備蓄したLPガスを都市ガスに変換 停電時における避難所の空調維持に
18面記事小中学校体育館に設置した停電対応型GHP(ガス空調)(中央)とLPガス容器貯蔵庫(手前)
東京都・足立区教育委員会
足立区教育委員会では全小中学校の体育館に空調設備を整備するにあたり、災害時に都市ガスの供給がストップした場合でも、備蓄したLPガスを活用して電源を確保し、ガス空調の稼働を可能にする防災減災対応システム「BOGETS(ボーゲッツ)」を導入した。そこで、学校施設管理課の淺見課長と岡田係長に導入の経緯や目的について聞いた。
避難所開設時に顕在化した暑さ対策
足立区の小中学校体育館における空調整備は、第一次避難所となる生活環境と熱中症対策を踏まえた教育環境の向上を目的に計画。18~19年度に3校での設置・検証を経て、昨年度までに全104校への整備を完了した。そのうち、「BOGETS」は92校に付随して整備されている。
「体育館への空調の整備が加速したきっかけは、令和元年台風19号により避難所を開設したことでした。まだ暑さの残る時期で湿度も高かったため、避難者が体調を崩さず長時間過ごせるような配慮がさらに必要だと考えたからです」と淺見課長。
空調と併せて「BOGETS」を導入した理由は、すでに整備を終えていた普通教室の空調とは異なり、避難所となる体育館には防災機能を強化することがポイントになると考えたからだ。それは、区民の生命・財産を守る防災・減災対策の強化に役立つ公共施設の整備に対して積極的に取り組む区全体の方針とも合致した。
「今の生活にとって電気はなくてはならないもの。特に寒暖差の激しい時期に起きた災害時には、空調を維持して高齢者を含めた避難者の健康を損ねないようにすることが非常に重要になります」と指摘。したがって、都市ガス及び電気が供給されなくなったときでも稼働できる技術はないかと探したという。
被災から72時間の電力の確保、ガス空調の稼働を可能に
近年LPガスは安全設計に加え、劣化せず長期保管が可能なことから「備蓄エネルギー」としての注目が高まっている。「BOGETS」は、その備蓄したLPガスを原料に「ガス変換器」を使って都市ガスと同じ燃焼特性を持ったPAガスを作り出すとともに、ガス非常用発電機や停電対応型GHP(ガス空調)を組み合わせ、電気もバックアップできるのが特徴だ。
「災害では被災から3日間(72時間)をいかに乗り切るかが重要ですが、たとえ自家発電機が設置されていたとしても、その期間の電力をまかなうことは難しい。そうした点からもLPガスを備蓄しておいて、いざというときに役立てるのが現実的な対策だと思います」
誰でも復旧できる音声ガイドを搭載
また、もう1つの魅力になるのが、気が動転する災害時でも誤りなく操作できる音声ガイドによる手順ナビゲーション。タッチパネルに触れていくだけで、誰でも切り替えができる簡単操作を実現していることだ。しかも、ガス漏れの検知や誤作動を自動制御する安全機能も搭載しているので、いざという時その場にいる人が復旧できる。
とはいえ、こうした装置は災害が発生して初めて活用するものなので、日頃の備えが大切になる。岡田係長は「各避難所運営組織等を通じて地域や関係者へ周知するとともに、今後は学校単位の防災訓練などの機会に試運転などしてもらい、万が一の際にスピーディーに活用できるように準備してほしいですね」と期待した。
LPガスを都市ガスに変換する設備「BOGETS」