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新しい学びに対応したゆとりのある教室空間へ

15面記事

施設特集

GIGA端末時代の学びの変容に応える学校用家具

 1人1台端末を活用した個別最適な学びと協働的な学びの実現に向けて、これからの教室には多様な学習スタイルに応える学習空間に創り変えていくことが期待されている。しかし、現実には端末の導入で机面積がさらに手狭になり、アクティブ・ラーニングに適した多目的教室の整備も追いついていないのが実態で、教室環境の改善が急務になっている。ここでは、そうした時代が求める学習空間や学校用家具のあり方について紹介する。

現在の教室環境における課題
 戦後、学校施設は児童生徒の急増による量的確保の観点から、鉄筋コンクリート造校舎の標準設計等を踏まえ、廊下に面して普通教室や特別教室を単純に配置した「片廊下一文字型」の画一的な整備がされた。これらの施設は、壁、窓等の断熱化や照明の省エネルギー化など質的な整備が図られていないものが多く、良好な温熱環境を確保することが困難となっている。
 また、昭和の後半には教育方法の多様化に対応する自由度の高い学習空間を実現するため、多目的スペースに対する国庫補助制度が創設されたが、全国の公立小中学校における整備率はいまだ3割にとどまっている。
 こうした中、文科省は昨年8月、有識者会議がまとめた「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」に関する中間報告案を公表した。そこでは1人1台端末の活用など学びのスタイルが変容する中で、現状の教室面積では空間的な余裕がないことを指摘し、新しい学びに対応したゆとりのある教室を整備するよう求めている。

ますます余裕がなくなる教室空間
 確かに、学校の教室寸法は子どもの体格が変化したにもかかわらず、戦後から基本的には変わっていない。しかも、小学校から高校までほぼ同じスペースになっており、発達段階に考慮した設計にはなっていないところがほとんどだ。国庫補助基準面積では74平方m(73年以降)とされているが、現状の公立小中学校における教室の約7割が65平方m未満となっており、75平方m以上の教室は3%しかない。これは教室の大きさを一律に決めているわけではなく、その決定を学校設置者に委ねていることが要因としてある。つまり、高度成長期に建てられた校舎の設計をそのまま踏襲してきたことがうかがえる。
 文科省は、新型コロナウイルス感染症への対応から教室の座席間隔は最低1mの身体的距離を確保するよう求めているが、64平方mの教室では35人学級が限界で、40人学級では座席がはみ出してしまう。その上、教室空間については、従来から荷物収納ロッカーや掃除用具入れ、配膳台等が備えられてきたことに加えて、1人1台端末等に対応した教室用机や大型提示装置、充電保管庫等の整備が進められていることから、空間的な余裕はますます乏しくなる一方だ。
 したがって、学校の建築時や既存施設の改修時には既存の面積資源の有効活用・再配分を行い、学習・活動内容を踏まえた教室サイズの検討を推進する必要がある。

教科書とタブレットを併用するには机が狭い
 もう一つの課題は、1人1台端末が導入されたことで、従来から指摘されてきた教室机の狭さがより表面化し、問題視されるようになっていることだ。子どもたちが使用する教室机は、99年の規格改正で机の面の縦横をそれぞれ5cmずつ拡大した「新JIS規格」(幅65cm×奥行45cm以上)が用いられることになったが、いまだ公立小中学校の約半数が旧JIS規格のままである。
 近年の学校授業では教科書とノートがB判からA判に大判化されたとともに、学習内容の多様化に伴ってワークシートや副教材を一緒に机の上に広げたりすることが多くなっていた。そこにタブレットが加わったことで、旧JIS規格の机では約8割の学校が「教科書等の教材を広げられない」「タブレットや教材を落としてしまう」などの支障を感じていると答えている。
 すなわち、タブレットを操作しながら、調べたことや考えたことをノートに書き込むことができない。タブレットを常時机の上に置いておけない。特に低学年ではタブレットとその他の教材を出し入れするたびに授業の流れが途切れてしまうといった問題が起きている。多くの学校では4個以上の教材を同時に使用するのが日常化しているため、机面積の狭さは思っている以上に授業の進行を妨げる要因になるようだ。
 一方、新JIS規格の教室机では、決して十分な広さとはいえないにしても、タブレットと教材を同時に使用できることが利点となる。ただし、そのぶん「通路幅が狭くなり机間巡視がしにくい」「机が重くなって移動しにくくなる」といった課題も見受けられる。それでも、新JIS規格の机・椅子は、子どもの体格に合った高さ調整が可能なタイプが商品化されている長所がある。これらを踏まえても、なるべく早く新JIS規格の教室机に変えていくことが望まれるが、今ある机の奥行を簡易的に拡張できるツールも人気を呼んでいる。授業の中で何度も出し入れする必要がなくなり、1日を通して常設することができるとともに、落下防止ガードによって破損リスクを低減できるからだ。

子どもが主体的になれる学習空間を
 こうした中、自由度の高い学習空間の実現に向けて、グループワークや幅広い学習シーンに合わせて容易にレイアウト変更が可能な教室机やファニチャー、場所をとらずにスタッキングできる机・椅子などの新しい学校用家具が登場しているほか、行動観察のデータをもとにしたアクティブな空間づくりの提案も始まっている。また、よりよい学習にするためには機能性だけでなく、モチベーションが高まる空間にすることも大事になることから、子どもの五感に訴える空間デザインやリラックスできる木製の机・椅子など、豊かで快適な教育環境を目指した整備の仕方にも注目が集まっている。
 さらに、コロナ禍における毎日の除菌作業などの教員の手間を防ぐため、「抗菌・抗ウイルス仕様」の机・椅子といった衛生環境に配慮した学校用家具にもニーズが生まれている。

教育の目指す方向性と環境面が一致していない
 新しい学びの実現に向けて1人1台端末というツールは全国の学校に導入されたが、肝心の教室環境は手つかずのままの学校が多い。教育の目指す方向性と環境面が一致していないのは、考えてみればおかしなことだ。その意味からも、子どもたちが学級の枠を超えて多様な考えに触れ、共創できる環境、ICTを思う存分に使って自主学習・研究できる場所、さまざまな発表やコミュニケーションが活発になるスペースの確保など、学校施設を柔軟で創造的な空間へと創り変えていき、学校教育の質を高めていくことが重要になる。
 同時に、地域や学校の実情に合わせて、特色・個性化を打ち出していくことも大切な要素だ。たとえば、小中学校では特別支援学級の在籍者が近10年間で倍増している。そこで、多様性への理解や社会性の向上につなげるインクルーシブ教育の理念を広めるため、通常学級と特別支援学級の子ども同士が交流・共同学習できるよう工夫した多目的室を整備した学校もある。また、グローバル化に伴って日本語指導が必要な子どもの入学が増える中で、彼らの学びに適した教室づくりやコミュニケーションが活発になるスペースづくりなどにも期待したい。

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