事お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」では、リポートや発表を評価する=同大学提供
大学入学共通テストの導入から2年。英語の4技能試験や記述式問題の導入は見送られたが、各大学の個別入試の改革は着実に進んできた。大学入試改革の柱の一つだった受験生の学力の「多面的な評価」は今、どうなっているのか。
総合型選抜、国立大も本腰
高校教員が学習・活動評定、大学の講義受けリポート
大学入試での多面的評価について、文科省の協力者会議が昨年3月に出した審議まとめでは「志願者と大学との相互選択を促進し、入学後の教育につなげて留年や退学を回避させることが可能となる」などと意義を説明し、各大学に引き続きの改善を求めた。その際、選抜区分に応じて工夫することを訴えている。
多面的評価が積極的に取り入れられてきたのは総合型選抜だ。近年、国立でも実施する大学が急増している。
昨年度から選考方法を変更した北海道大学の「フロンティア入試」(タイプ1)は、受験生の高校での学びや活動を高校教員に評価してもらうという挑戦的な試みだ。大学が受験生の高校に評価軸を提示し、授業の教科や活動について段階別に評価してもらい、その結果を選考に使う。
評価観点は「授業における課題解決で情報を的確に収集し活用する能力があるか」「グループワークではリーダーシップを発揮できるか」など学部・学科ごとに設けているという。
評価に当たって公平性を持たせるため、高校教員向けの評価マニュアルを整備した。高校には評価の根拠資料の提出を求めており、確認して妥当性が認められない場合は大学が評価点の補正を行うという。北海道大の入試課では、従来のAO入試とは異なる点を説明していくことが、これからの課題だとしている。
今年で7回目を迎えるお茶の水女子大学の「新フンボルト入試」。その特徴が1次選抜のプレゼミナールだ。大学で3時間に及ぶ講義を受けリポートを提出する。講義は毎年異なるが、歴史学や素粒子理論など文系・理系合わせて約10テーマを置いている。
また2次選抜では、文系は「図書館入試」、理系は「実験室入試」として、それぞれ面接やリポート作成などを求めている。限られた試験時間の中でも、基礎学力や思考力、適性など大学入学後に必要な能力を測ろうと導入した。
新フンボルト入試は共通テストを課していないこともあり、競争率は毎年10倍近くに及び、不合格者が一般選抜(前期)に出願する割合も25%程度と高いという。入試担当の安成英樹教授は「教員にとって負担は決して軽くはないが、高校生に大学での学びがどういうものかを知ってもらい、関心を持ってもらうための窓口になっている」と評価する。
従来の一般選抜では落としかねない、能力や個性を持った学生を受け入れる総合型選抜には、大学の「多様化」を促すメリットがある。
文科省の集計では昨年度実施の入試で、国立大学の総合型選抜の実施率は約8割で、過去最高を更新した。
国立大学協会は、令和6年度以降の入学者選抜の方針について「18歳人口の減少に伴い、将来的に選抜という視点に加えマッチングの視点が重要視されることも考えられる」などとして、総合型選抜や学校推薦型選抜の重要性を指摘。今後も拡大する考えを示している。
教育学部、一般選抜で導入進む
教職の適性を見極める
一般選抜で多面的評価の導入が進んでいるのが教育学部だ。
東京学芸大学では令和3年度入試から前期・後期の全ての選抜単位で、教員や教育支援職の適性を見るための小論文と面接の導入を始めた。これまでも一部で実施していたが対象を拡大した。
埼玉大学教育学部では令和4年度入試から前期日程の一部学科で面接を導入した。グループディスカッションを実施している学科もある。各教科についての知識・理解、思考力、コミュニケーション能力や教職への意欲などを総合的に評価する。学校教員養成課程の中学校コース社会専修では、小論文を課している。
この他、千葉大学教育学部では教員にふさわしい資質や適性やコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力などを測ることを目的に「専門適性検査」を実施している。集団討論やグループ活動などを行う。
教育学部で小論文や面接の導入が目立つのは、丁寧な選抜によって教職への意欲や適性を見極めたいという大学の思いがある。東京学芸大学では、小論文などを導入したところ、入学者対象の調査で、教職志望の割合が増加したという。同大学の濵田豊彦副学長は教育学部での多面的評価について「教員は人と関わる職業だからこそ、選抜においても意欲や適性などの見極めが一層重要だ」と話す。
教育学部以外でも多面的評価を取り入れている大学はある。佐賀大学では主体的な活動や実績を軸にした「特色加点申請書」を加点形式で実施している。私立の豊田工業大学では、一般入試の1次選抜の合格者に対して、2次選抜で面接試験を実施している。